第20話 ナツとフユの大げんか3

文字数 2,167文字

 次の日、土砂降りの雨をカエルが歓迎する中、それは起きました。

アキが用事で出かけている時の事、ハルは一つのお饅頭をナツに渡しました。

「ナツ、今日のおやつはお饅頭が一つのしかないので、フユと半分にして召し上がってください」
「……はい」
「嫌ですか?」
「……いやじゃないけど」
「嫌じゃないけど?」

ナツは少し困った顔でハルに言いました。

「フユは おこってないですか?」
「なぜそう思うのです?」
「わたし、フユに わるいことしました。おもちゃこわして しっぽふんで……、フユは、わたしを きらいです」

泣きそうな顔をして下を向くナツに、ハルは少し微笑みかけ、頭を撫でました。

「ナツ、今どんな気持ちですか?」
「……ごめんなさいの きもちです」
「良い心持ちですナツ。周りを思いやるその心が、あなたを優しくさせ、良い子にさせるのです。その心を忘れてはなりません。いいですね?」
「わたし、よいこ ですか?」
「えぇ、良い子ですよ。私にはかないませんけどね」

ナツはいつもの明るい顔に戻りました。

「ナツ、フユにごめんなさいと言えますか?」
「はい!わたし、ごめんなさい いいます!」
「よろしい」

ハルから温かいお饅頭を貰ったナツは、フユの居る座敷へ歩きだしました。

 座敷からは、フユの声が聞こえてきました。

「あんたがた どこさ
ひ〜ごさ
ひ〜ご どこさ
く〜まもと さ
く〜まもと どこさ
せんばさ
せん〜ばや〜まに〜は た〜ぬき〜がおってさ
それ〜をりょ〜し〜が てっぽ〜でうってさ
に〜てさ
やいてさ
くってさ
それ〜を こ〜のは〜で ちょいと か〜く〜せ!……ハァ、つまんない……」

ナツは意を決して襖を開けました。フユはお手玉を目の前に落とし、背中を丸めて開いた襖に目をやりました。

「フ、フユ」
「……なに」

フユは顔をそっぽに向け、頬を膨らませました。それを見たナツは顔が引きつりましたが、頑張って声を出しました。

「これ……」
「……なにそれ」
「ハ、ハルさまが ふたりでわけなさいって」
「ふーん、で?」

この言葉に、ナツはカチンときましたが、我慢しました。

「だから はんぶんこ。たべる?」
「……いらない」
「ねぇフユ、おこってる?」
「……べつに」
「じゃあ なんで そっぽをむくの?」

そっぽを向いていたフユは、ナツの顔を見て一言、「きらい」と言いました。

「なんで きらいなの?わたしが おもちゃを こわしたから?イタズラを したから?」
「……」
「ねぇ なんで?」
「もう、なんででも いいでしょ?」
「よくないよ。わたし、フユと……」

その時、フユは近くにあったお手玉をナツに向けて投げつけました。

「いたっ……」

お手玉はナツの右目に当たり、ナツはその場で右目を押さえました。

「もう、でていってよ!おかめいんこ!」

その時、ナツは涙目になりながら座敷を出て、家を飛び出し、雨が降る外に走って行きました。
フユは家に当たる雨音を聞きながら、その場に座ったまま投げつけたお手玉を見つめ続けました。

 しばらくして、ハルが座敷に入ってきました。

「……フユ、ナツはどちらに行きましたか?」

フユは答えません。ハルは何度かフユの名前を言いましたが、フユは下を向くばかりでした。その時、玄関から「ただいまぁ」とアキの声が聞こえたので、ハルは急いでアキの元へ向かいました。

「ご主人、ナツを見てませんか?」
「え?見てないよぉ?」

ハルは苦虫を潰したような顔をして、座敷へ戻りました。アキも、ハルの後を追うように急いで座敷へ向かいます。

「フユ、ナツはどちらに行きましたか?」
「……」
「フユ!」
「フユ、ナツはどこに行ったのぉ?教えて」
「……しらない」
「知らない?」

その時、アキは一つのお手玉を拾いました。

「……フユ、ナツとケンカしたんだね?」

アキの問いかけにフユは耐えられなくなり、小さく「うん」と言って大粒の涙をこぼし始めました。

ハルは家の中を歩きまわってナツを探しましたが、どこにもいません。そのことをアキに伝えると、アキはハルに「ここにいて」と言い、土砂降りの雨の中を傘もささずに出ていきました。
ハルはアキを止めようとしましたが、アキは振り返る事なく山の中へと消えていったのです。

残ったハルは、フユの目の前に座りました。

「フユ、いつまで意地を張っているのです。そんなにナツのことを嫌いになったのですか?」

フユは、ハルから渡された手ぬぐいで涙を拭き、言いました。

「わたし、ナツに わるいこと いいました」
「あら、なんと?」
「……おかめいんこって いいました。きらいって いいました。ナツに おてだまをなげたら、おめめにあたって いたそうでした。ナツは、わたしを きらいです」
「オカメインコ?まぁさておき、今どんな気持ちですか?」
「……ごめんなさいの きもちです」
「良い心持ちですフユ。周りを思いやるその心が、あなたを優しくさせ、良い子にさせるのです。その心を忘れてはなりません。いいですね?」
「わたし、よいこ ですか?」
「えぇ、良い子ですよ。私にはかないませんけどね」

フユはいつもの明るい顔に戻りました。

「フユ、ナツにごめんなさいと言えますか?」
「はい!わたし、ごめんなさい いいます!」
「よろしい」

ハルとフユは、家の中でアキとナツを待つことにしました。
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