第26話 ミャーの調査結果

文字数 2,329文字

 結局藤也は閉店まで店に居座り、パソコンで仕事していた。

 場所代をとろうかとも思ったが、このカフェをSNSで陰謀論者に宣伝してくれたから大目にみよう。陰謀論者好みのヘルシーで無添加なメニューを開発しても良いかもしれないと考える。

 そんな事を考えながら、閉店準備をして藤也と一緒に教会に向かった。

 途中で犬のゴローを散歩させている糸原に会った。

「杏奈ちゃん、ついに彼氏ができたんかい?」

 妙な誤解を受けた。

「いえいえ。こんな中身が男らしい女性は俺の手におえません」
「ちょっと、藤也どういう事?」
「あはは、仲良いんだ」

 糸原は誤解したままだったが、いちいつ訂正するのは面倒になってきた。

「ところで、ゴローちゃん様子はどう?」

 杏奈はゴローをちらりとみる。遠目には揚げ物みたいに見える綺麗な毛並みの柴犬だが、またしても杏奈の顔をみるとプイっと顔をふせる。しかし、なぜか藤也には懐いていた。藤也の足元にすりすりと纏わりついている。

「ゴローは牧師さんが好きなんかねぇ」

 糸原は首を傾げる。

「そういえば俺、けっこう動物に懐かれやすいんだけど」
「まあ、牧師さんは人がいいから。今度教会に行ってみようかね。昔私も教会でボランティアみたいなこともしたことあるんだよ」

 糸原はそう言ってゴローを連れて家の方に帰っていった。ゴローは寂しそうな声をあげて、杏奈も藤也もキュンとしてしまった。やっぱり動物は可愛い。

 一方で悪魔崇拝儀式(?)で猫を殺すものがこの町にいるなんて信じられないと杏奈は感じた。

「ミャーは大丈夫かしら」
「だと良いんだけどなぁ」

 そんな事をいいつつ、教会の礼拝堂に向かう。礼拝堂の方は基本的に鍵をかけていないらしく、ドアも半開きだった。

「ねえ、鍵つけないで大丈夫なの?」
「大丈夫だろう。金目のもんないし」
「だからって……」

 日本は全体的に治安は良い方だが、全く犯罪がないわけでもなく、つい最近ミケ子が殺されたわけなのだが。

「教会に泥棒なんて、神様が怖くて普通できないだろう」
「まあ、一理あるけど」
「昔、献金箱を盗んだやつがいたけど、交通事故にあって歩けなくなってたよ。別に交通事故あう人が全員悪いと言うわけじゃないけど、その事についてはお察し案件だね」
「こわっ!」
「神社のお賽銭箱だって怖くて盗むやついないだろ。イエス様は優しいイメージだが、父なる神様がブチ切れたら本当に超怖いからね!」

 そんな事を言いつつ、礼拝堂の隅にあるテーブルに向かう。

 ミャーがテーブルの上に乗り、子供用の絵本をみていた。子供向けの聖書の事を書いた絵本のようだ。

『ちょっと、藤也も杏奈も遅いわよ』

 ミャーはブーブー文句を言っていた。

「しかし腹減ったな」
「ちょっと店であれだけ食べてたじゃない」
「頭使ったから糖分切れたわ。陰謀論者は断食する事が多いが、ケースバイケースだぜ」

 という事で、出前をとる事になった。昨日は杏奈がピザを奢ったので、今日は藤也がそばの出前をとる事になった。

 商店街にある蕎麦屋だが、コロナを怖がってしまい、今は出前しかやっていなかった。藤也は「コロナ脳の店の割には美味しい」と失礼すぎる事を言っていたが、麺はツルツルっと舌触りもよく、出汁も濃いめで美味しかった。

「さあ、ミャー。今日の事を報告してくれる?坂口はどうだった?」
「ミャーどうだったか? 坂口に虐められたりしたか?」

 ミャーはテーブルの上で人間のようにため息をつく。

『意外と大丈夫だったわ。でも、あまり良い情報でもないかもしれない』

 ミャーはちょっと説明しにくそうだが、今日一日の事を順を追って説明してくれた。

 朝、まず坂口の家の庭に行ったミャーは、異様な音にきづく。

 坂口は、変な音楽をかけながらお経を唱えていた。もちろん銃価が教えるお経で、その教祖に祈るものだった。

 『しかも超嫌なお経なのよ。相手の不幸を呪う祈りだったの。祈りっていうか呪文ね。坂口はどうやら夫に不倫されている見たい。娘も成績悪くて不登校。夫と娘に不幸になれってお経を唱えていたわ』
「ぎょぇー、信じられん!銃価なんかに関わってると頭イカれているのかも」

 藤也はわざとらしく身体をぷるぷると震わせていた。

「夫はともかく娘に不幸になれって酷いわね」

 杏奈も顔をしかめて蕎麦つゆを啜る。

「肉の親なんてそんなもんだよ。天にいる父なる神様と違うからねぇ」
『そうよ、杏奈。無償の愛を注げるのは神様だけよ』
「ふーん。キリスト教は人を呪ったりするの?」
『馬鹿言うんじゃありませんよ!』
「杏奈、うちは世の中のご利益宗教とは違うんだよ。人を呪うなんてもってのほか。むしろ聖書では敵を愛せっていってる」
「それは納得できないのよねぇ」

 杏奈でもキリスト教は敵を愛せって言っている事を思い出したが、そんな事が可能なのか全くわからない。普通は復讐したくなるものではないだろうか。

「まあ、罪を犯している同じクリスチャンがいたら指摘する事も必要だが、人間はどっか悪い存在なんだよ。それに俺が本当に正しかったら神様が代わりに復讐してくれるから良いんだよ」
「そんなもん?よくわからないわ」
『まあ、それはともかく、坂口についれ説明するわ』

 話が脱線しかけたので、ミャーが引き続き坂口について説明する。

『坂口は洗濯ものを干しているとき、一階の窓が開いたの。だから、こっそり家に入ってみたの』
「おぉ、ミャー。そんな危険をおかしてくれたのかっ!」

 何を感動したのか疑問だが、藤也はミャーを頬擦りした。

『ちょ、くすぐったい! じゃなくて! 家に入ったら、とんでも無い事が起きていたのよ』
「とんでもない事って?」
「なんだ?」

 杏奈も藤也も同時に質問する。

『猫がいたの。真っ白な猫』
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登場人物紹介

橋口杏奈(はしぐち あんな)

カフェ店長。見た目は女子力高めだが、中身は男っぽく、損得勘定も好きなのが玉に瑕。

ミャー

一見かわいい黒猫。しかしその正体は…

柏木藤也(かしわぎ とうや)

町の牧師。陰謀論や都市伝説好き。

変わり者だが根は純粋。

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