第31話 今日の日常〜大相撲編8〜

文字数 1,159文字

 九千坊と与彦が闘いを繰り広げていた頃、アキとハル、ナツ、フユは寝室で眠っているツユを見守っていました。

「ごしゅじん、ツユさま げんきになる?」
「ツユさま、おめめ あけてくれる?」
「安心しておくれ。目が覚める頃にはとっても元気になるよ」

アキはツユの左腕に手を当てて何かを呟きました。すると、アキの手がぼんやりと光だし、その光はツユの左腕に移りました。

「ご主人、ツユの腕を治しているのですか?」
「……」

 その光は腕の中に消え、ツユの寝顔は穏やかになりました。

「これで大丈夫。ハル、ナツ、フユ、ツユを見てておくれ」
「はい」
「はい!」
「はい!」

 アキは寝室から出て行きました。

「ごしゅじん すごい!」
「ツユさま、ハルさまと おなじ ねがお してます」
「そうですね、色は違いますが同じ顔ですね」
「なぜですか?わたしとナツは すこし かおが ちがいます」

ハルは少し笑って答えました。

「そうですね、少し昔話をしましょう」
「やったぁ!」
「なになに?」
「もともと私とツユは、一匹の狐でございました。『九尾の狐』をご存知ですか?」
「はい」
「げかいで わるさをした きつねです」
「そう、私はお二方と同じく天界で生まれました。幼い頃から私の力は(おきな)様たちをも上回っていたため、天界の狐は皆、私を遠ざけ忌み嫌いました」
「ハルさま かわいそう」
「おきなさまたち ひどい」
「ふふ、ありがとうございますナツ、フユ。天界で居場所を失った私は下界へと降りました。しかしある日、私を退治するため、陰陽師と言われる者が私を石に封じました。そこで天界へと戻された私は、翁様たちの力によって魂を浄化されて、体と力を二つに分けられました。それが赤狐のツユと、白狐の私です」
「おんみょうじ きらい」
「ハルさまとツユさまを いしに ふうじた。きらい」
「ですが私は人間にたくさんのいたずらをしました。石に封じられて当然です……」
「ハルさま?」
「ハルさま?」

 ハルはにっこりと笑いました。

「さぁ、ここは私にお任せください。お前たちはご主人のお手伝いに行って下さい」

 二人は返事をして寝室を出て行きました。

「ハル」
「ツユ、具合はいかがですか?」
「懐かしい夢を見ました。私とハルに名前を付けてくださるご主人がいました」
「ふふ、そうでしたね、名前のない私たちに付けてくださいましたね」

二人はくすくすと笑いました。

 さて、大相撲大会が終わったあとは宴会です。庭に薄い畳を敷き、盃と大量の酒、料理をずらりと並べて皆で大騒ぎしました。途中、ハルとツユも酒の席に加わり、恒例の隠し芸大会が行われました。
 ハルとツユの変化術や与彦と夜彦による武術演武、河童親子の体を張った大道芸、子どもたちによるお歌の披露など、それは大賑わいを見せ、朝まで続きましたーー。
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