第53話 道に迷った子ども1

文字数 720文字

 ここは、とある山の中。お日様の力強くなる、お昼ごろの日本家屋では、ナツとフユが縁側に腰かけて、せわしなく口を動かしています。

「おまんじゅう おいしい」
「おせんべいも おいしいよ」
「いいな。ひとくち ちょうだい」
「いいよ。わたしも おまんじゅう たべたいな」
「いいよ」

美味しそうな顔をしている二人を、少し離れたところから微笑ましく見守っているハルは、洗濯物を外に干しています。その姿は、誰がどう見てもお母さんそのものです。

「お前たちの食べっぷりは感心しますよ」
「えへへ」
「えへへ」
「お前たちの体のどこに、そんな食べ物が入る場所があるのでしょう?先ほど昼餉(ひるげ)を食べたばかりだというのに……」
「う~ん、あたま?」
「う~ん、おしり?」
「それがもし本当だとすると、お前たちはとんでもない化け物ですよ」
「えへへ」
「えへへ」
「なぜ照れるのですか」

ほのぼのとした雰囲気の中、ハルはふと、獣道の方に顔を向けました。「あら」というと、家の中にいるアキを呼びました。

「なぁにぃ?」
「子どもがこちらに向かってきています」
「おやぁ、珍しいねぇ。ハル、迎えに行っておいで」

ハルは返事をすると、ふわりと後ろに宙返りをして、子どもと同じほどの男の子の姿に変化し、獣道へと走っていきました。

「ハルさま すごいね」
「うん。わたしも はやく びゃっこ になりたい」
「わたしも!」
「そのために、たくさんたべて、いっぱいしゅぎょうして、びゃっこ になろうね」
「うん。わたし、たべるの がんばる!!」
「わたしも!!」

ナツとフユは、あっという間におまんじゅうとせんべいを食べ終わりました。そして、さっきの言葉はどこに行ったのか、眠くなってしまい、縁側で寄り添うように眠ってしまいました。
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