第3話 嫌がらせ
文字数 1,246文字
杏奈のカフェ「喫茶・ハシグチ」は地平町 商店街にあった。
地平町 は関東にある小さな町だった。意外と都内まで一時間程度で行けるので、そこまで田舎ではないが、老人が多く子供が少なく過疎化しつつあった。
駅の側にある地平商店街も、そのほとんどが老人が細々と経営していた。アラフォーに片足突っ込んでいる杏奈が一番若いぐらいだ。
近隣には大きなショッピングモールもあるので、子供がいる若い夫婦などの世帯は、地平商店街よりそちらに行ってしまう。地平商店街の主な客層も老人だった。
ただ、2020年ごろから昭和レトロがちょっとしたブームになっている。レトロな食器やレトロなカフェなどがメディアの取り上げられている事も多い。
そのおかげで単にダサい過疎化している商店街が、昭和レトロな商店街として見られる事もあった。地域新聞が取材に来た事もある。杏奈のカフェも「ダサい」から「昭和レトロ」に印象が変わったようで、そこそこ若い女性の客も増えてきた。両親のカフェを継ぐ事の迷いはあったが、メディアの昭和レトロブームを考えると、勝算があるのではないかと考えた。
杏奈は、地平商店街のアーケードに入り、ケーキ屋や花屋に挟まれた喫茶・ハシグチに向かった。
ケーキ屋の野田はまだ開店準備中で挨拶できなかったが、花屋の椿さんと会った。60歳過ぎの椿だが、元気に毎日仕事していた。もっとも息子の豊と共同営業だが。
「杏奈ちゃん。おはよう」
「おはよう、椿さん」
なぜか椿は顔をしかめていた。
「杏奈ちゃん、また『コロナ脳』がなんかやったみたいよ」
「えー、またですか? 嫌になっちゃいますね」
杏奈は椿と別れた後、自分の店に直行した。
レンガ作りで小豆色の屋根の杏奈のカフェは、いかにもレトロな雰囲気だ。
ショーケースには、メロンソーダやケーキ、オムライスなどの料理の見本が綺麗に並べてある。
遠目では本物と見間違えるほどの食品サンプルだ。
大きく看板には「喫茶・ハシグチ」と書かれているが、入り口を見ると杏奈は顔をしかめて。
数々の張り紙が貼ってあった。
『コロナ禍で営業すんな!』
『アルコール消毒しろ!』
『アクリル板おけ!』
『ワクチン打て!』
杏奈は深いため息をつく。最近は、コロナ脳たちがこうやって嫌がらせをする事が多かった。
どうやらWordで打ち込んだもののようで、手書きではない。犯人は誰だか検討もつかないが、コロナ禍を怖がっている人物である事は確かだ。
こんな張り紙があるだけで、イタズラ電話などの営業妨害はない。ここで警察に相談するべきかは悩むところだった。得体不明なウィルスが悪いだけで、こんな行動をとるのも仕方がない気もしている。
杏奈は再び深いため息をつくと、ベリベリとチラシを剥がす。
裏手に回って営業の準備を始めた。
コロナ禍だっていつかは終わるだろう。
こんなチラシを作った人もその日にはここで美味しいプリンやメロンソーダを楽しんで欲しい。
杏奈はそう願いながら一人で黙々と営業準備に取り掛かった。
駅の側にある地平商店街も、そのほとんどが老人が細々と経営していた。アラフォーに片足突っ込んでいる杏奈が一番若いぐらいだ。
近隣には大きなショッピングモールもあるので、子供がいる若い夫婦などの世帯は、地平商店街よりそちらに行ってしまう。地平商店街の主な客層も老人だった。
ただ、2020年ごろから昭和レトロがちょっとしたブームになっている。レトロな食器やレトロなカフェなどがメディアの取り上げられている事も多い。
そのおかげで単にダサい過疎化している商店街が、昭和レトロな商店街として見られる事もあった。地域新聞が取材に来た事もある。杏奈のカフェも「ダサい」から「昭和レトロ」に印象が変わったようで、そこそこ若い女性の客も増えてきた。両親のカフェを継ぐ事の迷いはあったが、メディアの昭和レトロブームを考えると、勝算があるのではないかと考えた。
杏奈は、地平商店街のアーケードに入り、ケーキ屋や花屋に挟まれた喫茶・ハシグチに向かった。
ケーキ屋の野田はまだ開店準備中で挨拶できなかったが、花屋の椿さんと会った。60歳過ぎの椿だが、元気に毎日仕事していた。もっとも息子の豊と共同営業だが。
「杏奈ちゃん。おはよう」
「おはよう、椿さん」
なぜか椿は顔をしかめていた。
「杏奈ちゃん、また『コロナ脳』がなんかやったみたいよ」
「えー、またですか? 嫌になっちゃいますね」
杏奈は椿と別れた後、自分の店に直行した。
レンガ作りで小豆色の屋根の杏奈のカフェは、いかにもレトロな雰囲気だ。
ショーケースには、メロンソーダやケーキ、オムライスなどの料理の見本が綺麗に並べてある。
遠目では本物と見間違えるほどの食品サンプルだ。
大きく看板には「喫茶・ハシグチ」と書かれているが、入り口を見ると杏奈は顔をしかめて。
数々の張り紙が貼ってあった。
『コロナ禍で営業すんな!』
『アルコール消毒しろ!』
『アクリル板おけ!』
『ワクチン打て!』
杏奈は深いため息をつく。最近は、コロナ脳たちがこうやって嫌がらせをする事が多かった。
どうやらWordで打ち込んだもののようで、手書きではない。犯人は誰だか検討もつかないが、コロナ禍を怖がっている人物である事は確かだ。
こんな張り紙があるだけで、イタズラ電話などの営業妨害はない。ここで警察に相談するべきかは悩むところだった。得体不明なウィルスが悪いだけで、こんな行動をとるのも仕方がない気もしている。
杏奈は再び深いため息をつくと、ベリベリとチラシを剥がす。
裏手に回って営業の準備を始めた。
コロナ禍だっていつかは終わるだろう。
こんなチラシを作った人もその日にはここで美味しいプリンやメロンソーダを楽しんで欲しい。
杏奈はそう願いながら一人で黙々と営業準備に取り掛かった。
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