第12話 警察は取り合ってくれない
文字数 2,435文字
しばらく吐いたら杏奈も落ち着きを取り戻していた。
「おい、杏奈。大丈夫かよ」
「大丈夫じゃないけど、吐き気は治ったわね」
「全く可愛げのない女だよ。気が強すぎだろう」
藤也は呆れて肩をすくめる。確かにこのような状況で倒れて、泣いて叫ぶような弱い女性の方が男性好みかもしれない。例えば元同僚の真澄なんかはそんなタイプだ。
一方杏奈は、吐いたとはいえ頭はだんだんと冷静になってきた。確かに猫の死体ぐらいで気を弱くするのも自分のキャラじゃないと思う。長年、ブラックな学校に勤めていたのですっかり気が強くなっていた。客商売の今の仕事も大変な事はあるけれど、ブラックな前職と比べればまだだとマシだと思うぐらだ。
「それにしても誰がミケ子を殺したの? 何なのよ、この魔法陣は」
だんだんと冷静になってきた杏奈が、ミケ子の死体のそばの魔法陣を指さす。
『絶対悪魔崇拝よ!』
ミャーは叫び声を上げていた。
「まったくだ。たぶんイルミナティの秘密結社の連中が、悪魔崇拝儀式をしたんだ」
「ちょ、藤也。決め付けすぎだって。そもそもこんな田舎で悪魔崇拝儀式するメリットってある? ここは駅にも近いし、見つかるリスクだってあるのよ。陰謀論じゃない」
杏奈は藤也にツッコミをいれた。ツッコミを入れられるぐらい元気が回復したとはいえ、頭の痛い陰謀論を聞かされると余計に気分が悪くなる。
『だったら、この町の人が犯人よ。藤也、地平町でイルミナティ結社員はいるの?』
ミャーは、藤也の陰謀論に同意していて杏奈は頭を抱えそうになる。
「何なのよ、こいつら。頭おかしいって。アタオカだって」
杏奈のぼやきは無視され、ミャーと藤也は陰謀論をキャッキャと嬉しそうに語っていた。塩顔モヤシ男と猫が陰謀論を語り合う姿は、どこからどうツッコんでいいかわからず、杏奈は額を抑えて深いため息をついた。
ちょうどその時、パトカーの音が響く。
しばらくして警察がやってきた。警察は大きな懐中電灯を持っているため、辺りはちょっと明るくなる。ミャーはこの状況を察して、どこからどう見ても何の変哲もない猫に擬態し、黙りこくった。ここでミャーが話し始めると余計に状況はややこしくなるだろう。
「おいおい、猫の死体か? なんだ、これは?」
警察の一人は、見覚えのある顔だった。杏奈と藤也は思わず顔を見合わせた。
中学に同級生だった空谷治だった。向こうも杏奈と藤也に気づき、ニヤニヤ笑ってきた。
「なんだ、アタオカ牧師とぶりっ子女の橋口じゃねぇか。お前ら何しにここのいるんだ?デートか?」
ゲスい勘ぐりをしている空谷に杏奈はため息をつく。
「いや、我々は陰謀論の悪魔崇拝儀式がないか調査いたんだよ」
「陰謀論? 全く藤也も橋口もアタオカだな〜」
一緒にすんな!と杏奈が叫ぶそうになるが、空谷はミケ子の様子を警官と一緒に確認した。
そういえばここは田舎だ。噂が広がりやすい。藤也とデートしていたという噂を立てられるよりは、陰謀論やっているという噂を広められた方がマシだと思った。
空谷は、性格が良い男だとは決して言えない。中学生の頃からいじめっ子だった。漫画やアニメ好きのヲタクを揶揄うのは日常茶飯事。ヤンキーと連み、カツアゲのような事をしていた空谷が警察官とは皮肉なものだ。
まあ、他にいじめっ子だったギャルも看護師や介護士になっているらしい。おかげで杏奈はコロナ渦の社会でも医療従事者は気が強いものがなるものだという偏見があった。
それに空谷には、よくない噂もある。家族がカルト信者で、家の周りには教祖様のポスターがベタベタと貼ってある。空谷自身が信者かどうかは知らないが、カルトの勧誘をしまくっているという噂をきく。断った人は嫌がらせもしていらしい。といっても美絵や鳩子から聞いた話しなので、実際どうかは証拠は無いが。
杏奈と藤也は猫を見つけた状況を最初から全部話した。杏奈も藤也も冷静なタイプなので、一から十まで理論的に感情を挟まず説明したが、空谷は欠伸をし、ろくに話を聞いていない。
「おい、空谷。これは確実に悪魔崇拝儀式だろ。この魔法陣見てみろよ」
さすがに藤也も少し感情的にいった。
「悪魔崇拝? 馬鹿言うんじゃねぇーよ。どうせ黒歴史真っ只中の中学生の仕業だろ。あ、お前も年中中二病だったな」
空谷はちょっと挑発するような事も言っていた。杏奈もその可能性が大いにあると思ったが、いくら中二病といっても猫殺すか?せいぜい暗黒なポエムを書いたり、難解な英単語や漢字をノートに書くぐらいではないか。まあ、藤也は今でも中二病っぽいと言うのは同意で、杏奈はちょっと居た堪れなくなってくるが。
「でも猫が死んでいるのよ?ちゃんと調査しなさよ」
杏奈は、イマイチやる気の無い空谷に釘を刺した。しかし、空谷は全くやる気を見せない。それどころか、ミケ子は自然死と勝手に判断した。
「悪魔崇拝かどうかはわからないけれど、これは明らかに殺しでしょ。調査しなさいよ」
ちょっとキツい口調で言ったが、空谷には逆ギレし始めた。
「うっさい! 警察の俺が調査するんだ、素人は黙ってろ!」
逆ギレした空谷にはこれ以上何を言っても無駄だと悟った。
杏奈は、ミャーを抱えて、藤也と一緒に雑木林出て帰った。
意外な事に藤也は家まで送ってくれるという。商店街にある自動販売機で暖かいお茶を奢ってくれた。添加物入りだから俺は飲まないなどと言って杏奈を少し不快にさせたわけだが。
「それにしても誰がミケ子を殺したのよ。本当、この町でそんな事が」
藤也が添加物入りといったお茶でもあんなシーンを見た後では、少し飲んでいて心はホッとした。
『悪魔崇拝よ』
腕の中にいるミャーは断言する。
「俺も悪魔崇拝儀式だと思う」
その事については、ミャーも藤也も意見をかえないようだった。
という事は地平町に悪魔崇拝儀式をする秘密結社員がいるという事?
そんなあり得ない!
杏奈はこの意見を認める事はどうしてもできなかった。
「おい、杏奈。大丈夫かよ」
「大丈夫じゃないけど、吐き気は治ったわね」
「全く可愛げのない女だよ。気が強すぎだろう」
藤也は呆れて肩をすくめる。確かにこのような状況で倒れて、泣いて叫ぶような弱い女性の方が男性好みかもしれない。例えば元同僚の真澄なんかはそんなタイプだ。
一方杏奈は、吐いたとはいえ頭はだんだんと冷静になってきた。確かに猫の死体ぐらいで気を弱くするのも自分のキャラじゃないと思う。長年、ブラックな学校に勤めていたのですっかり気が強くなっていた。客商売の今の仕事も大変な事はあるけれど、ブラックな前職と比べればまだだとマシだと思うぐらだ。
「それにしても誰がミケ子を殺したの? 何なのよ、この魔法陣は」
だんだんと冷静になってきた杏奈が、ミケ子の死体のそばの魔法陣を指さす。
『絶対悪魔崇拝よ!』
ミャーは叫び声を上げていた。
「まったくだ。たぶんイルミナティの秘密結社の連中が、悪魔崇拝儀式をしたんだ」
「ちょ、藤也。決め付けすぎだって。そもそもこんな田舎で悪魔崇拝儀式するメリットってある? ここは駅にも近いし、見つかるリスクだってあるのよ。陰謀論じゃない」
杏奈は藤也にツッコミをいれた。ツッコミを入れられるぐらい元気が回復したとはいえ、頭の痛い陰謀論を聞かされると余計に気分が悪くなる。
『だったら、この町の人が犯人よ。藤也、地平町でイルミナティ結社員はいるの?』
ミャーは、藤也の陰謀論に同意していて杏奈は頭を抱えそうになる。
「何なのよ、こいつら。頭おかしいって。アタオカだって」
杏奈のぼやきは無視され、ミャーと藤也は陰謀論をキャッキャと嬉しそうに語っていた。塩顔モヤシ男と猫が陰謀論を語り合う姿は、どこからどうツッコんでいいかわからず、杏奈は額を抑えて深いため息をついた。
ちょうどその時、パトカーの音が響く。
しばらくして警察がやってきた。警察は大きな懐中電灯を持っているため、辺りはちょっと明るくなる。ミャーはこの状況を察して、どこからどう見ても何の変哲もない猫に擬態し、黙りこくった。ここでミャーが話し始めると余計に状況はややこしくなるだろう。
「おいおい、猫の死体か? なんだ、これは?」
警察の一人は、見覚えのある顔だった。杏奈と藤也は思わず顔を見合わせた。
中学に同級生だった空谷治だった。向こうも杏奈と藤也に気づき、ニヤニヤ笑ってきた。
「なんだ、アタオカ牧師とぶりっ子女の橋口じゃねぇか。お前ら何しにここのいるんだ?デートか?」
ゲスい勘ぐりをしている空谷に杏奈はため息をつく。
「いや、我々は陰謀論の悪魔崇拝儀式がないか調査いたんだよ」
「陰謀論? 全く藤也も橋口もアタオカだな〜」
一緒にすんな!と杏奈が叫ぶそうになるが、空谷はミケ子の様子を警官と一緒に確認した。
そういえばここは田舎だ。噂が広がりやすい。藤也とデートしていたという噂を立てられるよりは、陰謀論やっているという噂を広められた方がマシだと思った。
空谷は、性格が良い男だとは決して言えない。中学生の頃からいじめっ子だった。漫画やアニメ好きのヲタクを揶揄うのは日常茶飯事。ヤンキーと連み、カツアゲのような事をしていた空谷が警察官とは皮肉なものだ。
まあ、他にいじめっ子だったギャルも看護師や介護士になっているらしい。おかげで杏奈はコロナ渦の社会でも医療従事者は気が強いものがなるものだという偏見があった。
それに空谷には、よくない噂もある。家族がカルト信者で、家の周りには教祖様のポスターがベタベタと貼ってある。空谷自身が信者かどうかは知らないが、カルトの勧誘をしまくっているという噂をきく。断った人は嫌がらせもしていらしい。といっても美絵や鳩子から聞いた話しなので、実際どうかは証拠は無いが。
杏奈と藤也は猫を見つけた状況を最初から全部話した。杏奈も藤也も冷静なタイプなので、一から十まで理論的に感情を挟まず説明したが、空谷は欠伸をし、ろくに話を聞いていない。
「おい、空谷。これは確実に悪魔崇拝儀式だろ。この魔法陣見てみろよ」
さすがに藤也も少し感情的にいった。
「悪魔崇拝? 馬鹿言うんじゃねぇーよ。どうせ黒歴史真っ只中の中学生の仕業だろ。あ、お前も年中中二病だったな」
空谷はちょっと挑発するような事も言っていた。杏奈もその可能性が大いにあると思ったが、いくら中二病といっても猫殺すか?せいぜい暗黒なポエムを書いたり、難解な英単語や漢字をノートに書くぐらいではないか。まあ、藤也は今でも中二病っぽいと言うのは同意で、杏奈はちょっと居た堪れなくなってくるが。
「でも猫が死んでいるのよ?ちゃんと調査しなさよ」
杏奈は、イマイチやる気の無い空谷に釘を刺した。しかし、空谷は全くやる気を見せない。それどころか、ミケ子は自然死と勝手に判断した。
「悪魔崇拝かどうかはわからないけれど、これは明らかに殺しでしょ。調査しなさいよ」
ちょっとキツい口調で言ったが、空谷には逆ギレし始めた。
「うっさい! 警察の俺が調査するんだ、素人は黙ってろ!」
逆ギレした空谷にはこれ以上何を言っても無駄だと悟った。
杏奈は、ミャーを抱えて、藤也と一緒に雑木林出て帰った。
意外な事に藤也は家まで送ってくれるという。商店街にある自動販売機で暖かいお茶を奢ってくれた。添加物入りだから俺は飲まないなどと言って杏奈を少し不快にさせたわけだが。
「それにしても誰がミケ子を殺したのよ。本当、この町でそんな事が」
藤也が添加物入りといったお茶でもあんなシーンを見た後では、少し飲んでいて心はホッとした。
『悪魔崇拝よ』
腕の中にいるミャーは断言する。
「俺も悪魔崇拝儀式だと思う」
その事については、ミャーも藤也も意見をかえないようだった。
という事は地平町に悪魔崇拝儀式をする秘密結社員がいるという事?
そんなあり得ない!
杏奈はこの意見を認める事はどうしてもできなかった。
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