第28話 今日の日常〜大相撲編5〜
文字数 1,349文字
次の試合は太郎と竹千代です。太郎は気合を入れるために足を大きく上げて四股を踏みました。竹千代も負けまいと四股を踏みます。
そして静かに息をして、勝負の時を待ちました。
「はっけよーい……のこったぁ!」
二人は力強く踏み込み、腰を落としてぶつかりました。足の指に力を入れ、押され負けしないようにと両者とも必死です。
土俵の外では与彦の声が響きました。
「竹千代いけぇ!」
子どもたちも応援に力が入ります。
「たろーにーちゃんがんばれー!」
「竹千代ー!」
「太郎にいちゃーん!」
「たけちよちゃーん!」
「ギャア!ギャア!」
「あははははは!」
九千坊は腕を組み、静かに息子の勇姿を見守りました。
勝負は太郎に軍配が上がりました。両者がっぷり乙の状態から竹千代が少し足の位置を変えようとしたその時、太郎が全身の力を使って竹千代を押し込み、そのまま土俵の外へ押し出したのです。
二人は一礼し、それぞれの場所に戻りました。大人たちの拍手が鳴り響きました。
さて、決勝戦はナツと太郎です。太郎はナツよりも大きく、体格の差ではナツが不利です。ナツは小さく「よし!」と呟きました。
「ナ……、あぁ、ナツはもう分かっているようですね」
「えぇ、ナツの心持ちは万全のようです。心配ですか?」
「……いいえ」
「相変わらずですねハル。それより、ハルの淹れるお茶は美味しゅうございます」
「ふふふ、ありがとうございます」
ハルとツユは土俵の外に座り、油揚げを頬張りながらお茶をすすりました。
その間にも、二人の決着の準備は進みました。ナツと太郎は塩を両手で掴むと、思い切り上へと放り投げました。塩は綺麗に土俵に散らばりました。が、散らばり過ぎてハルとツユのお茶の中にまで塩が入ってしまいました。
「あの二人、なんてことをしてくれたのでしょう。許せません!」
「相変わらずですねツユ。でもこれはこれで美味しいですよ」
「ふふふ、そのようですね」
行司の声に従って体勢を整えた二人。緊張の瞬間が訪れます。
前回の大会に引き続き太郎が優勝を飾るのか、それとも華麗な身のこなしを活かしてナツが優勝するのか、行司が声を張り上げました。
その勝負は一瞬の出来事で終わりました。行司の声とともに動き出した二人ですが、ナツが一歩踏み込んだその時、自分で撒いた塩で足を滑らせて前へのめり込むように転んでしまいました。
「ぎゃっ!」
「え?」
一瞬の静寂の後、みんなは一斉に大笑いしました。そうです、ナツは自爆したのです。
「わははははは!」
「呆気ないのう!」
「ナツ、墓穴を掘りましたね」
「これは仕方ありませんね」
「クァ?目ばつぶっとったけん見とらん!(訳……クァ?目をつぶってたから見てない!)」
ナツは静かに立ち上がり、そして二人は一礼しました。ナツはアキのいる縁側へ走りました。
大人たちは大きな拍手を送りました。
「うわぁぁぁぁん!ごしゅじーん!」
「ナツ、よく頑張ったねぇ。こっちにおいで」
「ナツ!わたし すごいとおもったよ!かっこよかった!」
「……グスン」
ナツはアキからお饅頭をもらうと、大粒の涙を流しながら食らいつきました。太郎は土俵の中心で豊前坊からの表彰を受け、その足で縁側へと向かいました。そしてみんなと一緒にお饅頭を一口食べました。
その顔に、笑顔はありませんでした。
そして静かに息をして、勝負の時を待ちました。
「はっけよーい……のこったぁ!」
二人は力強く踏み込み、腰を落としてぶつかりました。足の指に力を入れ、押され負けしないようにと両者とも必死です。
土俵の外では与彦の声が響きました。
「竹千代いけぇ!」
子どもたちも応援に力が入ります。
「たろーにーちゃんがんばれー!」
「竹千代ー!」
「太郎にいちゃーん!」
「たけちよちゃーん!」
「ギャア!ギャア!」
「あははははは!」
九千坊は腕を組み、静かに息子の勇姿を見守りました。
勝負は太郎に軍配が上がりました。両者がっぷり乙の状態から竹千代が少し足の位置を変えようとしたその時、太郎が全身の力を使って竹千代を押し込み、そのまま土俵の外へ押し出したのです。
二人は一礼し、それぞれの場所に戻りました。大人たちの拍手が鳴り響きました。
さて、決勝戦はナツと太郎です。太郎はナツよりも大きく、体格の差ではナツが不利です。ナツは小さく「よし!」と呟きました。
「ナ……、あぁ、ナツはもう分かっているようですね」
「えぇ、ナツの心持ちは万全のようです。心配ですか?」
「……いいえ」
「相変わらずですねハル。それより、ハルの淹れるお茶は美味しゅうございます」
「ふふふ、ありがとうございます」
ハルとツユは土俵の外に座り、油揚げを頬張りながらお茶をすすりました。
その間にも、二人の決着の準備は進みました。ナツと太郎は塩を両手で掴むと、思い切り上へと放り投げました。塩は綺麗に土俵に散らばりました。が、散らばり過ぎてハルとツユのお茶の中にまで塩が入ってしまいました。
「あの二人、なんてことをしてくれたのでしょう。許せません!」
「相変わらずですねツユ。でもこれはこれで美味しいですよ」
「ふふふ、そのようですね」
行司の声に従って体勢を整えた二人。緊張の瞬間が訪れます。
前回の大会に引き続き太郎が優勝を飾るのか、それとも華麗な身のこなしを活かしてナツが優勝するのか、行司が声を張り上げました。
その勝負は一瞬の出来事で終わりました。行司の声とともに動き出した二人ですが、ナツが一歩踏み込んだその時、自分で撒いた塩で足を滑らせて前へのめり込むように転んでしまいました。
「ぎゃっ!」
「え?」
一瞬の静寂の後、みんなは一斉に大笑いしました。そうです、ナツは自爆したのです。
「わははははは!」
「呆気ないのう!」
「ナツ、墓穴を掘りましたね」
「これは仕方ありませんね」
「クァ?目ばつぶっとったけん見とらん!(訳……クァ?目をつぶってたから見てない!)」
ナツは静かに立ち上がり、そして二人は一礼しました。ナツはアキのいる縁側へ走りました。
大人たちは大きな拍手を送りました。
「うわぁぁぁぁん!ごしゅじーん!」
「ナツ、よく頑張ったねぇ。こっちにおいで」
「ナツ!わたし すごいとおもったよ!かっこよかった!」
「……グスン」
ナツはアキからお饅頭をもらうと、大粒の涙を流しながら食らいつきました。太郎は土俵の中心で豊前坊からの表彰を受け、その足で縁側へと向かいました。そしてみんなと一緒にお饅頭を一口食べました。
その顔に、笑顔はありませんでした。