第22話 今日の依頼人〜女性編1〜

文字数 1,170文字

 ここは、とある山の中。冷たい氷が恋しくなるこの暑さに負けず、ハルとナツとフユは、山の中にポツンと佇む日本家屋の縁側で三角に切られた西瓜(すいか)を頬張っていました。

「おいちい!」
「おいちい!」
「『美味しい』とおっしゃいなさい。以前にも言いましたよね?」
「はーい」
「はーい」

ナツとフユは口の周りを大胆に汚しながら、次から次へと西瓜に手を伸ばし続けました。
ハルが言いました。

「お二方、この時間が一番幸せそうな顔をなさいますね」

すると二人は急に動きを止めて聞きました。

「ねぇハルさま、『じかん』って なんですか?」
「『じかん』って なに?」
「そうですねぇ、時間とは、始まるためにあるもの、又は、終わるためにあるものです」

ナツとフユは頭を傾げました。

「わかりません」
「むずかしいです」

 その時、部屋の奥からアキがやってきました。それに気づいたナツとフユは、アキに問いました。

「ごしゅじん、『じかん』って なに?」
「ごしゅじん、なになに?」
「え?時間?」
「ねぇごしゅじん!」
「ごしゅじん、なになに?」
「うーん、えっとねぇ……時間っていうのは、始まりであって終わりであるってことかなぁ。時間がないと、生きとし生けるものが生まれることがないし、死ぬこともないんだよぉ。
そういえば、私たち人間はこの『時間』のことを、『人生』とか『物語』とか『歳月』とも言うよねぇ」
「つまり、『始まり』は『誕生』で、『終わり』は『滅ぶ』ということですか?」
「うん。ナツ、フユ、あなたたち歳はいくつかなぁ?」
「二百さい!」
「百五十二さい!」
「……あなたがた、自分の歳も忘れたんですか?お二人とも百七十六歳でしょう」
「あれ?そうだっけ?ナツ」
「うーん、おぼえてないよ」
「ふふふ……。ということは、ナツとフユは百七十六年の人生、物語を過ごしてきたし、二人が生まれて百七十六年の歳月が流れたってことだね!それにしても、私より子供なのに私より長生きしてるんだねぇ」

そこでハルが口を開きました。

「それは、私たちがいる世界とご主人がいる世界の時間の流れの速さが違うからです」
「え?そうなのぉ?」
「えぇそうです。ここの時間の速さは『光』のように速いのです。私たちのいる世界に比べたらとんでもありませんよ」

またナツとフユは頭を傾げました。

「でも、わたしたちは ごしゅじんと いっしょにいます」
「いま、ここに ごしゅじんが います」
「ん……さ、さぁさぁ、与彦さんから頂いた西瓜を食べましょう」

ハルがそう言うと、ナツとフユは返事をしてまた西瓜をかじり、口や手、服や床を汚しました。

「おいし……おいちい!」
「うん、おいちい!」
「……あなたがた、わざと言ってますね?」
「えへへ……」
「えへへ……」

 そんな会話をしていると、いつもの獣道から誰かが歩いてきました。

「おやぁ?お客様だねぇ」
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