第6話 ママの襲来
文字数 1,606文字
仕事が終わり、カフェを閉めて家に帰った。
カフェの扉を閉めるとき、「コロナ脳がきませんように!」と心の中で呟く。やっぱり変なチラシを貼られるのは、良い気分はしない。
カフェ店長になってから、仕事が終わると自宅に直行する事が多い。
コロナ渦という事もあるが、ミャーがいると思うとすぐ帰りたい。やっぱり婚期が遅れつつある事は実感するが、なかなか今の生活は気に入っている。
すっかり夜になった地平町商店街は、人気もない。コンビニのように24時間営業している店はないので、夜はとても静かな場所になってしまう。
そうは言ってもコンビニは便利だ。自宅であるアパートのそばにあるコンビニでコロッケやおにぎりを買う。女子力を考えて豆乳も一本買う。女子力を完璧に上げるためには、手料理をしっかり作るのが良いわけだが、今日は疲れた。
買い物を済ませてコンビニを出ると、一人の女にぶつかった。茶髪で巻き毛のアラサー女だった。いかにも気が強そうなルックスで、こんな人は近所に住んでたっけ?と首を傾げるが、今はみんなマスクをしているので、近所に誰が住んでいるかはあまり把握していなかった。
マスクの効果はよくわからないし、陰謀論者はアンチマスク派が多いが、防犯上は悪いものである事は確かのようだった。
巻き毛の女は一言も謝らず、逆に杏奈を睨みつけて去っていった。
「なんなん、あの人」
思わずムッとするが、こんな事でいちいち怒っていたら損する。
杏奈はコンビニから出ると、自宅に直行した。
杏奈の住むアパートは築数年で割と綺麗だった。何よりペットOKというのが素晴らしい点ではあるが。
三階建てだが一応オートロックで、他に誰が住んでいるかはよくわからない。今のところ、ミャーを飼っている事でクレームはつけられる事はないので有り難いが。
「ミャー、ただいま!」
鍵をあけて、家に帰ると嫌な予感がした。電気がついているし、玄関には婦人用の平べったい靴があった。見覚えのある靴だ。杏奈の母が愛用している靴だ。
「ママ、何しにきたのよ?」
リビングに直行すると、杏奈の母がテレビを見ながら寛いでいた。その膝の上にはニャーがいる。実にリラックスした風に目を細めていた。
「あら、杏奈。お帰り!」
「お帰りじゃないわよ。何しに来たのよ」
「杏奈の栄養が偏ってると思ってね。豚汁作って持ってきた」
「へぇ」
素直に礼を言う気になれない。
仕事から疲れて帰ってきたと思ったら、母がいる気分はあまり良くない。豚汁は有難いが、ろくでもない事を言いにきたのに違いない。
とは言っても無理矢理追い出すのも出来ず、杏奈は母と一緒に夕飯を食べる事にした。
豚汁以外はコンビニ食と冷凍食品であるが、皿に盛ると意外と「女子力高!」という感じになった。杏奈は猫や鳥、薔薇が描かれているオシャレな皿を趣味で集めているので、そのお陰もあるかもしれないが。カフェの食器類もレトロで可愛いものにしている。女性はこういう細かい可愛さに弱いと杏奈は思う。
「ところで杏奈ちゃん。婚活はどう?」
手抜き極まりない食事だったが、意外と美味しい。その美味しさにうっかり気を抜いていたら、母から聞きたくもない話題をふられた。母は孫を見たい願望が強く、こんな風に結婚をせっつく事が多かった。
「いや、別に出会いないし」
ふと頭の中に真澄の事を思い出す。貧乏牧師と結婚するぐらいだったら今の生活の方がよっぽどマシだと思った。
「ところで鳩子さんちのミケ子ちゃんがいなくなったんだって。何か知らない?」
杏奈のそばで、小さなボールで遊んでいるミャーを見ながらいう。話題を変えたかった為だが、ミャーを見ているとやっぱり心配になる。
「ミケ子ちゃんいなくなったの? そういえばウチのお隣の長谷部さんちのナァちゃんもいなくなったらしいのよ」
「本当?」
続けて2件も猫がいなくなるって、単なる偶然?
なんとなく嫌な予感がした。
カフェの扉を閉めるとき、「コロナ脳がきませんように!」と心の中で呟く。やっぱり変なチラシを貼られるのは、良い気分はしない。
カフェ店長になってから、仕事が終わると自宅に直行する事が多い。
コロナ渦という事もあるが、ミャーがいると思うとすぐ帰りたい。やっぱり婚期が遅れつつある事は実感するが、なかなか今の生活は気に入っている。
すっかり夜になった地平町商店街は、人気もない。コンビニのように24時間営業している店はないので、夜はとても静かな場所になってしまう。
そうは言ってもコンビニは便利だ。自宅であるアパートのそばにあるコンビニでコロッケやおにぎりを買う。女子力を考えて豆乳も一本買う。女子力を完璧に上げるためには、手料理をしっかり作るのが良いわけだが、今日は疲れた。
買い物を済ませてコンビニを出ると、一人の女にぶつかった。茶髪で巻き毛のアラサー女だった。いかにも気が強そうなルックスで、こんな人は近所に住んでたっけ?と首を傾げるが、今はみんなマスクをしているので、近所に誰が住んでいるかはあまり把握していなかった。
マスクの効果はよくわからないし、陰謀論者はアンチマスク派が多いが、防犯上は悪いものである事は確かのようだった。
巻き毛の女は一言も謝らず、逆に杏奈を睨みつけて去っていった。
「なんなん、あの人」
思わずムッとするが、こんな事でいちいち怒っていたら損する。
杏奈はコンビニから出ると、自宅に直行した。
杏奈の住むアパートは築数年で割と綺麗だった。何よりペットOKというのが素晴らしい点ではあるが。
三階建てだが一応オートロックで、他に誰が住んでいるかはよくわからない。今のところ、ミャーを飼っている事でクレームはつけられる事はないので有り難いが。
「ミャー、ただいま!」
鍵をあけて、家に帰ると嫌な予感がした。電気がついているし、玄関には婦人用の平べったい靴があった。見覚えのある靴だ。杏奈の母が愛用している靴だ。
「ママ、何しにきたのよ?」
リビングに直行すると、杏奈の母がテレビを見ながら寛いでいた。その膝の上にはニャーがいる。実にリラックスした風に目を細めていた。
「あら、杏奈。お帰り!」
「お帰りじゃないわよ。何しに来たのよ」
「杏奈の栄養が偏ってると思ってね。豚汁作って持ってきた」
「へぇ」
素直に礼を言う気になれない。
仕事から疲れて帰ってきたと思ったら、母がいる気分はあまり良くない。豚汁は有難いが、ろくでもない事を言いにきたのに違いない。
とは言っても無理矢理追い出すのも出来ず、杏奈は母と一緒に夕飯を食べる事にした。
豚汁以外はコンビニ食と冷凍食品であるが、皿に盛ると意外と「女子力高!」という感じになった。杏奈は猫や鳥、薔薇が描かれているオシャレな皿を趣味で集めているので、そのお陰もあるかもしれないが。カフェの食器類もレトロで可愛いものにしている。女性はこういう細かい可愛さに弱いと杏奈は思う。
「ところで杏奈ちゃん。婚活はどう?」
手抜き極まりない食事だったが、意外と美味しい。その美味しさにうっかり気を抜いていたら、母から聞きたくもない話題をふられた。母は孫を見たい願望が強く、こんな風に結婚をせっつく事が多かった。
「いや、別に出会いないし」
ふと頭の中に真澄の事を思い出す。貧乏牧師と結婚するぐらいだったら今の生活の方がよっぽどマシだと思った。
「ところで鳩子さんちのミケ子ちゃんがいなくなったんだって。何か知らない?」
杏奈のそばで、小さなボールで遊んでいるミャーを見ながらいう。話題を変えたかった為だが、ミャーを見ているとやっぱり心配になる。
「ミケ子ちゃんいなくなったの? そういえばウチのお隣の長谷部さんちのナァちゃんもいなくなったらしいのよ」
「本当?」
続けて2件も猫がいなくなるって、単なる偶然?
なんとなく嫌な予感がした。
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