第3-4話 終わりゆく生を飾る為
文字数 1,511文字
ジェロことゼロ・スタテンドは、生と死を司る竜『黒刻竜 』との戦闘の中で死んだ。黒刻竜は変わった竜で、人の魂を喰らうことを好んだ。口から吐き出す竜炎 で人の肉体を焼き滅ぼしながらも、生を停めて死を停め、結果として、肉体を失ったものの、死ぬことも生きることも出来なくなった命名不明の存在は、魂という形で現実世界に置き残されてしまって、黒刻竜に食らわれるのだ。
ジェロもその通り戦闘の中で竜炎を受けたのだが、ジェロの不幸は黒刻竜と差し違えになったということだった。ジェロは竜炎を受けるその瞬間、黒刻竜に封印の剣を刺してその活動を止めた。自身は竜炎を受けて、魂だけの存在となり、この世に留まらざるを得ない状況となった。
彼は悩みながらも、この時代に人が犯した罪を繰り返さぬ為、ギルボーグに一度だけ現れてから、休眠状態の黒刻竜の背に、生き残った部下たちと村を作った。封印を守り、休眠中の竜を守るために。
土を運び、種を運び、色々なものを人知れず、黒刻竜の飛翔高度を超える標高を持つ山々から少しずつ運び入れて、貧しいながらも暮らしていけるだけのものを作り上げたのだ。
それが、竜の背--『リュゼ』の成り立ちであった。
その後も、彼 の山々には、生き残った部下達が住み続け、黒刻竜が近づく度に資源を提供した。彼らをリュゼでは、『ヤマオイ』と呼んだ。
ジェロは人々からこの村を隠す為、元々黒刻竜との戦いで導術に長けた導師たちの隊長であったナナイの先祖を『導師長』と呼び、リュゼを雲で隠させ、歩兵達を指揮したマルオーイの先祖を『兵長』と呼んで、急場での守護を勤めさせた。その他にも、当時の役割をその家々の役割として与えて、村に秩序と仕事をもたらした。
そんな生活の中で、ジェロは一つのことに気付いた。自分の魂が徐々に薄くなっている--。それは導術を使うほど進行が早くなり、回復することはなかった。後継者を見つけなければ。ジェロは焦った。しかし、それほど都合良く現れるものでもなかった。
生きている頃は、導術を使い、導術の燃料となる導力がなくなったとしても寝れば回復したが、魂の状態では導力が回復することもなかった。桶に汲んだ水のように、使えば使うほどなくなるだけで、水源のように溢れ出してくるものがない。
導力とは即ち魂なのだ。ジェロは気付いた。
魂は肉体を宿木にして、時に魂を消費して、時に休みながらも、風を起こし、氷を作り、焔を灯して、ありとあらゆる変化を世の中にもたらしている。
つまり人には、その魂には----。
世界を変える力がある。
ジェロはそこに希望を覚えた。
ジェロは、エルを見た。話を聞く為、エルの目は焦点が時々ぼやけていても、こちらを一心不乱に見射抜いていた。たとえ世界が悪き者に染まっていこうとも、それを塗り替えるほどの魂の在り方をすれば---。経年により背景の木々が透けてみえるようになってしまった、魂だけの存在であるジェロは、その薄れた顔でエルに微笑む。エルは真っ直ぐ見つめ返した。
「エル、お前が朝になれ。たとえどれだけ深い夜を迎えようと、みんなが朝日を待っている」
エルの混乱した頭では理解しきれなかった。それでも二人の信頼関係が、ジェロが伝えようとした芯の部分を伝播した。
初めてリュゼに来た頃のエルとの思い出が、ジェロの胸の中に去来する。あの小さく、か弱かった子供が、ここまで大きくなった。生きている頃も子供が居なかったジェロにとって、感じたことのない感傷に晒された。
嵐の中で灯る小さな火が消えないようにと、ずっとその掌で守ろうとしてきたジェロは、エルの心にその火を移す。確かに火の灯るエルの目を確かめたジェロは、最後の大一番に出ることを決めた。
ジェロもその通り戦闘の中で竜炎を受けたのだが、ジェロの不幸は黒刻竜と差し違えになったということだった。ジェロは竜炎を受けるその瞬間、黒刻竜に封印の剣を刺してその活動を止めた。自身は竜炎を受けて、魂だけの存在となり、この世に留まらざるを得ない状況となった。
彼は悩みながらも、この時代に人が犯した罪を繰り返さぬ為、ギルボーグに一度だけ現れてから、休眠状態の黒刻竜の背に、生き残った部下たちと村を作った。封印を守り、休眠中の竜を守るために。
土を運び、種を運び、色々なものを人知れず、黒刻竜の飛翔高度を超える標高を持つ山々から少しずつ運び入れて、貧しいながらも暮らしていけるだけのものを作り上げたのだ。
それが、竜の背--『リュゼ』の成り立ちであった。
その後も、
ジェロは人々からこの村を隠す為、元々黒刻竜との戦いで導術に長けた導師たちの隊長であったナナイの先祖を『導師長』と呼び、リュゼを雲で隠させ、歩兵達を指揮したマルオーイの先祖を『兵長』と呼んで、急場での守護を勤めさせた。その他にも、当時の役割をその家々の役割として与えて、村に秩序と仕事をもたらした。
そんな生活の中で、ジェロは一つのことに気付いた。自分の魂が徐々に薄くなっている--。それは導術を使うほど進行が早くなり、回復することはなかった。後継者を見つけなければ。ジェロは焦った。しかし、それほど都合良く現れるものでもなかった。
生きている頃は、導術を使い、導術の燃料となる導力がなくなったとしても寝れば回復したが、魂の状態では導力が回復することもなかった。桶に汲んだ水のように、使えば使うほどなくなるだけで、水源のように溢れ出してくるものがない。
導力とは即ち魂なのだ。ジェロは気付いた。
魂は肉体を宿木にして、時に魂を消費して、時に休みながらも、風を起こし、氷を作り、焔を灯して、ありとあらゆる変化を世の中にもたらしている。
つまり人には、その魂には----。
世界を変える力がある。
ジェロはそこに希望を覚えた。
ジェロは、エルを見た。話を聞く為、エルの目は焦点が時々ぼやけていても、こちらを一心不乱に見射抜いていた。たとえ世界が悪き者に染まっていこうとも、それを塗り替えるほどの魂の在り方をすれば---。経年により背景の木々が透けてみえるようになってしまった、魂だけの存在であるジェロは、その薄れた顔でエルに微笑む。エルは真っ直ぐ見つめ返した。
「エル、お前が朝になれ。たとえどれだけ深い夜を迎えようと、みんなが朝日を待っている」
エルの混乱した頭では理解しきれなかった。それでも二人の信頼関係が、ジェロが伝えようとした芯の部分を伝播した。
初めてリュゼに来た頃のエルとの思い出が、ジェロの胸の中に去来する。あの小さく、か弱かった子供が、ここまで大きくなった。生きている頃も子供が居なかったジェロにとって、感じたことのない感傷に晒された。
嵐の中で灯る小さな火が消えないようにと、ずっとその掌で守ろうとしてきたジェロは、エルの心にその火を移す。確かに火の灯るエルの目を確かめたジェロは、最後の大一番に出ることを決めた。