第13話 陰謀論を調べてみた

文字数 2,257文字

 藤也に送ってもらったわけだが、別に甘い雰囲気は1秒たりとも流れなかった。それどころか前髪に白髪が一本あると指摘され、カチンとしてしまった。

「ちょっと、藤也。けっこう失礼じゃない?」
「なんか杏奈って中身男なのに必死に女子装っているのが、キッツイよ〜」

 飄々と指摘され、怒る気力も失せた。さっそく明日からミャーと一緒に伝道や宣教に向けて動く事になり、明日の朝ミャーを送っていく事を約束して別れた。

「本当に失礼しちゃう。何なのよ、あのサブカルモヤシ男」
『でもそのおかげでちょっと気分も紛れてきたじゃない』
「確かにそうだけど」

 杏奈とミャーはしばらくリビングで白湯を飲んでいた。

 この特殊な猫の状態であるミャーは、本当は食べ物や飲み物を取らなくても生きられるらしい。

 ただ、気分的にすごい温い白湯は飲みたいというので、作ってやった。すごい緩い白湯がいいという。やっぱり猫舌らしい。

 杏奈もミャーと同じく白湯をちびちびと啜った。

 確かに藤也の失礼な態度にぷりぷりと怒っていると、ミケ子の死体を見たショックはほんの少し薄れてはいくが。

『私は眠くなっちゃった』

 ミャーはだんだんとうとうととし、寝室にある猫用ベッドの方に向かってしまった。

「おやすみー」

 杏奈はミャーに声をかけると、風呂にはいった。「女子力高!」なカモミールの匂いがついたバスソルトを入れて、心ゆくまでリラックスした。カモミールはリラックスできる香りだと入浴剤のパッケージに書いてあった。

 ミケ子や飼い主の鳩子の事を思うと心が痛むが、今一人で感傷的になっても仕方がないだろう。やっぱり自分は冷静すぎる部分があると嫌な気持ちになった杏奈だが、今日の夜は色々あって疲れた。

 白湯とカモミールの香りのおかげですぐ眠れると思った。

 しかし、ベッドに入ると目が覚めてきてしまった。

 寝ようとすればするほど、目が冴える。やっぱり今日の出来事はショックだった。

 一方、ミャーはスヤスヤと丸くなって眠っていた。時々人間らしいいびきまでかいている。

 ミケ子の死体を見てしまったショックはもちろん、ミャーがこんな人間のように話せる事が、やっぱり異常だ。普通に受け入れたが、やっぱりいつもと違う様子のミャーを思うと、神経が高ぶる思いだ。

 仕方がないので、再びキッチンに行き白湯を作り、リビングのソファでちびちびと飲んでいた。白湯で健康になったり、ダイエットの良いと聞くが、今のところはあまり効果は感じていない。結局、女子力高めのポーズでもやってる気がして虚しくなってくる。自分の中身は男っぽい自覚があるので、外側は女子力高めに過剰包装をしたがるのだ。

 思えば、付き合った男性にも最後までこの過剰包装が剥がせなかった。結婚までいく深い関係になるわけもなく、元カレの三朗の言い分や態度はごく当たり前のものだったのかもしれない。

 杏奈はため息をつき、スマホートフォンを取り出してSNSを開く。

 ミケ子の情報は何かないかと見てみたら、あのDMを送ってきたアカウントが消えていた。

 やっぱりイタズラか何かだったんだろうか。

 杏奈はため息をつきながらタイムランをざっと眺める。本来なら寝る前にスマホートフォンをいじるのは肌やホルモンによくないらしいが、やっぱりついつい見てしまう。

 陰謀論者のSNSを見ると、悪魔崇拝儀式があるという事だった。

 悪魔崇拝者たちは、聖書で書かれている神に反逆し、悪魔を拝んでいる。その忠誠を示すために動物の死骸や人の死体を捧げ、悪魔から恩恵を受けているという話だった。

「そんなのアリ?」

 杏奈はイマイチ信じられないが、ミャーと藤也の様子から、そんな事も全く無いとは断言できなくなってしまった。

 ただ、こんな儀式をやっているのはあくまでも金持ちや政治家、芸能人などの支配者層。こんな田舎の地平町で、悪魔崇拝者がいるとはどうしても思えない。

 日本に多くあるカルトもこの儀式を行なっていたり、悪魔崇拝者達に協力しているという情報もあった。

 とくに銃価という日本が誇るカルト教団が、こんな儀式の実行部隊で、子供をよく誘拐しているという情報もある。銃価系列の遊園地では、子供が何人も行方不明になっているという都市伝説も載っていた。

 その辺りも眉唾ものだが、地平町にも銃価の施設があり、空谷の家もその信者だった事も思い出した。

 しかし、これがミケ子殺害に関係あったりする?

 空谷のやる気無い態度もとても気になる。

「げっ。藤也の陰謀論アカウントじゃん」

 陰謀論アカウントを見ていたら藤也が作っているSNSやブログも発見してしまった。フォロワーも3万超えでその界隈ではちょっとしたアイドル状態だ。藤也の自撮り写真には女性ファンのコメントがいっぱいついていて気持ち悪い。

 何故かクリスチャンと陰謀論は相性が良いようで、クリスチャンの陰謀論アカウントがわらわらと出てきてちょっとため息が出そうだ。中にはカルト風のネット教会を立ち上げてる人や有料記事を売ってる人もいてディープで怪しい雰囲気だ。

 それにしてもミケ子を殺した犯人は誰?

 考えてはみたが、答えは出るはずもない。もちろん、陰謀論者のアカウントにも答えは載っていない。

 とにかくミケ子を喪った鳩子が心配だ。明日、もし会えたら様子を聞いてみよう。もし、気落ちしていたら美絵や母と一緒に慰めた方が良いかもしれない。

 ミケ子殺しの犯人も気になるが……。

 そんな事を考えていたら、眠たくなってきた。杏奈はベッドに潜り込み、眠りについた。

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登場人物紹介

橋口杏奈(はしぐち あんな)

カフェ店長。見た目は女子力高めだが、中身は男っぽく、損得勘定も好きなのが玉に瑕。

ミャー

一見かわいい黒猫。しかしその正体は…

柏木藤也(かしわぎ とうや)

町の牧師。陰謀論や都市伝説好き。

変わり者だが根は純粋。

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