第30話 三郎がやって来た
文字数 2,308文字
マユカの事もあったので、カフェの開店はいつもより遅れてしまった。
開店直後から母や美絵がやってきて、おしゃべりに花を咲かせていた。二人のやかましい声を聞いていると、ナァの事の不安は少し薄れてきた。
それにしても銃価達の犯行だったなんて。
藤也が言っていた事があっていた事も驚きだが、これは立件できるのだろうか。警察は銃価と関わりが深いという。実際、空谷も何も調査をしている様子はない。
「ママ、鳩子さんの様子はどう?」
杏奈はおしゃべりに花を咲かせている母に声をかけた。
「それがミケ子の事がショックで塞ぎ込んでいるの」
「心配ね」
美絵は顔を顰めてパウンドケーキを頬張る。
「この町の猫も居なくなっているみたいだし、一体どうなっちゃったの。猫の呪い?」
母のいう事も嘘ではない気がした。普段、目に見えないものなど信じない杏奈だが、ミャーもそんなような事を言っていた。人間には罪があるから、動物にも嫌われている、神様と和解するよう願っているとか。
今のところはミケ子殺しとこの町で猫がいなくなって事の関係性はわからない。いくら銃価のような組織でも町中の猫を隠密に捕まえるのは難しいだろう。
「まあ、それより杏奈はどうなの? 彼氏はできた?」
猫の話題が終わると、母は杏奈の婚活の方へ話題を変えてきた。
「ママは早く杏奈の子供が見たいわぁー」
「いや、私はあんまり子供は欲しくは無いのよね」
理由ははっきりしまいが、ワンオペ育児で疲労している友達も多く、子供を持つ事はさほど希望していなかった。このカフェも手放す必要もあるかもしれないが、母は全く気にしていなかった。
「だったら杏奈ちゃん、うちの息子に会わない?」
「えー、それはちょっと……」
美絵の息子に会う事を提案されたが、この町で有名なヤンキーだった。美絵の息子・修司はバツ3で子供もいるが、YouTuberになるとか言って起業しているらしい。聞くだけで地雷物件だ。それに修司も自分と似たような気の強いヤンキー美女が好きなので、杏奈のような見た目は女子っぽい女は好みではなく、同じ街に住み何度か顔を合わせていても、色っぽい関係になる格率はとても低かった。
「まあ、うちの息子はヤンキーだからねぇ」
「あはは!」
美絵と母が大笑いしたところ、客が入ってきた。急いで水とメニューを持っていく。
「あ、三郎じゃない」
カウンター席に座った客の顔は、三郎だった。かつて婚活で知り合いデートまでしたが、振ってきたあの男である。
少し長めの前髪をセットし、きちんとしたスーツ姿の三郎は、都内では馴染んでいたが、この町では浮いて見えた。藤也はユニクロやGUのシャツやジーパンばっかりだった事を思い出す。あの男は見かけは全く牧師に見えない。
「いや、杏奈の店はこの辺りかなーって思ってちょっと覗いてみたんだよ」
「へぇ」
三郎がどういう意図でこの店にきたのか判断がつかない。本当に言葉通り?それとも自分に未練があったりする?
そんな事を考えつつ、三郎が注文したフルーツサンドとアイスコーヒーを厨房で作り、持っていった。
なぜか三郎は母と美絵と仲良くなっていた。二人とも三郎のそばのカウンター席に座って、おしゃべりに花を咲かせていた。といっても三郎はおばさん二人のパワーに圧せられ、ほとんど話していなかったが。
「三郎さんって心理カウンセラーなの?」
美絵はちょっと大きな声を上げる。
「ええ、仲間と一緒にメンタリストやってるんです」
「初耳。IT企業はどうしたの?」
確か三郎はIT企業の人間だったはずだが、いつのまにか起業していた。名刺を貰うと、本当に心理学をベースにしたカウンセラーをやっているようで、YouTube動画の再生回数も多いという。最近は書籍の依頼もあるとか。
三郎の転身に杏奈は驚く。振った時のようなナヨナヨした感じもない。今日はカウンセラーの仕事で地平町に来たそうだが、このカフェをも見つけて杏奈を思い出したらしい。この口調から色っぽい雰囲気は無いので、杏奈はホッとした。今更振られた男など見たくないというのが一番の本音だった。
しかし、母は三郎を気に入ってしまった。確かにおばちゃん受けする好青年タイプだが。
「ね、うちの杏奈とまたデートしない?」
こんな事まで言っている。
「そうよ。三郎くんって杏奈ちゃんとお似合いじゃない?」
美絵までごり押しを始めた。
「ちょっと待ってよ」
杏奈は否定しようとするが、母と美絵はノリノリだった。
「でも、一回杏奈と会ってもいいかも?」
なぜか三郎も二人のノリにやられていた。
「杏奈には悪かったなーってちゃんと謝りたいし、うちの女神の話もしたいし」
三郎がアイスコーヒーをすすると、女神の話をした。女神とは三郎が飼っている虎猫で、本当に女神のように心酔しているという。虎猫の写真で作ったクリアファイルや缶バッチをカバンから取り出して、みんなに見せていた。
「あら、可愛い!」
「可愛い」
母と美絵はきゃっきゃと騒いでいたが、杏奈の気持ちは微妙だ。うちのミャーの方が毛並みがいいし、可愛い。それに話す事もできるし頭もいいし。そんな親バカな嫉妬心を出さないよう、杏奈は三郎に話を合わせる。
「確かに可愛いわね」
「ああ。俺は全ての猫を神だと思っているんだ。こんな可愛い生き物はいないよ」
うっとりと目尻を下げる三郎は若干気持ち悪かったが、最近の休日は保護猫の活動もするようになったという。
「へぇ……」
杏奈はドン引きだが、以前の三郎より幸せそうには見えた。母と美絵のプッシュのより、再び会う流れもできてしまい、杏奈は止めに入ろうとしたところ、藤也が店に駆け込んできた。
開店直後から母や美絵がやってきて、おしゃべりに花を咲かせていた。二人のやかましい声を聞いていると、ナァの事の不安は少し薄れてきた。
それにしても銃価達の犯行だったなんて。
藤也が言っていた事があっていた事も驚きだが、これは立件できるのだろうか。警察は銃価と関わりが深いという。実際、空谷も何も調査をしている様子はない。
「ママ、鳩子さんの様子はどう?」
杏奈はおしゃべりに花を咲かせている母に声をかけた。
「それがミケ子の事がショックで塞ぎ込んでいるの」
「心配ね」
美絵は顔を顰めてパウンドケーキを頬張る。
「この町の猫も居なくなっているみたいだし、一体どうなっちゃったの。猫の呪い?」
母のいう事も嘘ではない気がした。普段、目に見えないものなど信じない杏奈だが、ミャーもそんなような事を言っていた。人間には罪があるから、動物にも嫌われている、神様と和解するよう願っているとか。
今のところはミケ子殺しとこの町で猫がいなくなって事の関係性はわからない。いくら銃価のような組織でも町中の猫を隠密に捕まえるのは難しいだろう。
「まあ、それより杏奈はどうなの? 彼氏はできた?」
猫の話題が終わると、母は杏奈の婚活の方へ話題を変えてきた。
「ママは早く杏奈の子供が見たいわぁー」
「いや、私はあんまり子供は欲しくは無いのよね」
理由ははっきりしまいが、ワンオペ育児で疲労している友達も多く、子供を持つ事はさほど希望していなかった。このカフェも手放す必要もあるかもしれないが、母は全く気にしていなかった。
「だったら杏奈ちゃん、うちの息子に会わない?」
「えー、それはちょっと……」
美絵の息子に会う事を提案されたが、この町で有名なヤンキーだった。美絵の息子・修司はバツ3で子供もいるが、YouTuberになるとか言って起業しているらしい。聞くだけで地雷物件だ。それに修司も自分と似たような気の強いヤンキー美女が好きなので、杏奈のような見た目は女子っぽい女は好みではなく、同じ街に住み何度か顔を合わせていても、色っぽい関係になる格率はとても低かった。
「まあ、うちの息子はヤンキーだからねぇ」
「あはは!」
美絵と母が大笑いしたところ、客が入ってきた。急いで水とメニューを持っていく。
「あ、三郎じゃない」
カウンター席に座った客の顔は、三郎だった。かつて婚活で知り合いデートまでしたが、振ってきたあの男である。
少し長めの前髪をセットし、きちんとしたスーツ姿の三郎は、都内では馴染んでいたが、この町では浮いて見えた。藤也はユニクロやGUのシャツやジーパンばっかりだった事を思い出す。あの男は見かけは全く牧師に見えない。
「いや、杏奈の店はこの辺りかなーって思ってちょっと覗いてみたんだよ」
「へぇ」
三郎がどういう意図でこの店にきたのか判断がつかない。本当に言葉通り?それとも自分に未練があったりする?
そんな事を考えつつ、三郎が注文したフルーツサンドとアイスコーヒーを厨房で作り、持っていった。
なぜか三郎は母と美絵と仲良くなっていた。二人とも三郎のそばのカウンター席に座って、おしゃべりに花を咲かせていた。といっても三郎はおばさん二人のパワーに圧せられ、ほとんど話していなかったが。
「三郎さんって心理カウンセラーなの?」
美絵はちょっと大きな声を上げる。
「ええ、仲間と一緒にメンタリストやってるんです」
「初耳。IT企業はどうしたの?」
確か三郎はIT企業の人間だったはずだが、いつのまにか起業していた。名刺を貰うと、本当に心理学をベースにしたカウンセラーをやっているようで、YouTube動画の再生回数も多いという。最近は書籍の依頼もあるとか。
三郎の転身に杏奈は驚く。振った時のようなナヨナヨした感じもない。今日はカウンセラーの仕事で地平町に来たそうだが、このカフェをも見つけて杏奈を思い出したらしい。この口調から色っぽい雰囲気は無いので、杏奈はホッとした。今更振られた男など見たくないというのが一番の本音だった。
しかし、母は三郎を気に入ってしまった。確かにおばちゃん受けする好青年タイプだが。
「ね、うちの杏奈とまたデートしない?」
こんな事まで言っている。
「そうよ。三郎くんって杏奈ちゃんとお似合いじゃない?」
美絵までごり押しを始めた。
「ちょっと待ってよ」
杏奈は否定しようとするが、母と美絵はノリノリだった。
「でも、一回杏奈と会ってもいいかも?」
なぜか三郎も二人のノリにやられていた。
「杏奈には悪かったなーってちゃんと謝りたいし、うちの女神の話もしたいし」
三郎がアイスコーヒーをすすると、女神の話をした。女神とは三郎が飼っている虎猫で、本当に女神のように心酔しているという。虎猫の写真で作ったクリアファイルや缶バッチをカバンから取り出して、みんなに見せていた。
「あら、可愛い!」
「可愛い」
母と美絵はきゃっきゃと騒いでいたが、杏奈の気持ちは微妙だ。うちのミャーの方が毛並みがいいし、可愛い。それに話す事もできるし頭もいいし。そんな親バカな嫉妬心を出さないよう、杏奈は三郎に話を合わせる。
「確かに可愛いわね」
「ああ。俺は全ての猫を神だと思っているんだ。こんな可愛い生き物はいないよ」
うっとりと目尻を下げる三郎は若干気持ち悪かったが、最近の休日は保護猫の活動もするようになったという。
「へぇ……」
杏奈はドン引きだが、以前の三郎より幸せそうには見えた。母と美絵のプッシュのより、再び会う流れもできてしまい、杏奈は止めに入ろうとしたところ、藤也が店に駆け込んできた。
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