第24話 今日の日常〜大相撲編1〜
文字数 2,756文字
ここは、とある山の中。今日も朝からお日柄が良く、雲ひとつ無い青空の元、いつもの日本家屋の庭には多くの天狗と人間の姿をした四匹の狐、そして河童の家族が集まっていました。
「わぁ、与彦さん、集まってくれてありがとうございますぅ!」
「アキ殿、今日は総出でお邪魔させてもらうぞ。これお前たち!挨拶をせんか!」
いつもの山伏姿にさらし布のまわしを巻いた与彦は、後ろからトコトコとついてくる小さな天狗に言いました。
「お前たち、ご挨拶をするのだ」
「松千代、竹千代、梅千代、いらっしゃぁい!」
「アキ様!」
「こんにちは!」
「違うぞ松千代、まだ『おはようございます』だ!」
「え?そうなのか竹千代?」
「そうだとも松千代。あ、そういえばアキ様、先日はありがとうございました」
梅千代がアキに向かって丁寧に頭を下げました。
「おやぁ?何かしたかなぁ?」
「アキ様の言霊のおかげで、与彦様の鍛錬が優しくなりました!」
「そうだったっけぇ?」
アキは三人の小天狗の頭を撫でました。小天狗達は嬉しそうにその場を離れ、大人の天狗達の元へと走って行きました。
「お二方、今日は大相撲大会です。これまで培ってきた力を存分に発揮なさい。いいですね?」
「はい!ハルさま」
「はい!ハルさま」
「いいですかお二方、脇をしっかり締めて岩の如く当たっていくのですよ。いいですね?」
「はい!ツユさま」
「はい!ツユさま」
ナツとフユは、ハルとツユに言われて元気よく返事をしました。そして、その場で並んで摺り足を始めました。
「いち、にぃ、さん、しぃ」
「ごぉ、ろく、しち、はち」
「そうです、その調子です」
「お前たち、精進を怠らぬように」
「はい!」
「はい!」
狐たちが準備運動をしている中、河童の九千坊がやってきました。
「おやぁ?九千坊さん!」
「朝っぱちからようやんねぇ」(訳……朝っぱらからよくやるなぁ)
「おはようございますぅ」
「おぅ!キュウリ持ってきたばい」(訳……やぁ!キュウリを持ってきたよ)
「ありがとうございますぅ」
「あたがえんこどんは元気んよかなぁ!うちんこどんな、ずっと足にひっちぃとらす。コレ、三郎 、挨拶ばせんか!」(訳……あなたの所の子供は元気がいいねぇ!うちの子供は、ずっと足に引っ付いてるよ。これ、三郎 、挨拶をしなさい!)
九千坊がそう言うと、足元からひょっこりと顔が出てきました。
黄色いくちばしにクリクリお目目、左腕に赤い布を巻いた、傘を被ったような頭の河童です。
「……とちゃん、こっがにんげん?しりこだま あっと?」(訳……とうちゃん、これがにんげん?しりこだま あるの?)
「そぎゃんたい。こっが人間たい。ばってん、尻子玉は取っとはでけんぞ」(訳……そうだよ。これが人間だよ。でも、尻子玉は取っちゃダメだよ)
三郎と呼ばれる小さな河童は、アキをマジマジと見つめてすぐさま九千坊の後ろに隠れ、また顔をひょっこりと出しました。
「おはよう三郎。仲良くしてねぇ」
アキの優しい言葉で三郎は笑顔になり、素直に頷きました。
すると、三郎の存在に気付いたナツとフユ、松千代と竹千代と梅千代が集まってきました。
「きゅうせんぼ〜」
「わぁ!ちっちゃい きゅうせんぼ〜だ」
「九千坊様、ちっちゃくなりました?」
「どこを見ているのだ松千代、あれは紛れもなく九千坊様のお子だ」
「そうなのか竹千代?」
「そうだとも松千代」
「そうなのか梅千代?」
子供たちが集まったことで、三郎の周りは賑やかになりました。三郎はそれに驚いて、九千坊の後ろに引っ込みました。
「三郎、こんこどんと遊んでけーよ」(訳……三郎、この子どもと遊んでおいでよ)
「……とちゃん、こやっどんも しりこだま あっと?」(訳……とうちゃん、こいつらも しりこだま あるの?)
「狐やつにはあるばってん、天狗はどぎゃんだろか?」(訳……狐にはあるけど、天狗はどうだろうね?)
三郎はまた顔をひょっこりと出し、子供たちを見回しました。すると、梅千代が三郎に手を差し出してきました。
三郎おそるおそるその手を握ると、梅千代は三郎を引っ張り走りました。それに合わせて周りの子供たちも三郎を囲うように走って行きました。
「よし!おるもちっと運動なっとしよかね?」(訳……よし!俺も、少し運動でもしようかね?)
九千坊は、肩をぐるぐると回しながらその場を後にしました。
「元気がいいなぁ。それにしても、子供たちはかわいいなぁ」
アキがそう呟くと、後ろからアキを呼ぶ声がしました。
「おやぁ!夜彦(やひこ)さん」
与彦と瓜二つの姿をしたその烏天狗は、小さな団扇でアキを扇ぎました。
「遅くなりもうした。今しがた豊前坊様も到着致した」
「これはこれは、遠いところをありがとうございますぅ」
「相変わらず、気の抜ける喋り方じゃな」
「おやぁ!豊前坊様!」
「アキや、ますます母君に似てきおったのぉ」
大きな体をした豊前坊は、大きな団扇でそよ風を作りました。それは庭で準備運動をしている天狗たちやハルとツユ、そして子供たちの元へと行き渡りました。
そよ風を受けたみんなは、豊前坊の存在に気付いて豊前坊に注目しました。
そして、夜彦が叫びます。
「皆の者!つわものどもに立ち向かう覚悟はできておいでか?」
夜彦の声に皆も応えます。
「今日は大相撲大会じゃ!そしてこの度も、一番に強い者には賞品がある!皆の者、一番になりたいかぁぁぁぁ?」
「おぉぉぉぉぉぉ!」
「勝ちたいかぁぁぁぁ?」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「よぉし!では、我らが豊前坊様から、ありがたお言葉を頂戴する!皆の者、黙するのじゃ!」
夜彦が叫んだ後、豊前坊が口を開きました。豊前坊は、夜彦以上の大きな声で言いました。
「桜はぁぁぁ、咲いてよぉぉぉし、散ってよぉぉぉぉぉぉし!!!」
豊前坊の言葉に、大人達は体を震わせて涙目になりました。
「ぶ、豊前坊様のお言葉、なんと、なんと素晴らしいのだ!」
「我は心を震わされたぞ!」
「ぐっ、ハル、私はこの言葉に涙が出てきました!」
「ツユ!私もです!なんと美しいお言葉でしょう!」
そんな中、子供たちは唖然としていました。
「ねぇフユ、いまの どういうこと?」
「うんとね、わかんない。まつちよちゃん わかった?」
「いやさっぱり!」
「我も分からぬ」
「えぇっ?うめちよちゃんも?」
「あぁ、桜が咲いてもよくて散って良いのか?どういうことだ?」
「えぇっ?たけちよちゃんも?」
そんな中、三郎は九千坊に聞きました。
「ねぇ、とちゃん、どぎゃんいみ?」(ねぇ、とうちゃん、どういう いみ?)
「勝っても負けてもよかよってこったい」(訳……勝っても負けてもいいよって事だよ)
「なんで?なんでまけても よかと?」(訳……なんで?なんでまけても いいの?)
九千坊は少し笑って、「そのうち分かる」と言いました。
「わぁ、与彦さん、集まってくれてありがとうございますぅ!」
「アキ殿、今日は総出でお邪魔させてもらうぞ。これお前たち!挨拶をせんか!」
いつもの山伏姿にさらし布のまわしを巻いた与彦は、後ろからトコトコとついてくる小さな天狗に言いました。
「お前たち、ご挨拶をするのだ」
「松千代、竹千代、梅千代、いらっしゃぁい!」
「アキ様!」
「こんにちは!」
「違うぞ松千代、まだ『おはようございます』だ!」
「え?そうなのか竹千代?」
「そうだとも松千代。あ、そういえばアキ様、先日はありがとうございました」
梅千代がアキに向かって丁寧に頭を下げました。
「おやぁ?何かしたかなぁ?」
「アキ様の言霊のおかげで、与彦様の鍛錬が優しくなりました!」
「そうだったっけぇ?」
アキは三人の小天狗の頭を撫でました。小天狗達は嬉しそうにその場を離れ、大人の天狗達の元へと走って行きました。
「お二方、今日は大相撲大会です。これまで培ってきた力を存分に発揮なさい。いいですね?」
「はい!ハルさま」
「はい!ハルさま」
「いいですかお二方、脇をしっかり締めて岩の如く当たっていくのですよ。いいですね?」
「はい!ツユさま」
「はい!ツユさま」
ナツとフユは、ハルとツユに言われて元気よく返事をしました。そして、その場で並んで摺り足を始めました。
「いち、にぃ、さん、しぃ」
「ごぉ、ろく、しち、はち」
「そうです、その調子です」
「お前たち、精進を怠らぬように」
「はい!」
「はい!」
狐たちが準備運動をしている中、河童の九千坊がやってきました。
「おやぁ?九千坊さん!」
「朝っぱちからようやんねぇ」(訳……朝っぱらからよくやるなぁ)
「おはようございますぅ」
「おぅ!キュウリ持ってきたばい」(訳……やぁ!キュウリを持ってきたよ)
「ありがとうございますぅ」
「あたがえんこどんは元気んよかなぁ!うちんこどんな、ずっと足にひっちぃとらす。コレ、
九千坊がそう言うと、足元からひょっこりと顔が出てきました。
黄色いくちばしにクリクリお目目、左腕に赤い布を巻いた、傘を被ったような頭の河童です。
「……とちゃん、こっがにんげん?しりこだま あっと?」(訳……とうちゃん、これがにんげん?しりこだま あるの?)
「そぎゃんたい。こっが人間たい。ばってん、尻子玉は取っとはでけんぞ」(訳……そうだよ。これが人間だよ。でも、尻子玉は取っちゃダメだよ)
三郎と呼ばれる小さな河童は、アキをマジマジと見つめてすぐさま九千坊の後ろに隠れ、また顔をひょっこりと出しました。
「おはよう三郎。仲良くしてねぇ」
アキの優しい言葉で三郎は笑顔になり、素直に頷きました。
すると、三郎の存在に気付いたナツとフユ、松千代と竹千代と梅千代が集まってきました。
「きゅうせんぼ〜」
「わぁ!ちっちゃい きゅうせんぼ〜だ」
「九千坊様、ちっちゃくなりました?」
「どこを見ているのだ松千代、あれは紛れもなく九千坊様のお子だ」
「そうなのか竹千代?」
「そうだとも松千代」
「そうなのか梅千代?」
子供たちが集まったことで、三郎の周りは賑やかになりました。三郎はそれに驚いて、九千坊の後ろに引っ込みました。
「三郎、こんこどんと遊んでけーよ」(訳……三郎、この子どもと遊んでおいでよ)
「……とちゃん、こやっどんも しりこだま あっと?」(訳……とうちゃん、こいつらも しりこだま あるの?)
「狐やつにはあるばってん、天狗はどぎゃんだろか?」(訳……狐にはあるけど、天狗はどうだろうね?)
三郎はまた顔をひょっこりと出し、子供たちを見回しました。すると、梅千代が三郎に手を差し出してきました。
三郎おそるおそるその手を握ると、梅千代は三郎を引っ張り走りました。それに合わせて周りの子供たちも三郎を囲うように走って行きました。
「よし!おるもちっと運動なっとしよかね?」(訳……よし!俺も、少し運動でもしようかね?)
九千坊は、肩をぐるぐると回しながらその場を後にしました。
「元気がいいなぁ。それにしても、子供たちはかわいいなぁ」
アキがそう呟くと、後ろからアキを呼ぶ声がしました。
「おやぁ!夜彦(やひこ)さん」
与彦と瓜二つの姿をしたその烏天狗は、小さな団扇でアキを扇ぎました。
「遅くなりもうした。今しがた豊前坊様も到着致した」
「これはこれは、遠いところをありがとうございますぅ」
「相変わらず、気の抜ける喋り方じゃな」
「おやぁ!豊前坊様!」
「アキや、ますます母君に似てきおったのぉ」
大きな体をした豊前坊は、大きな団扇でそよ風を作りました。それは庭で準備運動をしている天狗たちやハルとツユ、そして子供たちの元へと行き渡りました。
そよ風を受けたみんなは、豊前坊の存在に気付いて豊前坊に注目しました。
そして、夜彦が叫びます。
「皆の者!つわものどもに立ち向かう覚悟はできておいでか?」
夜彦の声に皆も応えます。
「今日は大相撲大会じゃ!そしてこの度も、一番に強い者には賞品がある!皆の者、一番になりたいかぁぁぁぁ?」
「おぉぉぉぉぉぉ!」
「勝ちたいかぁぁぁぁ?」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「よぉし!では、我らが豊前坊様から、ありがたお言葉を頂戴する!皆の者、黙するのじゃ!」
夜彦が叫んだ後、豊前坊が口を開きました。豊前坊は、夜彦以上の大きな声で言いました。
「桜はぁぁぁ、咲いてよぉぉぉし、散ってよぉぉぉぉぉぉし!!!」
豊前坊の言葉に、大人達は体を震わせて涙目になりました。
「ぶ、豊前坊様のお言葉、なんと、なんと素晴らしいのだ!」
「我は心を震わされたぞ!」
「ぐっ、ハル、私はこの言葉に涙が出てきました!」
「ツユ!私もです!なんと美しいお言葉でしょう!」
そんな中、子供たちは唖然としていました。
「ねぇフユ、いまの どういうこと?」
「うんとね、わかんない。まつちよちゃん わかった?」
「いやさっぱり!」
「我も分からぬ」
「えぇっ?うめちよちゃんも?」
「あぁ、桜が咲いてもよくて散って良いのか?どういうことだ?」
「えぇっ?たけちよちゃんも?」
そんな中、三郎は九千坊に聞きました。
「ねぇ、とちゃん、どぎゃんいみ?」(ねぇ、とうちゃん、どういう いみ?)
「勝っても負けてもよかよってこったい」(訳……勝っても負けてもいいよって事だよ)
「なんで?なんでまけても よかと?」(訳……なんで?なんでまけても いいの?)
九千坊は少し笑って、「そのうち分かる」と言いました。