第47話 よく晴れた休日

文字数 1,399文字

 杏奈は、事件を解決してから初めての休日を迎えた。

 カフェは不定期定休だったが、やはり事件の事があって気が張っていたので、1日だけ休みをとってリフレッシュしようと考えた。

 といっても物置状態になったカフェの2階を掃除したり、新しいメニューを考えたり、午前中は半分仕事しているようなものだったが。

 最近は、陰謀論マニアの小雪のアドバイスを受け、オーガニック料理を出しても良いと考えていた。

 色々とアイディアをノートに書き、野菜のパウンドケーキを作っても良いかと考えていた。材料も日本産や無農薬にこだわってみても良いだろう。オーガニック食品については、藤也や小雪が詳しそうなので、今度詳しく聞いてみよう。

『ちょっと、杏奈。せっかくの休みなのに家にずっといるの?』
「さっきカフェの掃除して来たわよ」
『仕事じゃん! っていうか、私は運動不足よ。ちょっと近所を散歩したいんだけど』
「そうねぇ。ちょっと歩きましょうか」

 という事で杏奈は、ノートを閉じてミャーと外に出かける事にした。

 先にミャーを歩かせて、杏奈はゆっくりと近所を歩く。

 今日は休日という事もあり、今日の杏奈の格好は女子力が低い。スニーカーにジャージ生地のズボンにシャツ。メイクもほとんどせず、ボサボサ頭をかくす帽子をかぶっていた。

 杏奈のアパートから住宅街に入ったところ、書店の糸原に声をかけられた。ミャーも杏奈に合わせて前方の方に止まる。

 今日も糸原は、芝犬のゴローを連れていた。前と違って杏奈の顔を見ても顔を伏せる事はなかった。

「糸原さん、こんにちは」
「おぉ、杏奈ちゃんか。今日は休みかい?」
「ええ。ゴローは元気?」

 糸原によると、ゴローは事件の後から人間に対して態度が柔らかくなってきたそうだ。

「不思議だな。この町から逃げていた猫達も戻って来たし」
「それは不思議ね」

 杏奈も糸原の言葉に頷く。

 確かに事件の後、町の猫が戻ってきた。不思議な事だが、ミャーによると少しは人間達も自分達の罪深さを反省したからではないか?と推測していた。

 ただ、別に神様と人間が完全に和解したわけでは無いので、何かあったら猫達も今回みたいに反抗すんじゃないか?という話だった。引き続き、ミャーも藤也も人間に神様を知って貰えるようの活動して行くという話だった。

「それにしても今日はいい天気だな」

 糸原は、青く澄んだ春の空を見上げる。

「そうねぇ。あんな事件があると、空が晴れてるだけでも嬉しくなっちゃうよね」
「あぁ、杏奈ちゃん。悟ってるなー。でも本当、人が死ぬのも猫が死ぬのも寂しいな」
「そうね」

 しみじみと糸原と語ってしまった。

 糸原の書店は、来月末に完全の閉店するとう。その前にお世話になった作家を呼び、ちょっとしたイベントもするから杏奈も遊びに来て欲しいと誘われた。

「糸原さんの店が無くなるなんて寂しくなるわね」
「まあ、それは仕方ない。何にでも時があるよ」
「そうね」

 そんな会話をして、糸原と別れた。

『糸原さんの事は他人事じゃ無いのよねぇ。日本のキリスト教も人が減ってるから、近い将来、日本で教会が無くなるとも言われてる。100年後にはクリスチャン人口がゼロになるという計算も出てるのよ』
「そうなんだ。寂しいわね……」
『でも神様は、日本人の救いを願ってるわ。救うを独占しないよう頑張らなきゃね』

 意外と明るくなってきたミャーの声を聞きながら、杏奈も深く頷いた。
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登場人物紹介

橋口杏奈(はしぐち あんな)

カフェ店長。見た目は女子力高めだが、中身は男っぽく、損得勘定も好きなのが玉に瑕。

ミャー

一見かわいい黒猫。しかしその正体は…

柏木藤也(かしわぎ とうや)

町の牧師。陰謀論や都市伝説好き。

変わり者だが根は純粋。

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