第37話 藤也のモテ講座

文字数 2,067文字

「俺はこう見えてもモテテクニックのプロだね。あらゆるモテ本を読みこんだ!」

 藤也はそう言ってホワイトボードに「モテ テクニック」と大きな文字を書く。

『それって藤也。モテなくて研究していたって事?』
「そうね。モテる人はモテテクニック本だなんて知らないもの」
『婚前交渉の誘惑があるから無駄にモテる必要はないのよ、藤也。何でそんな本を読んでるのよ』

 ミャーと杏奈のツッコミも無視して、藤也は演説を始めてしまった。こうなっては止められそうにない。

「いいか、杏奈。恋愛でメンヘラは絶対やめろ。メンヘラはどう頑張ってもモテないぞ」

 藤也はバツ印とメンヘラと書く。横にメンヘラ地雷女っぽい女子のイラストもさらさらと描いている。やっぱり藤也は絵は上手いようだ。

「なんでメンヘラはダメなの?」
「聖書に女は穏やかで優しい心を飾りにしろって書いてあるからだ。聖書的には、着飾る事もあまり良くない」
「聖書にもそんな事書いてるの? 初耳だわ」

 まさかモテ テクニックみたいな事が書いてあるとは初耳だ。

『杏奈、聖書は本の中の本と言われてるの。この世の本に書いてある事なんて全部網羅してるわ。変な自己啓発やモテ本読むより、聖書読んだ方がいいわ。なんせ全知全能の神様が書いた書物で、人が生きる上での取り説、攻略本的な面もあるの。聖書読むと生きやすくなるのは確か』
「へぇ」

 それも初耳だった。

「そもそも杏奈、女と男の役割はどう違うかわかってるか?」
「平等じゃないの?」
「そんなわけあるかっ! 人間の価値は平等だけど、神様からみた目的や役割は違う」

 どうもこの話題では藤也はヒートアップするようだ。藤也はホワイトボードを真っ黒にし、男と女の役割の違いを書く。

 男は基本的にリーダーシップをとる存在。女は従う存在とある。

「何それ、女は黙って従えっていうの? 今は令和よ。昭和じゃん」
「ところが、聖書ではそっちの方が上手くいくって書いてあるんだよ。杏奈の周りで女が偉そうにしている夫婦で上手くいっているところはあるか?」

 そう言われると思いつかない。医者の友達が、三回ぐらい離婚していた。確かに男性にも女性にもちょっと偉そうな態度の女性だったが。かくいう杏奈も偉そうで毒舌タイプなので、モテない理由には心当たりしかない。

「男はガラスのハートなんだよ。繊細なのさ。偉そうな女はモテないぞ」
「心あたりはあるわね……」

 心あたりはありすぎて、杏奈は言葉がない。

『だったら、藤也どうすればいいの?』
「そうよ。どうすればいいのよ。今更昭和の女みたいな事はできないんですけど」

 確かに昭和な女が男性ウケするのは、何となくわかる。ただ、今更令和に生きている杏奈が、昭和的な女になるのは無理だった。

「一つ、方法がある。その方法は、イエス様を見習う事だな」

 それはハードルが高すぎる。つまり、死ねっていう事か?

「自分を抑えて相手に尽くす女性がモテないわけないじゃないか」
「尽くす女の方がモテないって言うじゃない?」

 杏奈の周りにもホストやイケメンに尽くして自滅しているダメンズは多かった。

「まあ、女は世話を焼くように尽くす必要はない。ただ、喜べ。男に何かやって貰ったら少々大袈裟なぐらい喜ぶんだ。女が尽くす事は、喜ぶ事。我慢して世話してあげる事じゃない。きゃーっと喜ぶんだよ」
「そんなんでいいの? ぶりっ子じゃん」
「ところがどっこい、わかりやすいぶりっ子はモテるんだよなー」

 藤也によると聖書には「喜ぶ」という言葉が何回も出てくるらしい。いわば人間が喜ぶのは義務みたいなものという。

「つまりだ。まとめると相手の為を思って優しい柔和な気持ちでいる。そしていつも喜んでいる女がモテる。それで男のリーダーシップに従えば完璧だ」
「うーん、難しいわね」

 藤也の言っている事はシンプルだったが、実行しようとすると難しそうだった。

『でも今の時代は、メディアの洗脳で男が女っぽく、女が男っぽくなっているのよ。これは大問題ね』
「本当にその通りだ。神様の言う事を守らないと、後々ろくでもない事になるのにな。だからあえて、悪魔崇拝やってるメディアはそう言った情報を流して洗脳するんだな」
『ちなみに婚前交渉だって罪よ。メディアはさぞいいもののように宣伝しているけれど、そんな事しても神様は喜ばれない。チンケで表面的なモテテクニック本なんて滅びればいいわ』

 ミャーはなぜかぷりぷりと怒っていたが、確かクリスチャンは気軽に自由恋愛できない事は聞いた事がある。

「うーん、私はそれは無理だわ。ハードル高すぎる」
「まあ、普通の日本人はそう言うよな。でも、少し神様についても知ってもいいんじゃない? 聖書にモテまで解るのは驚きだろう。聖書は本の中の本だから、この世にある本を全網羅しているんだ」

 そう言われれまうと、杏奈も少し興味が出てくる。確かにそんな本は杏奈は読んだ事はなかった。

「そうね。ちょっとここに書いてあるモテテクニックを試してみてみいいかも?」

 杏奈は苦笑しながら、字や絵で真っ黒になったホワイトボードを指差した。
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登場人物紹介

橋口杏奈(はしぐち あんな)

カフェ店長。見た目は女子力高めだが、中身は男っぽく、損得勘定も好きなのが玉に瑕。

ミャー

一見かわいい黒猫。しかしその正体は…

柏木藤也(かしわぎ とうや)

町の牧師。陰謀論や都市伝説好き。

変わり者だが根は純粋。

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