第55話 今日の日常~あの人に会いに行く~1

文字数 1,123文字

ここは、とある山の中。今日も今日とて澄み切った日差しを浴びる日本家屋では、子供の姿をした子狐のナツとフユと、大人の男性の姿をした白狐のハルが、縁側に腰かけてお茶をすすっていました。

「ハルさま、おいしいです」
「ありがとうございます。ナツ」
「ハルさま、あたたかいです」
「嬉しいお言葉です。フユ」

三人はにっこりと顔を見合わせ、またお茶をすすりました。外では、小鳥同士が朝の挨拶をしきりに行っていました。日本家屋の屋根には、十羽ほどの小鳥が、井戸端会議を行なっているところです。

「ハルさま」
「はい」
「とりさんが おはなし しています」
「えぇそうですね。何のお話をしているのか、耳を傾けてみましょう」

ナツとフユは、狐の耳をぴょこっと出して、小鳥のいるほうに耳を傾けました。小鳥の声がする方に耳を傾けるのと同時に首も左右に動かす二人を見て、ハルは「そういう意味ですが、そういうやり方ではありません」と言い、頭を抱えました。

「ハルさま、ちゅんちゅん いっています」
「ちゅんちゅん ちゅんちゅん」
「えぇそうですね。それで、何のお話をしていますか?」
「わかりません!!」
「わかりません!!」
「……まぁ、そうでしょうね」

ハルは、持っている湯呑を口に運び、お茶を一気に飲み干しました。

その時、家の奥からアキが「おはよう」と言いながら出てきました。髪は逆立ち、目は半開きで、寝起きそのものの姿です。

「おはようございます」
「おはようございます」
「ご主人。今日はお出かけの日ですよ」
「うん、今から支度をするよぉ」

アキは無理やり目を大きく開き、急ぎ足で奥の部屋へ戻りました。『お出かけ』の言葉を聞いたナツとフユが、急に狐の耳をしまい、ハルに聞きました。

「おでかけ するのですか?」
「わたしも おでかけ したいです!」
「お前たちはまだ子どもです。連れて行くことはできません」
「えぇ~っ」
「おでかけ したいです」
「なりません。今日は大人の場所に行くのですから」
「えぇ~っ」
「わたしたち、おとなのすがたに なれます」
「なりません」
「えぇ~っ」
「えぇ~っ」

ハルは立ち上がり、後ろに宙返りをしました。黒の略礼服を着た男性に変化しました。いつも通り、お人形のように美しい顔立ちをしています。髪型も爽やかな印象にきまっています。アキはドタバタと家中を走り回っています。しばらくして、アキが外に出てきました。

「着付け、できてるかなぁ?」
「えぇ、お似合いですよ」

アキは薄い水色の訪問着を着ています。襟元が少し歪んでいるとハルに指摘されると、アキはその襟元に手をやり、整えました。

「じゃぁ、行こうか」
「はい」

アキは、ナツとフユにお留守番を頼むと、二人は素直に返事をして、アキとハルを見送りました。
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