第11話 アキの風邪騒動4

文字数 1,881文字

 ハルの怒りに触れてしまったナツとフユは、わんわんと泣きわめきました。

「うわぁぁん、ごめんなさ〜い!」
「いたいよ〜!もうしませ〜ん!」
「お前たち!これで何度目ですか?何度も何度も何度も何度も、同じような口車に乗せられて、食べ物に釣られて、未熟者にも程があります!ご主人もご主人です!こんな小賢しい真似をして、私から逃げられるとでもお思いですかぁ」

ハルは容赦無く二人のお尻を叩きました。その音は、家中に響き渡りました。

 その頃屋根裏では、イエナリとヤナコの看病が続きました。

「大丈夫かい?」
「う、うん……ゲホ、大丈夫だよぉ。それより、あの子たちは、ゲホ、どうなってるのぉ?」
「あんた、見に行っておやり」
「あいさ!」

イエナリは、屋根裏部屋の隙間を歩いて、ハル達のいる寝室を見に行きました。そして、小走りで屋根裏部屋に戻ってきました。

「あいつら、ハルに尻をぶっ叩かれてるぞ!」
「おやまぁ……ゲヒ……」
「よっぽど何かをしでかしたんだろうねぇ。さっきからあの子たちの泣き声が聞こえて、あたしゃ心配さね」
「ご主人、あの子たちは何やったんじゃ?」

アキは苦笑いをするだけ、答えることはしませんでした。

やがて、二人の声は消え、家中に響き渡っていた破裂音も聞こえなくなりました。
ヤナコは、もう一度イエナリに見に行くように言い、イエナリは、さっきと同じように小さな足で歩いて行きました。そして、また小走りで屋根裏部屋に戻ってきました。

「あいつら、軒下に吊るされてるぞ!」
「お、おやまぁ……ゲヒ……」
「ハルが、ご主人を探してるぞ」
「ご主人、ここはお部屋に戻ったらどうだい?」
「そうじゃ、おとなしく薬を飲んで、ゆっくり休んで、またここに来ておくれ」
「……わかったよぉ、ゲホ、そうするよぉ」

アキはゆっくりと立ち上がり、またフラフラと歩き始めました。家鳴りの二人は、アキの姿が見えなくなるまで手を振りました。

「あんた、ハルに言っといでな。『戻った』って」
「そうだな、こっちに飛び火する前に、言っとくか」

イエナリは、またまた屋根裏部屋を出て行きました。


 アキはゆっくりとした足取りで、寝室に戻りました。途中、足がもつれて転んでしまい、膝小僧に擦り傷を負ってしまいました。
寝室に入ったアキの耳に、すすり泣く声が聞こえてきました。ナツとフユです。
二人は、寝室のそばの軒下に吊るされていました。そして、寝室の隅に、ハルが座っていました。

「ご主人、気は済みましたか?」
「……はい」

アキは、ハルの目の前に正座しました。

「ごらんなさい。あなたの行動が、この子達を苦しめることになりましたよ」
「いや、それはハルが……」
「だまらっしゃい!」
「……はい」

ハルは、細めの目を開き、言いました。

「ご主人、あなたの身勝手な行動が、己の身を、そして、愛する者の身を滅ぼすこと、ゆめゆめお忘れなきよう!」
「……はい」
「たかだか薬如きで、逃げるんじゃありません」
「……はい」
「薬が嫌なら、あなたの口ひとつで治せるでしょう」
「……それは嫌」
「では薬を飲んでください」
「……」
「返事!」
「はい!」
「その前に、この子達を助けてあげてください」

ハルは寝室を出て行きました。残ったアキは、二人の元へ向かいました。

「ごしゅじん、どこいってたの……グス」
「ハルさま、かんかん……グス」
「ご、ごめんねぇ、ゴホ、『お手洗い』に行ってたの、ゴホ……すぐに助け、ゴホゴホ、助けるからねぇ」
「あれ、『かわや』じゃない……」
「だからハルさまに ばれたんだね……」

 この後アキは、ハルが作った薬を素直に飲み、大人しく床に就きました。するとなんということでしょう、あっという間に熱が下がり、咳も止まりました。
 ナツとフユは縄をほどかれましたが、お尻が痛いのか、しばらくは座ることができませんでした。でも、アキに助けられた後、ハルがお粥を準備してくれたので、二人はハルとアキにお礼を言って、そのお粥を美味しそうに平らげました。

 その日の夜、ナツとフユは狐の姿に戻って、満月輝く空に向かって自分のお尻をさらけ出していました。

「ナツ、フユ……ケホ、何やってるのぉ?」
「ごしゅじん、ハルさまに おしえてもらった」
「まんまる おつきさまに、いたいところを みせると、なおしてくれるって」
「これで おすわりできる!」
「これで おすわりできる!」

二人はそう言って、寝る直前までお尻をさらけ出していました。

その姿をこっそり影から見ていた人がいます。ハルです。

「ククク……、滑稽にも程があります。治るはずないでしょう。クク……」

今宵も、この家は平和ですねーー。
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