第39話 デートの朝

文字数 1,588文字

 杏奈が作った黒猫のアイシングクッキーは藤也にもミャーにもかなり好評だった。

 特に藤也は自分のSNSにこのクッキーの画像とイベント来場者に無料で配るとコメントをつけると「イイね!」がかなり貰えたらしい。絶賛コメントも貰えたらしい。

 連日アイシングクッキー作りで骨が折れたわけだが、藤也のこのSNSのお陰で、自信を失いかけていたが、再びイベントにヤル気をだし準備を進めていた。

 ちなみに占い師の香澄が藤也に嫌味を言ってきた事もあったそうだが、しばらく無視しているとだんだん来なくなったそうだ。

 そんな忙しい日々を送りつつ、三郎とデートする日になった。

 杏奈と三郎の休日が合致した金曜日にデートに行く事になった。

 猫好きの三郎おすすめの雑貨屋と猫カフェに行く予定だった。前にデートした時は、夜のデートだったが、今回は昼間に会う。

 猫カフェが昼間にしかやっていないという理由だったからだが、ミャーは何か誤解していた。

『偉いわ、杏奈。清いお付き合いなのね? そうなのよね?』

 そう言われても、杏奈の内心では清い関係をしたい気持ちは薄かった。

「いや、別にそんなつもりは無いんだけど?」
『ダメよ! 婚前交渉は絶対やったらダメね!』

 久々にミャーは二本足で、デートに出かける前の杏奈の前に立ちはだかった。これだと玄関までたどり着け無い。

「ねえ、ミャー。今は令和よ。そんな事守っている人誰もいないでしょ」
『藤也はちゃんと守っているわよ』

 聞きたくも無い藤也の事情を聞いてしまい、杏奈は顔を顰める。

「なんでキリスト教って自由恋愛禁止なの?」

 とりあえず訳を聞いて見る事にした。

『聖書に書いてあるけど、身体の関係を持った相手とは身も心も一体になるの。それぐらい神様は一対一の夫婦関係を祝福しているというわけ。クリスチャンとイエス様の関係も夫婦に喩えられているし、信仰も結婚と似たような契約関係になるという事ね』
「ふーん。っていうか、今までの元カレと私って身も心も一体になってるわけ?」

 それを想像するとちょっと気分が悪くなってきた。確かにとっくに別れた元カレから時々連絡がきたりするが、そのせい? 

 そういえば処女と結婚する男性の幸福度が高いというネットニュースを見た事がある。男性が考える事はキモいと思ったものだが、何かミャーが言っている事と関係ある気がした。

『そうよ。だから売春もダメなの。遊女と客の身体と心も全部一体になるわけね。相手が持ってる病気や呪いも受けるの。だから昔の遊郭の女性は気が狂って亡くなった人もいるの』
「そう言われると怖いんですけど」
『こんなケースは無いでしょうけど、クリスチャン女性が悪魔崇拝者と結婚したら、間違いなくクリスチャン女性の信仰は堕落するわね。人間は残念ながら悪いものの影響を受けやすいし、肉体関係を持つ事は、それぐらい心も相手と一緒になってしまう』

 杏奈の中では三郎と深い関係になりたい気分は消えてしまった。デート前に聞く話ではなかった。

『大丈夫。クリスチャンになって神様に悔い改めれば、肉体関係を持った相手とも関係切る事できるから』
「え? キリスト教って縁切り系もできたの? 初耳なんですけど」
『縁切りっていうか魂の連結を断ち切る祈りね。自分勝手に嫌ってる上司と友達や親子の関係は無理だけど、ちゃんと悔い改めれば肉体関係を持った相手との関係は切れるわ。もしかしたら今の杏奈の男運の無さも過去の恋愛関係が原因かも知れないわね。そもそも自由恋愛は罪だから、何らかの悪霊の影響はあるわよ』

 本当にデート前に聞く話ではなかった。杏奈のテンションはものすごく下がっていた。

『じゃあ、今日は早く帰ってくるって約束してくれる? 杏奈』
「そ、そうね。早く帰ってくるわ」

 杏奈は顔を引き攣らせながら、ミャーと約束して家を出た。

 こうして見ると、ミャーって過保護な親みたい。
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登場人物紹介

橋口杏奈(はしぐち あんな)

カフェ店長。見た目は女子力高めだが、中身は男っぽく、損得勘定も好きなのが玉に瑕。

ミャー

一見かわいい黒猫。しかしその正体は…

柏木藤也(かしわぎ とうや)

町の牧師。陰謀論や都市伝説好き。

変わり者だが根は純粋。

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