第45話 犯人
文字数 2,283文字
イベント終了後、杏奈と藤也は片付けをしていた。プロジェクターを片付けたり、礼拝堂の掃除したり。
「藤也、意外と発表というかプレゼン良かったわ」
「おー、杏奈が素直に褒めてるとかって怖いんですけど」
藤也も疲れていたが、充実感に満ちた顔を見せていた。
ミャーは普通の猫のフリをしながら、礼拝堂の隅に座っていた。
なぜか三郎はイベントが終わってもグズグズと会場に居座り、なぜかぼんやりと礼拝堂の中央に掲げられている十字架のオブジェを見ていた。
「三郎、もう帰っていいんだけど、何で残ってるの?」
杏奈はちょっと様子がおかしい三郎に話しかける。
「いや、ちょっとさ……」
「三郎さん、何か俺に用があったりするのか?」
藤也も首を傾けながら、質問する。
「いや、猫も人間も神様が創ったって本当ですか?信じられないんですけど」
「本当なんだけど、無理矢理信じる必要は無いですよ」
「そっか、牧師さん……」
なぜか三郎は、藤也や杏奈を睨みつけてきた。
「いや、猫は完璧な女神だ。そんな、神様に創られたわけは無い」
「そういう考えは危険ですよ。神様が創ったものを拝む事は偶像崇拝になるんですから。三郎さん、大丈夫ですか?」
「うるさい!」
三郎が明らかにキレていた。豹変したとしか思えない三郎の姿に、杏奈は戸惑いしか感じない。
「ちょっと、どうしたのよ。三郎」
「そうですよ。少し落ち着きましょうよ」
「うるさい! 猫が神様なんだよ!」
どうもいつもと様子がおかしい。猫好きな男だとは思っていたが、行き過ぎているように感じた。
比較的冷静な性格の杏奈は、感情的な三郎の様子を見ていると、冷めてきた。何を怒っているかは不明だが、どうせ下らない事だろうと予想する。
「もう、イベントは終わったわよね。帰ったら?」
杏奈が冷たく言い放つと、突然三郎に首を掴まれた。
背中から抑え込まれて全く動けない。男女の体格差も感じる。
噛みついて逃げようかとも思ったが、三郎は折り畳みナイフを杏奈に突きつけていた。よく見ると100均で売っているような果物ナイフみたいだが、包丁を突きつけられている状態は、さすがの杏奈も冷や汗が流れた。
「ちょっと、三郎さん! 何やってんだ? とりあえず、包丁を置いて杏奈を解放しよう!」
「嫌だ! この女は殺してやる!」
三郎は、興奮し叫んだ。
藤也は戸惑っていたが、杏奈は冷静だった。ミャーに目配せし、視線だけでメッセージを伝えた。
何か感じとったミャーは、こっそりと礼拝堂から出て行き、杏奈は少し安堵の息を吐く。
「もしかして、梨子さんを花瓶で殴ったのはあなた?」
三郎の様子から、そうとしか思えなかった。おそらく動機が、猫を殺した梨子に腹をたてたかただろう。
「そうだよ。俺の大事な猫様を殺したなんて許せない!」
「いや、あんたの猫じゃないし。鳩子さんちのミケ子なんだけど」
「ちょ、杏奈。あんまり挑発する事言うなって」
「だって、この男馬鹿みたいなんだもの。おそらく、神様が猫を創ったって話に腹を立てているのよね? 猫の方が神様だと思っていたのにっていう事?」
三郎は杏奈の言う事を否定できず、押し黙っていた。
情け無い男。
杏奈はなぜかこの状況でもちっとも怖くなかった。
「本当に男ってガラスのハートねぇ。自分と意見が違う人にも否定されたって思って暴れてるの?」
「ちょ、杏奈。毒舌すぎるぜ」
藤也も気が抜けてきたのか、口の悪いダークな杏奈を見て大笑いしていた。
「うるさい! 殺す!」
「ま、いいけど、杏奈みたいな強そうな女は殺せるかね?」
「強そうな女ってどういう事よ?」
「っていうか、女に見えない。うん、男だよ」
「どういう事? 藤也?」
藤也と杏奈の間で口喧嘩が始まり、三郎は蚊帳の外状態になってしまった。
「うるさい! お前ら、まとめて殺してやる?!」
「十字架の前でもできるか?」
藤也は少し胸を張り、三郎の前に立ちはだかった。
「少し不思議な話をしようか。昔、うちの献金箱が盗まれたんだが、その不届きものは交通事故にあって半身不随になっている。あと、うちの教会に嫌がらせしてきた桜庭香澄っていう占い師は、顧客を全部失って貧乏状態だ。他にもあるぜ? 俺に異端カルトって言って虐めてきたヤツは、起業した会社が潰れてる」
「そ、そんな……」
三郎は明らかに戦意を喪失していた。
「俺が間違っていたら神様が裁くだろう。神様の目から見て俺が正しかったら、神様が報いてくれるだろう。それでも、殺すか?」
藤也は両手で三郎の肩を揺さぶった。さっきまで杏奈に軽口を叩いていた表情とは全く違った。鬼気迫るものだった。
「こんな罪人の三郎でも、神様は死にほどお前を愛してるぞ。さ、俺らには謝らなくていいから、神様にはまず謝ろう」
「そ、そんな…」
こんな視点から説得されるとは、三郎も考えていなかったのだろう。三郎の身体は力が抜けて、ナイフを落としていた。
すぐに三郎は、床に落ちたナイフを拾って刃を閉じた。
「だって、あのカルト女を殴ったし……。許してくれるわけないだろう!」
「そんな事は神様に聞いて見なきゃわからないだろう。さ、一緒に俺も謝るから」
驚いた事に三郎が、藤也に従い、床に膝をついていた。涙までこぼしている。
同時に杏奈は解放された。
一目散に礼拝堂から逃げると、警察がいた。空谷では無い警官でホッとした。
そばには、ミャーを抱き上げたマユカがいた。おそらく、ミャーにこの事態を伝えられたマユカが警察を呼んだのだろう。
「お巡りさん、早く! 礼拝堂に梨子さんを傷つけた犯人がいるの!」
杏奈は息を切らしながら叫んだ。
「藤也、意外と発表というかプレゼン良かったわ」
「おー、杏奈が素直に褒めてるとかって怖いんですけど」
藤也も疲れていたが、充実感に満ちた顔を見せていた。
ミャーは普通の猫のフリをしながら、礼拝堂の隅に座っていた。
なぜか三郎はイベントが終わってもグズグズと会場に居座り、なぜかぼんやりと礼拝堂の中央に掲げられている十字架のオブジェを見ていた。
「三郎、もう帰っていいんだけど、何で残ってるの?」
杏奈はちょっと様子がおかしい三郎に話しかける。
「いや、ちょっとさ……」
「三郎さん、何か俺に用があったりするのか?」
藤也も首を傾けながら、質問する。
「いや、猫も人間も神様が創ったって本当ですか?信じられないんですけど」
「本当なんだけど、無理矢理信じる必要は無いですよ」
「そっか、牧師さん……」
なぜか三郎は、藤也や杏奈を睨みつけてきた。
「いや、猫は完璧な女神だ。そんな、神様に創られたわけは無い」
「そういう考えは危険ですよ。神様が創ったものを拝む事は偶像崇拝になるんですから。三郎さん、大丈夫ですか?」
「うるさい!」
三郎が明らかにキレていた。豹変したとしか思えない三郎の姿に、杏奈は戸惑いしか感じない。
「ちょっと、どうしたのよ。三郎」
「そうですよ。少し落ち着きましょうよ」
「うるさい! 猫が神様なんだよ!」
どうもいつもと様子がおかしい。猫好きな男だとは思っていたが、行き過ぎているように感じた。
比較的冷静な性格の杏奈は、感情的な三郎の様子を見ていると、冷めてきた。何を怒っているかは不明だが、どうせ下らない事だろうと予想する。
「もう、イベントは終わったわよね。帰ったら?」
杏奈が冷たく言い放つと、突然三郎に首を掴まれた。
背中から抑え込まれて全く動けない。男女の体格差も感じる。
噛みついて逃げようかとも思ったが、三郎は折り畳みナイフを杏奈に突きつけていた。よく見ると100均で売っているような果物ナイフみたいだが、包丁を突きつけられている状態は、さすがの杏奈も冷や汗が流れた。
「ちょっと、三郎さん! 何やってんだ? とりあえず、包丁を置いて杏奈を解放しよう!」
「嫌だ! この女は殺してやる!」
三郎は、興奮し叫んだ。
藤也は戸惑っていたが、杏奈は冷静だった。ミャーに目配せし、視線だけでメッセージを伝えた。
何か感じとったミャーは、こっそりと礼拝堂から出て行き、杏奈は少し安堵の息を吐く。
「もしかして、梨子さんを花瓶で殴ったのはあなた?」
三郎の様子から、そうとしか思えなかった。おそらく動機が、猫を殺した梨子に腹をたてたかただろう。
「そうだよ。俺の大事な猫様を殺したなんて許せない!」
「いや、あんたの猫じゃないし。鳩子さんちのミケ子なんだけど」
「ちょ、杏奈。あんまり挑発する事言うなって」
「だって、この男馬鹿みたいなんだもの。おそらく、神様が猫を創ったって話に腹を立てているのよね? 猫の方が神様だと思っていたのにっていう事?」
三郎は杏奈の言う事を否定できず、押し黙っていた。
情け無い男。
杏奈はなぜかこの状況でもちっとも怖くなかった。
「本当に男ってガラスのハートねぇ。自分と意見が違う人にも否定されたって思って暴れてるの?」
「ちょ、杏奈。毒舌すぎるぜ」
藤也も気が抜けてきたのか、口の悪いダークな杏奈を見て大笑いしていた。
「うるさい! 殺す!」
「ま、いいけど、杏奈みたいな強そうな女は殺せるかね?」
「強そうな女ってどういう事よ?」
「っていうか、女に見えない。うん、男だよ」
「どういう事? 藤也?」
藤也と杏奈の間で口喧嘩が始まり、三郎は蚊帳の外状態になってしまった。
「うるさい! お前ら、まとめて殺してやる?!」
「十字架の前でもできるか?」
藤也は少し胸を張り、三郎の前に立ちはだかった。
「少し不思議な話をしようか。昔、うちの献金箱が盗まれたんだが、その不届きものは交通事故にあって半身不随になっている。あと、うちの教会に嫌がらせしてきた桜庭香澄っていう占い師は、顧客を全部失って貧乏状態だ。他にもあるぜ? 俺に異端カルトって言って虐めてきたヤツは、起業した会社が潰れてる」
「そ、そんな……」
三郎は明らかに戦意を喪失していた。
「俺が間違っていたら神様が裁くだろう。神様の目から見て俺が正しかったら、神様が報いてくれるだろう。それでも、殺すか?」
藤也は両手で三郎の肩を揺さぶった。さっきまで杏奈に軽口を叩いていた表情とは全く違った。鬼気迫るものだった。
「こんな罪人の三郎でも、神様は死にほどお前を愛してるぞ。さ、俺らには謝らなくていいから、神様にはまず謝ろう」
「そ、そんな…」
こんな視点から説得されるとは、三郎も考えていなかったのだろう。三郎の身体は力が抜けて、ナイフを落としていた。
すぐに三郎は、床に落ちたナイフを拾って刃を閉じた。
「だって、あのカルト女を殴ったし……。許してくれるわけないだろう!」
「そんな事は神様に聞いて見なきゃわからないだろう。さ、一緒に俺も謝るから」
驚いた事に三郎が、藤也に従い、床に膝をついていた。涙までこぼしている。
同時に杏奈は解放された。
一目散に礼拝堂から逃げると、警察がいた。空谷では無い警官でホッとした。
そばには、ミャーを抱き上げたマユカがいた。おそらく、ミャーにこの事態を伝えられたマユカが警察を呼んだのだろう。
「お巡りさん、早く! 礼拝堂に梨子さんを傷つけた犯人がいるの!」
杏奈は息を切らしながら叫んだ。
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