第15話 動物が冷たい?
文字数 2,192文字
ミャーを藤也の教会に預けた後、真っ直ぐ商店街に入り、カフェに向かった。
書店の糸原さんが、犬のゴローを散歩させているのが見えた。すぐ挨拶をする。
糸原さんの書店が来月いっぱいで閉店となる。コロナ渦の煽りもうけ、経営が難しくなったよいう噂を聞くが本当のところはわからない。
糸原さんはもう70過ぎだし、体力的にも大変なのかもしれない。中学のときのv系バンドの雑誌や英検の参考書をよく買った思い出の書店なので、寂しい限りだ。地平商店街はこうして少しづつ歯抜けになっていた。この商店街は特に命令されなくても勝手にソーシャルディスタンスができているようだった。
「おはようございます」
「あぁ、杏奈ちゃん。おはよう」
ゴローは芝犬で糸原さんによく懐いていたが、今日はどことなく不機嫌そうだ。杏奈をチラリと見ると、ぷいと顔を伏せた。
「ゴロー、なんか機嫌悪い?」
「そうなんだよな。昨日の夜からなんだけど、原因不明さ」
糸原さんはそうぼやくと去っていった。
その後、商店街の人に何人か話しかけられたが、みんなペットが妙に不機嫌になったと言っていた。
そんな偶然ってアリ?
杏奈は店内を掃除したり、パウンドケーキを作ったり開店準備をしながら考える。
そういえばミャーは、神様と人間の間に「罪」があって不仲だから、動物も巻き添いくったと言っていた。
もしかして、ミケ子が殺されたという「罪」に怒っていたりする?
全くの仮定だが、動物的カンで人間が悪い事をしたと知ったペット達が不機嫌になっていたりして?
ミャーも猫を過剰に崇める人間が嫌いだと言っていた。自分がもし動物の立場だったら、神様と和解しろとか思ったりして?
「まあ、そんな事ないわ。あはは。あるわけないって」
オーブンから焼き上がったパウンドケーキを冷やすと、一人分にスライスしてカウンターのガラスケースにケーキを入れる。
出来立ての甘いケーキの香りを嗅ぎながら、ちょっと変な妄想をしてしまった。そもそも一般的日本人の杏奈は、罪とか神様と不仲状態である事がやっぱりよくわからない。
教会の玄関に貼ってあったポスターのように無償の愛を注ぐ存在に憧れを持つ一方、罪とか言われると超怖いと杏奈は思う。
そういえば黒字で黄色と白の文字のキリスト看板も「死後さばきにあう」とか書いてあるのを見た事がある。あれも怖い。
杏奈は人知れずプルルと震えながら、開店準備を終え、いつもの時間に開店した。昨日はあんな事があったけれど、今日は何も無い事を祈るしかない。今日は店の扉に嫌がらせの紙は貼っていなかった。それだけでもちょっと運が良い気がしてきた。
今日は、美絵と母が店にやってきた。母の姿を見て、杏奈は思わず「ゲッ」という顔をしててしまいそうになるが、今は仕事中だ。にっこりと笑顔を作って接客をする。
「全く杏奈はこの歳になってもまだ結婚していないのよぉ」
母は美絵にしばらく杏奈について愚痴っていた。杏奈のこめかみはピクピクとしてくるが、ここで怒るわけには行かないだろう。
杏奈は、過剰に嘘っぽい笑顔を見せながら二人に注文してきた紅茶のポットやパウンドケーキを持っていった。
「私がいうのもなんだけど、この店のメニュー飽きてきたわ」
「ちょっと愛子さん、正直に言い過ぎ」
「いいじゃない、美絵」
二人はしばらくマシンガントークをぶちかまし、杏奈の目は死んでいく。世間では、60過ぎの女性はもうちょっと大人しい気がするのだが。
そこへ客がもう一人入ってきた。
見た事のない顔だった。自慢ではないが、杏奈は客としてきたものの顔は忘れなかった。
「いらっしゃいませ」
杏奈は初めての客に水とメニューを持っていった。マシンガントークを繰り広げるおばさん二人におかげで、杏奈の声もいつもより大きくなっていた。
客は高校生か大学生ぐらいの女だった。これぐらいの年代の女性客は珍しくないが、平日の朝から一人で来るには珍しい。
黒髪は艶々と天使の輪が出来、肌ももぎたて果実のようにぴちぴちだ。
単なるカンだが、大学生よりは歳下に見えた。杏奈は元英語教師で高校生と長年触れ合っていたおかげで、この客は高校生に見えた。
今は春休みは終わっているはず。
という事はサボり?
元教師としては見逃せない状況ではあるが、この客はちょっと思い詰めたような表情をしていたし追い出すような事は出来なかった。
コーヒーだけ注文して、あとはずっと一人でぼーっとしていた。
妙な客だ。
少し疑問に思うが、ここは静観しておくのがいいかも知れない。もしかしたら不登校などの問題を抱えているのかも知れない。
「ところでママ、長谷川さんちのナァちゃんは見つかった?」
杏奈は気になっていた事を母に聞いてみた。
「それが全く見つかっていないみたいなのよぉ。どうしちゃったの?」
母と美絵子は、ミケ子の件を知らなったようで、驚いていた。てっきり噂大好きなこの二人の事だから耳に入っていると思っていた。
「きゃ」
なぜかこの話題のとき、女子高生らしきあの客は動揺してコーヒーを溢していた。
「大丈夫ですか、お客様」
杏奈は苦笑しながら溢れたコーヒーを布巾で拭く。
なぜかこの女子高生らしき客は思い詰めたように俯いていた。
この客何?
もしかしてミケ子の事と関係あったりする?
嫌な予感はしたが、別に証拠はないからなんとも言えない。
書店の糸原さんが、犬のゴローを散歩させているのが見えた。すぐ挨拶をする。
糸原さんの書店が来月いっぱいで閉店となる。コロナ渦の煽りもうけ、経営が難しくなったよいう噂を聞くが本当のところはわからない。
糸原さんはもう70過ぎだし、体力的にも大変なのかもしれない。中学のときのv系バンドの雑誌や英検の参考書をよく買った思い出の書店なので、寂しい限りだ。地平商店街はこうして少しづつ歯抜けになっていた。この商店街は特に命令されなくても勝手にソーシャルディスタンスができているようだった。
「おはようございます」
「あぁ、杏奈ちゃん。おはよう」
ゴローは芝犬で糸原さんによく懐いていたが、今日はどことなく不機嫌そうだ。杏奈をチラリと見ると、ぷいと顔を伏せた。
「ゴロー、なんか機嫌悪い?」
「そうなんだよな。昨日の夜からなんだけど、原因不明さ」
糸原さんはそうぼやくと去っていった。
その後、商店街の人に何人か話しかけられたが、みんなペットが妙に不機嫌になったと言っていた。
そんな偶然ってアリ?
杏奈は店内を掃除したり、パウンドケーキを作ったり開店準備をしながら考える。
そういえばミャーは、神様と人間の間に「罪」があって不仲だから、動物も巻き添いくったと言っていた。
もしかして、ミケ子が殺されたという「罪」に怒っていたりする?
全くの仮定だが、動物的カンで人間が悪い事をしたと知ったペット達が不機嫌になっていたりして?
ミャーも猫を過剰に崇める人間が嫌いだと言っていた。自分がもし動物の立場だったら、神様と和解しろとか思ったりして?
「まあ、そんな事ないわ。あはは。あるわけないって」
オーブンから焼き上がったパウンドケーキを冷やすと、一人分にスライスしてカウンターのガラスケースにケーキを入れる。
出来立ての甘いケーキの香りを嗅ぎながら、ちょっと変な妄想をしてしまった。そもそも一般的日本人の杏奈は、罪とか神様と不仲状態である事がやっぱりよくわからない。
教会の玄関に貼ってあったポスターのように無償の愛を注ぐ存在に憧れを持つ一方、罪とか言われると超怖いと杏奈は思う。
そういえば黒字で黄色と白の文字のキリスト看板も「死後さばきにあう」とか書いてあるのを見た事がある。あれも怖い。
杏奈は人知れずプルルと震えながら、開店準備を終え、いつもの時間に開店した。昨日はあんな事があったけれど、今日は何も無い事を祈るしかない。今日は店の扉に嫌がらせの紙は貼っていなかった。それだけでもちょっと運が良い気がしてきた。
今日は、美絵と母が店にやってきた。母の姿を見て、杏奈は思わず「ゲッ」という顔をしててしまいそうになるが、今は仕事中だ。にっこりと笑顔を作って接客をする。
「全く杏奈はこの歳になってもまだ結婚していないのよぉ」
母は美絵にしばらく杏奈について愚痴っていた。杏奈のこめかみはピクピクとしてくるが、ここで怒るわけには行かないだろう。
杏奈は、過剰に嘘っぽい笑顔を見せながら二人に注文してきた紅茶のポットやパウンドケーキを持っていった。
「私がいうのもなんだけど、この店のメニュー飽きてきたわ」
「ちょっと愛子さん、正直に言い過ぎ」
「いいじゃない、美絵」
二人はしばらくマシンガントークをぶちかまし、杏奈の目は死んでいく。世間では、60過ぎの女性はもうちょっと大人しい気がするのだが。
そこへ客がもう一人入ってきた。
見た事のない顔だった。自慢ではないが、杏奈は客としてきたものの顔は忘れなかった。
「いらっしゃいませ」
杏奈は初めての客に水とメニューを持っていった。マシンガントークを繰り広げるおばさん二人におかげで、杏奈の声もいつもより大きくなっていた。
客は高校生か大学生ぐらいの女だった。これぐらいの年代の女性客は珍しくないが、平日の朝から一人で来るには珍しい。
黒髪は艶々と天使の輪が出来、肌ももぎたて果実のようにぴちぴちだ。
単なるカンだが、大学生よりは歳下に見えた。杏奈は元英語教師で高校生と長年触れ合っていたおかげで、この客は高校生に見えた。
今は春休みは終わっているはず。
という事はサボり?
元教師としては見逃せない状況ではあるが、この客はちょっと思い詰めたような表情をしていたし追い出すような事は出来なかった。
コーヒーだけ注文して、あとはずっと一人でぼーっとしていた。
妙な客だ。
少し疑問に思うが、ここは静観しておくのがいいかも知れない。もしかしたら不登校などの問題を抱えているのかも知れない。
「ところでママ、長谷川さんちのナァちゃんは見つかった?」
杏奈は気になっていた事を母に聞いてみた。
「それが全く見つかっていないみたいなのよぉ。どうしちゃったの?」
母と美絵子は、ミケ子の件を知らなったようで、驚いていた。てっきり噂大好きなこの二人の事だから耳に入っていると思っていた。
「きゃ」
なぜかこの話題のとき、女子高生らしきあの客は動揺してコーヒーを溢していた。
「大丈夫ですか、お客様」
杏奈は苦笑しながら溢れたコーヒーを布巾で拭く。
なぜかこの女子高生らしき客は思い詰めたように俯いていた。
この客何?
もしかしてミケ子の事と関係あったりする?
嫌な予感はしたが、別に証拠はないからなんとも言えない。
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