第25話 今日の日常〜大相撲編2〜
文字数 1,560文字
一言述べた豊前坊は、アキとともに、庭にある藤の木の下に座りました。
するとそこへ、とても女性らしい河童が、お茶と饅頭を盆にのせて持ってきました。
「豊前坊様、よか声ばしとらすねぇ〜」(訳……豊前坊様、いい声をしてらっしゃるねぇ〜)
「あ、お母さぁん!すみません、台所をお願いしましてぇ」
「よかよよかよ。アキちゃんお腹すいたど?はよ饅頭ば食べなっせ」(訳……いいよいいよ。アキちゃんお腹すいたでしょ?早く饅頭をお食べ)
「やぁ奥さん、今日も美しいなぁ。九千坊にはもったいない」
「あらぁ!そぎゃんこと言っても、何も出らんですよ」(訳……あらぁ!そんなこと言っても、何も出ませんよ)
九千坊の奥さんは嘴を手で覆い隠しながら笑いました。
すると、家の奥から元気な子供の声がしてきました。
「かちゃん!見て見て!こんカラスやつは、足の三本ある!」(訳……母ちゃん!見て見て!このカラスは、足が三本ある!)
「かちゃん!こんカラスやつは、火ば吹くとばい!」(訳……母ちゃん!このカラスは、火を吹くんだよ!)
三郎よりも少し大きな河童が、八咫烏の八咫朗 をがっしりと持って、奥さんのところに走ってきました。八咫朗は、キャーキャーと鳴き声をあげていました。
「コレ、太郎 !二郎 !離さんか!アキちゃんの友達ぞ!」(コレ、太郎!二郎!離しなさい!アキちゃんの友達なのよ!)
「おやぁ?太郎、二郎、八咫朗と遊んでたんだねぇ」
「うん!」(訳……うん!)
「こん子、八咫朗って言うと?」(訳……この子、八咫朗って言うの?)
「そうだよぉ。八咫朗、嬉しそうに鳴いてるねぇ」
八咫朗は甲高い声でキャーと鳴きました。
「あれ?とちゃんは?」(訳……あれ?父ちゃんは?)
辺りを見渡す太郎と二郎に対して、奥さんは外を指差しました。その先には、懸命にシコを踏む九千坊と三郎の姿がありました。
「あ、準備運動しよらす」(訳……あ、準備運動してる)
「はよ行かんばん、とちゃんに叱らるっ」(訳……早く行かなきゃ、父ちゃんに叱られる)
太郎と二郎は八咫朗をアキに渡して、駆け足で九千坊の元へと向かいました。
案の定、九千坊は少し怒っており、太郎と二郎の頭をひっぱたいていました。
「アキや、この八咫烏はいつ産まれたんじゃ?」
「確か、一ヶ月前くらいですぅ」
「ほう、一ヶ月とな。ならばもう少しで空を飛ぶであろう」
「そうなんですかぁ?」
「こやつは、顔に風が当たるのが好きな奴じゃ。今もこうして喜んでおったじゃろ?」
アキは八咫朗を豊前坊の手に乗せました。豊前坊が八咫朗の頭を優しく撫でると、八咫朗は口を大きく開けて小さく火を吹きました。その火は豊前坊のあごひげを少し燃やしました。アキは慌てて手元にあるおしぼりで火を消しました。辺りには香ばしい匂いが漂います。
「豊前坊様、おひげが燃えました……」
「むぅ、頭を触られるのは嫌いのようじゃ」
「そういえば、ハルはいつも八咫朗の頭を撫でて竃に火を入れていましたぁ!そうそう、『ご主人、八咫朗を撫でる際は、顎を撫でてやると喜びますよ』ってハルが言ってましたよぉ!忘れてたぁ」
アキは豊前坊に笑顔を見せて、それに釣られて豊前坊も笑みを返しました。
そうこうしているうちに、外で準備運動をしていた天狗や狐、河童たちは庭に設置されている土俵の周りを囲むようにあぐらをかいて座りました。そして、進行役の夜彦が言いました。
「皆の者、これからは子供たちのわんぱく相撲を執り行う!子供たちは前へ!」
夜彦の声に従って、狐のナツとフユ、天狗の松千代も竹千代と梅千代、河童の太郎と二郎と三郎が土俵の中に入りました。
「小さなつわもの達よ、覚悟はできておいでか?」
子供たちは一斉に返事をしました。
「よろしい。では一同、礼!」
子供たちは一礼し、土俵の周りからは大きな拍手と歓声があがりました。
するとそこへ、とても女性らしい河童が、お茶と饅頭を盆にのせて持ってきました。
「豊前坊様、よか声ばしとらすねぇ〜」(訳……豊前坊様、いい声をしてらっしゃるねぇ〜)
「あ、お母さぁん!すみません、台所をお願いしましてぇ」
「よかよよかよ。アキちゃんお腹すいたど?はよ饅頭ば食べなっせ」(訳……いいよいいよ。アキちゃんお腹すいたでしょ?早く饅頭をお食べ)
「やぁ奥さん、今日も美しいなぁ。九千坊にはもったいない」
「あらぁ!そぎゃんこと言っても、何も出らんですよ」(訳……あらぁ!そんなこと言っても、何も出ませんよ)
九千坊の奥さんは嘴を手で覆い隠しながら笑いました。
すると、家の奥から元気な子供の声がしてきました。
「かちゃん!見て見て!こんカラスやつは、足の三本ある!」(訳……母ちゃん!見て見て!このカラスは、足が三本ある!)
「かちゃん!こんカラスやつは、火ば吹くとばい!」(訳……母ちゃん!このカラスは、火を吹くんだよ!)
三郎よりも少し大きな河童が、八咫烏の
「コレ、
「おやぁ?太郎、二郎、八咫朗と遊んでたんだねぇ」
「うん!」(訳……うん!)
「こん子、八咫朗って言うと?」(訳……この子、八咫朗って言うの?)
「そうだよぉ。八咫朗、嬉しそうに鳴いてるねぇ」
八咫朗は甲高い声でキャーと鳴きました。
「あれ?とちゃんは?」(訳……あれ?父ちゃんは?)
辺りを見渡す太郎と二郎に対して、奥さんは外を指差しました。その先には、懸命にシコを踏む九千坊と三郎の姿がありました。
「あ、準備運動しよらす」(訳……あ、準備運動してる)
「はよ行かんばん、とちゃんに叱らるっ」(訳……早く行かなきゃ、父ちゃんに叱られる)
太郎と二郎は八咫朗をアキに渡して、駆け足で九千坊の元へと向かいました。
案の定、九千坊は少し怒っており、太郎と二郎の頭をひっぱたいていました。
「アキや、この八咫烏はいつ産まれたんじゃ?」
「確か、一ヶ月前くらいですぅ」
「ほう、一ヶ月とな。ならばもう少しで空を飛ぶであろう」
「そうなんですかぁ?」
「こやつは、顔に風が当たるのが好きな奴じゃ。今もこうして喜んでおったじゃろ?」
アキは八咫朗を豊前坊の手に乗せました。豊前坊が八咫朗の頭を優しく撫でると、八咫朗は口を大きく開けて小さく火を吹きました。その火は豊前坊のあごひげを少し燃やしました。アキは慌てて手元にあるおしぼりで火を消しました。辺りには香ばしい匂いが漂います。
「豊前坊様、おひげが燃えました……」
「むぅ、頭を触られるのは嫌いのようじゃ」
「そういえば、ハルはいつも八咫朗の頭を撫でて竃に火を入れていましたぁ!そうそう、『ご主人、八咫朗を撫でる際は、顎を撫でてやると喜びますよ』ってハルが言ってましたよぉ!忘れてたぁ」
アキは豊前坊に笑顔を見せて、それに釣られて豊前坊も笑みを返しました。
そうこうしているうちに、外で準備運動をしていた天狗や狐、河童たちは庭に設置されている土俵の周りを囲むようにあぐらをかいて座りました。そして、進行役の夜彦が言いました。
「皆の者、これからは子供たちのわんぱく相撲を執り行う!子供たちは前へ!」
夜彦の声に従って、狐のナツとフユ、天狗の松千代も竹千代と梅千代、河童の太郎と二郎と三郎が土俵の中に入りました。
「小さなつわもの達よ、覚悟はできておいでか?」
子供たちは一斉に返事をしました。
「よろしい。では一同、礼!」
子供たちは一礼し、土俵の周りからは大きな拍手と歓声があがりました。