第22話 真夜中の作戦会議

文字数 2,467文字

 ミャーはソファでリラックスして寝そべっていた。少し眠そうだ。

 一方藤也と杏奈は犯人がわかった嬉しさに気持ちが昂っているのは確かだった。

『ちょっとあんたたち、テンション高いわよ?とりあえずお茶でも飲んだら?』


 ミャーの言う事ももっともなので、杏奈はキッチンにいき、お湯をわかした。

「お茶はどこにいあるのー?」
「ポットのあるところの棚だよ。適当にお茶持ってきてくれ」

 杏奈はお湯をわかしている間、お茶を探す。

 意外な事に「女子力高!」なオーガニックガーブティーや無農薬日本産の紅茶やルイボスティーが詰まっていた。

 これは藤也の趣味か?

 首を傾けつつも、夜という事でカモミールティーを選んで入れた。カモミールティーは、ハーブティーの一つだが、 リラックス作用があり夜飲むと良いと言われている。すっきりと爽やかな林檎のような香りがいい。杏奈も時々飲んでいた。ちなみにカモミールの香りは猫にとっても安全だ。柑橘系は猫には良くない香りときき、杏奈は家では柑橘系にものは排除していた。

「おぉ、ありがとう。本当杏奈は女子力高いな」

 藤也はカップに入ったカモミールティーを受け取ると、何故かにがりの原液を入れて飲んでいた。

「なにそれ、にがりなんて入れて美味しいの?」
『初めて聞くわよ、そんな飲み方』

 ミャーもかなり驚いていた。

「にがりは健康にいいからな。よく飲み物に混ぜているんだよ。杏奈も入れるか?」
「不味そう」
「いや、不味いがにがりを原液で飲むと便秘に効くぞ。まあ、大量に入れたら死ぬからダメだが」
「にがりで死ぬの?」
「大量に飲んだら死ぬね」

 そんなどうでも良い健康情報を藤也は披露していた。

 世の中の大企業が流通している商品は、コスパ重視で健康に悪いものも多いが、良心的な小さな企業が売るオーガニックハーブティーや無農薬の紅茶やルイボスティーは健康に良いのだそう。

「俺は陰謀論者らしく、健康には良いもの食うぜ」
「ふーん」

 杏奈は少し冷めかけてきたが、道理で「女子力高!」なお茶をいっぱい持っていたわけか。

『まあ、お茶の話題はいいじゃない。これからどうするの? 事件の事を話しましょうよ』

 ミャーがそう提案し、ソファでお茶を飲みながら今後の事を話し合った。

 藤也はにがり入りのカモミールティーを不味いと言い放っていたが、確かに年齢の割には藤也は肌が綺麗だ。髪の毛も艶があり、ハゲてもいない。白髪もない。そう思うと、陰謀論好きは意外と女子力が高いのか?杏奈はちょっと悔しい気持ちにもなった。

「嫌がらせの犯人は坂口っていう女で、銃価の信者であってる?」

 杏奈は一応ポケットからメモを取り出して確認する。

 藤也もミャーも杏奈の言葉に頷く。

「坂口がミケ子殺しのと何か関わってるのかしら」
「それはわからないが、銃価会員とミケ子を殺した可能性は高いよ」
『全くその通りよ。この件はやっぱりカルトよ!』

 ミャーは、坂口の家に貼ってあった銃価のポスターを思い出して、ぶつぶつと文句を言っていた。政治と宗教を分けるべきだと可愛い見た目に反したお堅い事を呟く。

「銃価の信者がわかったのは良いけど、これからどうする、杏奈」
「そうねぇ。警察に嫌がらせの件は言わない方がいい?」
「まあ、それは後ででいい。まず、坂口を探ってみようぜ。何かわかるかもしれん」
『探るってどうやって?』

 愚痴をこぼし終えたミャーは、少し眠そうだった。確かにもう深夜と言っていい時間だった。

「ミャー、それは君が探るのが一番だ。とりあえず、明日坂口の家を探って欲しい」
『えー、やっぱり怖くなってきたわ』
「そうよ、カルト信者の家だなんて」

 杏奈は心底嫌そうに眉根を寄せた。

「そんな差別するなよ。末端の信者は被害者みたいなもんだぞ。うちの教会にも元カルトの人もくるが、純粋に社会をよくしようとしている人も多いんだ。むしろ、純粋だから騙されたと言っていい」

 そんな事を藤也から聞いてしまうと、ちょっと自分の言動が恥ずかしくなってくる。たしかに純粋な気持ちを持った人の方が騙されやすいのは理解できた。もし自分が宗教に勧誘されても「一円の得にならんだろう」と損得勘定してしまうはずだ。全く純粋ではない杏奈は、それは理解できる。

『そうねぇ。悪いのは上の方で甘い汁吸ってるやつね』
「ただ、家族や周りの人が忠告していてもカルトにハマっていたら、それはそれで問題ある。悪いのは上の方だが、結局カルトに騙されるのも心のに欲があるからだ。楽して誰かに寄り掛かりたいっていう依存欲とかだな。聖書でも罪を犯すのは、欲が熟して誘惑されるからだと書いてある。欲を持つ全ての発端は心の傷だろう。まずそれを治さないと」

 杏奈が藤也の言い分を聞きながらカモミールティーをすする。

 聖書には悪魔から誘惑に合うのは心の中の欲が引き寄せるといった箇所があるらしい。藤也とミャーに説明された。

「だから、杏奈も金持ちになりたいとかモテモテになりたいとか思わない方がいいぞ。今あるもので満足して慎ましく生きろ」
「けっこう言うわね」

 いつになくハッキリとものを言う藤也に杏奈は面食らう。こうしてみるとオカルトや陰謀論好きの痛い男には見えない。普通にしっかりした年相応の男に見えた。まあ、おそらく聖書からパクってそう言ってるんだろうけど。

『わかったわ。明日坂口の家に探りに行ってみる』

 藤也の言葉のミャーも何か心を動かされたのかもしれない。明日、ミャーが坂口の家に探りに行く事は決定した。

「いいのか、ミャー」
「本当に良いの?」
『うん。もしかしたら猫がまた被害に遭うかもしれないし、行くわ』
「さすが、ミャーだ!」

 笑顔で藤也はミャーに頬擦りしていた。よっぽど嬉しいらしい。

『くすぐったいわ、藤也』
「ミャー、お前は本当に素晴らしい猫だ!」

 猫と戯れている藤也は心底楽しそうだった。この人も純粋なのかもしれない。一方自分は、さっき藤也に言われたような欲は人並みに持っている。損得勘定するのも好きだ。

 彼らといると、自分が純粋な存在ではない事を杏奈は感じていた。
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登場人物紹介

橋口杏奈(はしぐち あんな)

カフェ店長。見た目は女子力高めだが、中身は男っぽく、損得勘定も好きなのが玉に瑕。

ミャー

一見かわいい黒猫。しかしその正体は…

柏木藤也(かしわぎ とうや)

町の牧師。陰謀論や都市伝説好き。

変わり者だが根は純粋。

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