第36話 どうやって宣伝しよう?
文字数 2,245文字
杏奈は藤也の教会へ向かった。ミャーを迎えに行く為だった。
二階の礼拝堂まで階段で登っていく。
「つ、疲れた……」
藤也は、顔を真っ青にしながらパソコンに向かっていた。かなりお疲れのようだった。その隣でミャーがあれこれと指示を出していて、人目で上下関係が見てとれる。
「お疲れのようね、藤也」
「聞いてくれよ、杏奈。ミャーはスパルタ過ぎだよ」
「一体、今は何やってるの?」
藤也に詳しく聞くと、伝道に使う画像を作っているようだ。これにプロジェクターでうつし、紙芝居風のみんなに発表してするという。杏奈も藤也のパソコンチラ見すると、画像やイラストをふんだんに使って手が込んでいる事がわかる。
『まだまだよ、藤也。これから声や音楽入れてもらいますからね』
「この猫、厳しいよ!」
疲れきった藤也を見ていると、ちょっと可哀想になってきたが仕方ないだろ。
そんな藤也の何か食べさせようと思ってキッチンに行くと、冷蔵庫の筍ご飯と味噌汁が入っていた。
ミャーに聞くとマユカが作って持ってきたらしい。意外と料理好きだったようで、見た目も美味しそうだった。
筍ご飯と味噌汁を軽く温めて、礼拝堂の奥にあるテーブルに持っていった。
「おぉ、杏奈助かるぜ」
「いいけど、大丈夫? 疲れてない?」
一応心配してやったが、本人は大丈夫だと言い張っている。意外と頑固そうなので、これ以上何を言っても無駄そうだった。
杏奈は筍ご飯を食べながら、伝道の計画の進捗を聞いた。使う資料はだいたいできているそうだが、問題は人が集まるのか?という話だった。予定は来週の日曜日の礼拝の後に伝道のイベントを発表するそうだが、宣伝不足は藤也もミャーも心配していた。
「一応SNSでは呼びかけているんだが、当日誰も来なかったらどうしよう」
珍しく藤也は後向きだった。ただでさえ、日本人は宗教アレルギーがある。伝道のイベントを教会で開いて人が来るかどうか一番心配しているらしい。
「確かに、一般的な日本人は教会に行くのはハードルが高いわよねぇ」
杏奈はしみじみと頷く。杏奈の子供の頃はオウム真理教が騒がれていた。宗教アレルギーの日本人の気持ちは杏奈はよくわかった。
『それに桜庭香澄が来たのよね。伝道イベントなんか邪魔してやるって言ってたわ。嫌な女』
ミャーから香澄の名前を聞いて杏奈は目を丸くする。ミャーと藤也に聞くと、香澄はこの教会の天敵らしい。なんでも昔、藤也がこの地域にある占いの悪霊を祓ったところ、逆恨みされているらしい。
「っていうか悪霊祓いなんてできるの?」
それは初耳だった。
「ああ。地域に棲む悪霊もいるから、時度イエス様の権威を借りて祓っているんだが、お陰で香澄の顧客が占いに飽きちゃってよ。それで俺は逆恨みされてるってわけ」
「へぇ。そういえばウチの店にも香澄が来たけど、なんだったのかしら。営業?」
「だろうな。客が減って困ってるんだろ。占いなんてみんな詐欺だからな、杏奈も行くなよ」
藤也と香澄にこんな因縁があるとは知らなかった。牧師も意外と恨まれやすい職業なのかもしれない。
『まあ、香澄の事なんてどうでもいいじゃない?問題はどうやって宣伝するかよ』
ミャーはテーブルの上に乗り上げ、少々偉そうに話題を変える。
『戦国時代あたりの外国人宣教師なんかは、金平糖配って日本人の気をひいていたみたいだけど、今どき日本人は金平糖なんて喜ばないわよねぇ』
ミャーの話を聞きながら、杏奈は何か頭に閃くものがあった。
「クッキー配ったらどう? アイシングクッキーで色々デコるの。最近アイシングクッキーがSNS映えするって話題になってるのよねぇ」
何気なく提案したつもりだったが、藤也もミャーも食いついてきた。
「それだよ、杏奈。猫の形のクッキー作ってくれないか?今回のイベントでは、猫がメインテーマなんだよ。それだ! クッキー作ってくれよ」
『それは良いアイディアね。子供や女性が食いつくわ』
ミャーと藤也は乗り気だったが、杏奈は頭の中で電卓を叩いていた。材料費、手間、時間。無償で二人に協力するとなると、全額赤字だ。骨折り損だ。
「そこをなんとか、頼むよー。最低50セットだけでも!」
珍しく素直に頭を下げる藤也に杏奈に気持ちも揺れてきた。
竹墨と食糧着色料を使えば、猫のアイシングクッキーはできる。材料は問題ない。
問題は時間。閉店後の時間を使えば出来ない事はない?
「わかったわよ。ほんの少しだけよ」
藤也の熱意に折れ、杏奈は一円の得にならない仕事を請け負う事になった。
「そのかわり、うちの店も宣伝するのよ?」
「おぉー、杏奈。いや、杏奈様マジで助かったよ!」
顔をくしゃくしゃにして喜ぶ藤也を見ていたら、たまには得にならない仕事も悪くない気もした。我ながら、お人好しだとおもう。
『杏奈、本当にありがとう。聖書にも喜んで今与える人が与えられるってあるからね。きっと杏奈は天国の富を積んだ事になるわ』
ミャーの言う事はよくわからないが、確かにたまには損得勘定を抜きに行動しても良い気がした。
「よし、杏奈。店の宣伝はSNSでするぞ。あとは、何か欲しいものないか?」
藤也にそう言われて、急に一つの事を思いついて提案した。
「最近、三郎とちょといい感じなのよね。何かモテテクニックみたいなものは知らない?」
こんな相談を牧師にして果たしてよかったのか、迷ったが意外と藤也は乗り気だった。
再びホワイトボードを持ってきて、ドヤ顔を見せた。心なしか疲れが飛んでいるように見えた。
二階の礼拝堂まで階段で登っていく。
「つ、疲れた……」
藤也は、顔を真っ青にしながらパソコンに向かっていた。かなりお疲れのようだった。その隣でミャーがあれこれと指示を出していて、人目で上下関係が見てとれる。
「お疲れのようね、藤也」
「聞いてくれよ、杏奈。ミャーはスパルタ過ぎだよ」
「一体、今は何やってるの?」
藤也に詳しく聞くと、伝道に使う画像を作っているようだ。これにプロジェクターでうつし、紙芝居風のみんなに発表してするという。杏奈も藤也のパソコンチラ見すると、画像やイラストをふんだんに使って手が込んでいる事がわかる。
『まだまだよ、藤也。これから声や音楽入れてもらいますからね』
「この猫、厳しいよ!」
疲れきった藤也を見ていると、ちょっと可哀想になってきたが仕方ないだろ。
そんな藤也の何か食べさせようと思ってキッチンに行くと、冷蔵庫の筍ご飯と味噌汁が入っていた。
ミャーに聞くとマユカが作って持ってきたらしい。意外と料理好きだったようで、見た目も美味しそうだった。
筍ご飯と味噌汁を軽く温めて、礼拝堂の奥にあるテーブルに持っていった。
「おぉ、杏奈助かるぜ」
「いいけど、大丈夫? 疲れてない?」
一応心配してやったが、本人は大丈夫だと言い張っている。意外と頑固そうなので、これ以上何を言っても無駄そうだった。
杏奈は筍ご飯を食べながら、伝道の計画の進捗を聞いた。使う資料はだいたいできているそうだが、問題は人が集まるのか?という話だった。予定は来週の日曜日の礼拝の後に伝道のイベントを発表するそうだが、宣伝不足は藤也もミャーも心配していた。
「一応SNSでは呼びかけているんだが、当日誰も来なかったらどうしよう」
珍しく藤也は後向きだった。ただでさえ、日本人は宗教アレルギーがある。伝道のイベントを教会で開いて人が来るかどうか一番心配しているらしい。
「確かに、一般的な日本人は教会に行くのはハードルが高いわよねぇ」
杏奈はしみじみと頷く。杏奈の子供の頃はオウム真理教が騒がれていた。宗教アレルギーの日本人の気持ちは杏奈はよくわかった。
『それに桜庭香澄が来たのよね。伝道イベントなんか邪魔してやるって言ってたわ。嫌な女』
ミャーから香澄の名前を聞いて杏奈は目を丸くする。ミャーと藤也に聞くと、香澄はこの教会の天敵らしい。なんでも昔、藤也がこの地域にある占いの悪霊を祓ったところ、逆恨みされているらしい。
「っていうか悪霊祓いなんてできるの?」
それは初耳だった。
「ああ。地域に棲む悪霊もいるから、時度イエス様の権威を借りて祓っているんだが、お陰で香澄の顧客が占いに飽きちゃってよ。それで俺は逆恨みされてるってわけ」
「へぇ。そういえばウチの店にも香澄が来たけど、なんだったのかしら。営業?」
「だろうな。客が減って困ってるんだろ。占いなんてみんな詐欺だからな、杏奈も行くなよ」
藤也と香澄にこんな因縁があるとは知らなかった。牧師も意外と恨まれやすい職業なのかもしれない。
『まあ、香澄の事なんてどうでもいいじゃない?問題はどうやって宣伝するかよ』
ミャーはテーブルの上に乗り上げ、少々偉そうに話題を変える。
『戦国時代あたりの外国人宣教師なんかは、金平糖配って日本人の気をひいていたみたいだけど、今どき日本人は金平糖なんて喜ばないわよねぇ』
ミャーの話を聞きながら、杏奈は何か頭に閃くものがあった。
「クッキー配ったらどう? アイシングクッキーで色々デコるの。最近アイシングクッキーがSNS映えするって話題になってるのよねぇ」
何気なく提案したつもりだったが、藤也もミャーも食いついてきた。
「それだよ、杏奈。猫の形のクッキー作ってくれないか?今回のイベントでは、猫がメインテーマなんだよ。それだ! クッキー作ってくれよ」
『それは良いアイディアね。子供や女性が食いつくわ』
ミャーと藤也は乗り気だったが、杏奈は頭の中で電卓を叩いていた。材料費、手間、時間。無償で二人に協力するとなると、全額赤字だ。骨折り損だ。
「そこをなんとか、頼むよー。最低50セットだけでも!」
珍しく素直に頭を下げる藤也に杏奈に気持ちも揺れてきた。
竹墨と食糧着色料を使えば、猫のアイシングクッキーはできる。材料は問題ない。
問題は時間。閉店後の時間を使えば出来ない事はない?
「わかったわよ。ほんの少しだけよ」
藤也の熱意に折れ、杏奈は一円の得にならない仕事を請け負う事になった。
「そのかわり、うちの店も宣伝するのよ?」
「おぉー、杏奈。いや、杏奈様マジで助かったよ!」
顔をくしゃくしゃにして喜ぶ藤也を見ていたら、たまには得にならない仕事も悪くない気もした。我ながら、お人好しだとおもう。
『杏奈、本当にありがとう。聖書にも喜んで今与える人が与えられるってあるからね。きっと杏奈は天国の富を積んだ事になるわ』
ミャーの言う事はよくわからないが、確かにたまには損得勘定を抜きに行動しても良い気がした。
「よし、杏奈。店の宣伝はSNSでするぞ。あとは、何か欲しいものないか?」
藤也にそう言われて、急に一つの事を思いついて提案した。
「最近、三郎とちょといい感じなのよね。何かモテテクニックみたいなものは知らない?」
こんな相談を牧師にして果たしてよかったのか、迷ったが意外と藤也は乗り気だった。
再びホワイトボードを持ってきて、ドヤ顔を見せた。心なしか疲れが飛んでいるように見えた。
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