第27話 今日の日常〜大相撲編4〜

文字数 1,830文字

 そうこうしていると次の試合が始まりました。松千代と二郎です。
 松千代と二郎も、ナツと三郎の試合のように早々にがっぷり乙になりました。両者一歩も引かず、『気』と『気』の攻防が続きます。
しかし、一瞬の隙をついた松千代は大きく体を捻り、右手一本で二郎を倒しました。この大技に大人たちはざわめきました。

「あはははは……、とちゃん、負けたばい。あやつぁ強かぁ〜!(訳……あはははは……、父ちゃん、負けたよ。あいつは強〜い!)」
「なんば笑いよっとや?ぬしゃ、まちっと集中せんや!(訳……何を笑っているんだ!お前はもうちょっと集中しろ!)」
「あはははははは……」

二郎は笑いながら松千代の元へ行きました。

「ありがとうございました!よか投げだったばい。俺、完全に油断しとったけん綺麗に投げられたばい!あはは!(訳……ありがとうございました!良い投げだったよ。俺、完全に油断してたから綺麗に投げられたよ!あはは!)」
「こちらこそありがとうございました。また宜しくお願いします!実を言うと、その時我の頭の中は真っ白だったんだ」
「お?面白かことば言うね。あはははは(訳……お?面白いことを言うね。あはははは)」

 次の試合は太郎と梅千代です。太郎は豪快に塩を撒き、その塩は武彦にも降りかかりました。

「こら!太郎!やり過ぎぞ!(訳……こら!太郎!やり過ぎだよ!)」
「あ、ごめんごめん」
「梅千代!いつものようにやるのだ。よいな?」
「はいっ」

 行司の掛け声に反応して、二人は体勢を整えました。

「はっけよーい……のこったぁ!」

またしても激しいぶつかり合いで始まりました。太郎は梅千代に張り手を浴びせました。梅千代はその張り手に耐えきれず、すぐに土俵から出てしまいました。梅千代は泣きじゃくってしまいました。
一礼した二人は、それぞれの場所に戻ります。

 次の試合は竹千代とフユですが、フユはツユに頬を叩かれて戦意を喪失してしまい、竹千代の不戦勝となりました。

 これで一回戦は終わりました。次に準決勝が行われます。準決勝の一試合目は、ナツと松千代です。
 一回戦で敗退した子どもたちは、アキたちがいる縁側に座り、九千坊の奥さんがこしらえた饅頭を頬張っていました。

「はふはふはふはふ……」
「はふはふ……おいし……はふはふ」
「はふはふ……んぐっ!」
「そぎゃん慌てんちゃよかよ。まだいっぱいあるけんねぇ(訳……そんなに慌てなくてもいいよ。まだたくさんあるからねぇ)」
「おぉ!皆、良い食べっぷりじゃ!」
「三郎、お饅頭美味しいねぇ」
「……えへへ、おいしいねぇ」
「おやぁ!真似っこ上手だねぇ」
「えへへへ……」

みんな笑顔です。

 さて、土俵の中では準決勝が始まりました。最初の試合はナツと松千代です。

 この闘い、ナツは燃えています。なぜなら、前回松千代とは一回戦で当たり、見事に投げ倒されたからです。

 二人は太郎の塩まきにならって、豪快に塩を投げました。その塩は土俵ところか、試合を見守る大人たちにまで降りかかりました。

「ぺぺっ、しょっぱい!」
「いささかやり過ぎではないか?」
「だが塩がかかると言うことは、身が清められるようなもの。こちらまで身が引き締まる思いじゃ」

大人天狗たちは思い思いを口にしました。

 緊張の時間がやってきました。準決勝ともなると、みんなの顔はより真剣な表情になりました。お互いに手をつき、行司の一言に耳を研ぎ澄ませます。

「はっけよーい……のこったぁ!」

 お互いはまたしても肩を激しくぶつけ合い、松千代はナツのまわしを取りました。松千代より体の小さいナツはどうしても松千代のまわしに手が届きません。松千代はここぞとばかりにまた右腕一本で投げ倒そうとしました。
 しかしその瞬間、ナツは身軽な体を利用して飛び跳ね、松千代の右腕から逃れると、ひらりと回って松千代の背後を取りました。そして松千代の背中を激しく張り手で攻めると、松千代はあっという間に足を出してしまいました。
土俵の外から拍手が沸き起こります。

「今の技は何なのだ?」
「しかし小さいながらに素晴らしい身のこなしであった。あれは、あの狐に天晴れじゃ!」
「小さきつわものよ、天晴れじゃ!」

天狗たちはまた思い思いを口にしました。

「ナツ、あれは見事な技だった。また一つ勉強になった」
「わたし、まけると おもったけど、からだが かってにうごいちゃった!」
「また闘おう!」
「うん!また たたかおう!」

松千代は満足そうな顔をして、縁側へと歩きました。
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