第29話 犯人を捕まえるぞ!
文字数 2,623文字
杏奈と女子高生は、土管に座って話していた。
ミャーは、女子高生の足元にすりより注意深く話を聞いていた。
女子高生の名前は坂口マユカ。そう、あのカルト信者・坂口の登校拒否中の娘だった。
今朝 マユカは両親がケンカしはじめ、たえられなくなって逃げてきたという。
「最悪だよ。父が不倫しているなんて。しかも両親とも銃価信者だなんて」
マユカは自称・コミュ障だったが、ミャーがいるお陰かペラペラとよく話してくれた。
「朝からずっとお経唱えたり、銃価の集会にも子供の頃から強制参加。勘弁してほしい」
心底両親のカルトっぷりにマユカは困っているようだった。
頭上でカラスが間抜けな声をあげて鳴いていた。マユカの話す内容は呑気なものではないが、カラスの声を聞いて杏奈は少し冷静になってきた。
「そういえばカルトの子供ってメディアで問題になっていたわね」
「そうよ、杏奈さん。宗教なん大嫌いだよ」
杏奈は英語教師時代は高校生に教えていた。別にカウンセリングのプロではないが、世間の人よりは慣れている。杏奈は辛抱強く、マユカの愚痴を聞く。
銃価が売るパワーストーンやお札も高額のようで、坂口一家の家計も圧迫しているらしい。
「あんなパワーストーンやお札でパパの不倫止めるわけ無いじゃん!」
「それは同感ね」
一円の得にもならない事が嫌いな杏奈にとっては、パワーストーンやお札に頼る気持ちは全くわからない。
「ミャーちゃんのところのキリスト教はお札売ってなかったけ? 歴史の教科書で読んだよ」
『免罪符ね。昔、カトリックがやってたけど、そんなもので罪が浄められるわけ無いじゃない。だから、ルターが宗教改革やってプロテスタントっていう宗派が生まれたの』
「ミャーちゃんは色々知ってるのね」
『バチカンなんかはイメージ悪いけど、それはキリスト教の全てでは無いから。まあ、今のプロテスタントの信者も自由恋愛したり、サンデークリスチャンが多かったり問題ある多いけどね。ルターの言ってる事真似して万人祭司とか言って無教会派も超多いし、終末にはプロテスタント信者にも裁きはあるでしょう』
「そっかー。どこの宗教も問題あるんだ」
「マユカ、それは私も初耳ね。カルトじゃない伝統宗教は問題ないように見えてたわ」
『そうね。カトリックも色々問題あるけど、プロテスタントよりは行いはしっかりしてるのよね。プロテスタントの連中、この世の人達みたいに自由に彼氏とか彼女作りすぎねー。本当は結婚前の性交渉は我慢しなきゃいけないけど、プロテスタント信者はあんまり守ってないわ』
マユカはミャーを抱き上げ、膝の上に乗せる。心底嬉しそうのミャーの背を撫でている。こうして見ると普通に猫好き女子高生だ。カルト信者が両親だなんて杏奈は胸が痛い。日本は信仰の自由があると言うけれど、何も知らない子供には無いではないか。
そういえば台湾に住んでいた友達が一人いるが、向こうでは学校で宗教について習う時間があるという。日本はそんなものはなく、歴史の授業でサラッと流すだけだ。
自由というのは選択がある事だ。マユカの状況は選択なんてなく、親に言われたままにカルトに関わってしまう状況は、社会の構造的問題にも感じる。せめて学校で宗教について学べる時間があっても良いと思うのだが。杏奈は、マユカの状況については自己責任だとは決して言えなかった。
『マユカの状況はわかったわ。で、この町で猫が死んだり、いなくなっている事は何か知ってる?』
マユカは目が泳ぎ、口籠るがミャーの可愛さに負けたようだ。ミャーの背中を撫でながら、事情を話し始めた。
マユカのよると銃価では「願いを叶える儀式」というのがあるらしい。それは猫を生贄にし、天使サマを召喚し願いを叶えて貰うものだった。
少し意味合いは異なるが、藤也が言っていた悪魔崇拝儀式そのものだった。ということは藤也が言っていた事が正しかったわけだ。ミケ子は銃価のこも儀式で殺されたと見て良いだろう。
『でも何で猫なの?』
「わからない。ただ、猫は汚れた動物だから殺してもいいんだって。そうすると猫も来世で良いものに生まれ変われるっていう教え」
マユカの説明を聞いていると、人間の自分勝手さの杏奈の表情が曇る。ミャーがいつか言っていた「人間の罪のせいで動物が巻き添いくった」という話も本当なのかもしれない。
杏奈はよく知らないが、ペット業界も闇が深いと聞く。玉子や肉、牛乳も動物にとっては残酷な方法で得ているらしい。
別にベジタリアンになりたいわけではないが、わざわざ動物を痛めつけて肉や卵を得る事は必要なのかわからない。ミャーがいう罪という事はよくわからないが、結局人間が自分の欲望を抑えきれないから、動物が傷ついているという事は杏奈も理解できた。動物が「人間よ、自分の欲望を悔い改め、神様と和解しろ」と願っていたとしても、不思議ではない。
「この町であった三毛猫が殺された件だけど、銃価の連中の仕業ね。うちの親は実行部隊でさ、動物を誘拐するのが仕事なの」
こうしてマユカの証言をえて、ミケ子を殺した犯人があっさりとわかってしまった。やっぱり藤也の言う事は間違いなかったようで、杏奈はため息が溢れる。
本来なら仕事の準備をする時間を過ぎているが、今日は仕方ない。マユカの話を聞くのが優先だろう。
「銃価の連中、また猫殺すみたい。うちに一匹白い猫いるし。たぶん、今日の夜。気をつけて」
マユカの話を聞いて、時間が迫っている事に怖くなったが、この忠告するような口ぶりはSNSの届いていたDMを思い出す。聞くと、やっぱりマユカが杏奈のSNSにDMを送っているようだった。
『でもどうするの、杏奈。このままでは、ナァちゃんも殺されちゃうわよ』
「杏奈さん、銃価の連中を止めてくださいよ!」
マユカに泣きつかれたが、どうすれば良いのかわからない。
「警察は頼っても無駄。うちらの町の警察、ほとんど銃価信者だもん。言っても聞いてくれないよ」
さらにマユカにこんな事も言われ、杏奈は頭を抱える。
「どうしよう……」
単なるネコ殺しだとは思っていなかったが、もうこの事件は杏奈の手に負えない。
とりあえず、ミャーやマユカを藤也に教会に連れていき、丸投げする事にした。
「よし、銃価の連中を捕まえるぞ!」
逆に藤也は、燃えていた。
この事件、どうなる?
とりあえず、猫のナァだけは助かって欲しいと願いながら杏奈は自分のカフェに向かった。
ミャーは、女子高生の足元にすりより注意深く話を聞いていた。
女子高生の名前は坂口マユカ。そう、あのカルト信者・坂口の登校拒否中の娘だった。
今朝 マユカは両親がケンカしはじめ、たえられなくなって逃げてきたという。
「最悪だよ。父が不倫しているなんて。しかも両親とも銃価信者だなんて」
マユカは自称・コミュ障だったが、ミャーがいるお陰かペラペラとよく話してくれた。
「朝からずっとお経唱えたり、銃価の集会にも子供の頃から強制参加。勘弁してほしい」
心底両親のカルトっぷりにマユカは困っているようだった。
頭上でカラスが間抜けな声をあげて鳴いていた。マユカの話す内容は呑気なものではないが、カラスの声を聞いて杏奈は少し冷静になってきた。
「そういえばカルトの子供ってメディアで問題になっていたわね」
「そうよ、杏奈さん。宗教なん大嫌いだよ」
杏奈は英語教師時代は高校生に教えていた。別にカウンセリングのプロではないが、世間の人よりは慣れている。杏奈は辛抱強く、マユカの愚痴を聞く。
銃価が売るパワーストーンやお札も高額のようで、坂口一家の家計も圧迫しているらしい。
「あんなパワーストーンやお札でパパの不倫止めるわけ無いじゃん!」
「それは同感ね」
一円の得にもならない事が嫌いな杏奈にとっては、パワーストーンやお札に頼る気持ちは全くわからない。
「ミャーちゃんのところのキリスト教はお札売ってなかったけ? 歴史の教科書で読んだよ」
『免罪符ね。昔、カトリックがやってたけど、そんなもので罪が浄められるわけ無いじゃない。だから、ルターが宗教改革やってプロテスタントっていう宗派が生まれたの』
「ミャーちゃんは色々知ってるのね」
『バチカンなんかはイメージ悪いけど、それはキリスト教の全てでは無いから。まあ、今のプロテスタントの信者も自由恋愛したり、サンデークリスチャンが多かったり問題ある多いけどね。ルターの言ってる事真似して万人祭司とか言って無教会派も超多いし、終末にはプロテスタント信者にも裁きはあるでしょう』
「そっかー。どこの宗教も問題あるんだ」
「マユカ、それは私も初耳ね。カルトじゃない伝統宗教は問題ないように見えてたわ」
『そうね。カトリックも色々問題あるけど、プロテスタントよりは行いはしっかりしてるのよね。プロテスタントの連中、この世の人達みたいに自由に彼氏とか彼女作りすぎねー。本当は結婚前の性交渉は我慢しなきゃいけないけど、プロテスタント信者はあんまり守ってないわ』
マユカはミャーを抱き上げ、膝の上に乗せる。心底嬉しそうのミャーの背を撫でている。こうして見ると普通に猫好き女子高生だ。カルト信者が両親だなんて杏奈は胸が痛い。日本は信仰の自由があると言うけれど、何も知らない子供には無いではないか。
そういえば台湾に住んでいた友達が一人いるが、向こうでは学校で宗教について習う時間があるという。日本はそんなものはなく、歴史の授業でサラッと流すだけだ。
自由というのは選択がある事だ。マユカの状況は選択なんてなく、親に言われたままにカルトに関わってしまう状況は、社会の構造的問題にも感じる。せめて学校で宗教について学べる時間があっても良いと思うのだが。杏奈は、マユカの状況については自己責任だとは決して言えなかった。
『マユカの状況はわかったわ。で、この町で猫が死んだり、いなくなっている事は何か知ってる?』
マユカは目が泳ぎ、口籠るがミャーの可愛さに負けたようだ。ミャーの背中を撫でながら、事情を話し始めた。
マユカのよると銃価では「願いを叶える儀式」というのがあるらしい。それは猫を生贄にし、天使サマを召喚し願いを叶えて貰うものだった。
少し意味合いは異なるが、藤也が言っていた悪魔崇拝儀式そのものだった。ということは藤也が言っていた事が正しかったわけだ。ミケ子は銃価のこも儀式で殺されたと見て良いだろう。
『でも何で猫なの?』
「わからない。ただ、猫は汚れた動物だから殺してもいいんだって。そうすると猫も来世で良いものに生まれ変われるっていう教え」
マユカの説明を聞いていると、人間の自分勝手さの杏奈の表情が曇る。ミャーがいつか言っていた「人間の罪のせいで動物が巻き添いくった」という話も本当なのかもしれない。
杏奈はよく知らないが、ペット業界も闇が深いと聞く。玉子や肉、牛乳も動物にとっては残酷な方法で得ているらしい。
別にベジタリアンになりたいわけではないが、わざわざ動物を痛めつけて肉や卵を得る事は必要なのかわからない。ミャーがいう罪という事はよくわからないが、結局人間が自分の欲望を抑えきれないから、動物が傷ついているという事は杏奈も理解できた。動物が「人間よ、自分の欲望を悔い改め、神様と和解しろ」と願っていたとしても、不思議ではない。
「この町であった三毛猫が殺された件だけど、銃価の連中の仕業ね。うちの親は実行部隊でさ、動物を誘拐するのが仕事なの」
こうしてマユカの証言をえて、ミケ子を殺した犯人があっさりとわかってしまった。やっぱり藤也の言う事は間違いなかったようで、杏奈はため息が溢れる。
本来なら仕事の準備をする時間を過ぎているが、今日は仕方ない。マユカの話を聞くのが優先だろう。
「銃価の連中、また猫殺すみたい。うちに一匹白い猫いるし。たぶん、今日の夜。気をつけて」
マユカの話を聞いて、時間が迫っている事に怖くなったが、この忠告するような口ぶりはSNSの届いていたDMを思い出す。聞くと、やっぱりマユカが杏奈のSNSにDMを送っているようだった。
『でもどうするの、杏奈。このままでは、ナァちゃんも殺されちゃうわよ』
「杏奈さん、銃価の連中を止めてくださいよ!」
マユカに泣きつかれたが、どうすれば良いのかわからない。
「警察は頼っても無駄。うちらの町の警察、ほとんど銃価信者だもん。言っても聞いてくれないよ」
さらにマユカにこんな事も言われ、杏奈は頭を抱える。
「どうしよう……」
単なるネコ殺しだとは思っていなかったが、もうこの事件は杏奈の手に負えない。
とりあえず、ミャーやマユカを藤也に教会に連れていき、丸投げする事にした。
「よし、銃価の連中を捕まえるぞ!」
逆に藤也は、燃えていた。
この事件、どうなる?
とりあえず、猫のナァだけは助かって欲しいと願いながら杏奈は自分のカフェに向かった。
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