第32話 今日の依頼人〜歌手編1〜
文字数 1,085文字
ここは、とある山の中。冷たい風ながらも春の香りが運ばれてくるこの日本家屋では、今日も元気な声が飛び交います。
「お二方、この葉っぱをよくごらんなさい」
長い黒髪を結い、着物の袖をまくったハルは青い葉を手のひらに乗せて息を吹きかけました。すると葉がくるりと宙を舞い、その葉は油揚げに変化しました。それを見ていたナツとフユは驚きを隠せません。
「たべたいです!」
「たべたいです!」
「油揚げはおやつに召し上がったでしょう」
「でも たべたいです!」
「でも たべたいです!」
「お前たちの体の中はどうなってるのです?」
「えへへ」
「えへへ」
「なぜ照れるのですか……」
ハルはナツとフユの手のひらに葉を乗せました。二人はそれに息を吹きかけましたが、葉ははのままです。葉は吹きかけられた息によってひらひらと落ちてしまいました。
ハルがふと獣道の方を見ると、買い物袋を手に提げたアキが誰かを連れて戻ってきました。
「ご主人、ご無事でなによりです」
「あれ?だれか います」
「あれ?だれか います」
アキが「ただいま」と言うと、隣の人は「ちーっす」と言いました。
「今日のご予約のお客様だよぉ。ちょうど神社の前で迷ってらっしゃったからご案内したんだぁ」
「これはこれは、ようこそお越しくださいました」
「おにいさん こんにちは」
「おにいさん こんにちは」
「元気いいね!いくつ?」
「百七十二さい!」
「百七十二さい!」
「へぇ〜、じゃあ俺よりも長生きしてんのか」
その人はナツとフユに笑って見せました。二人はなんだか嬉しそうですが、ハルの顔は引きつっています。アキはお客様を家の中へ案内しました。ハルは二人を台所へと連れて行き、お茶と茶菓子を準備して座敷へ向かいました。
その座敷では、アキとお客様が座布団に座っていました。今日もそこから望む景色は絶景です。
「改めて、アキと申します。お見知り置きください」
「カンセイっす」
「それは本名ですか?」
「いや、芸名っす。俺、ゴスペルやってるんで」
「ごすぺる?」
ハルがお茶と茶菓子を持ってきました。二人の前に差し出す、カンセイは小さく会釈をしました。
「ごすぺるってなんですか?」
アキが聞くと、カンセイは一曲披露しました。カンセイの美声が家中に響き渡りました。彼が終わると、アキとハルは拍手をしました。
「わぁ!綺麗な声をしてらっしゃいますね」
「心が洗われるような歌ですね」
カンセイは気を良くしてもう一曲披露しました。座敷の天井から、いつの間にやら家鳴りのイエナリとヤナコが顔を出してその美声に聞き惚れていました。
「いい声だねぇ」
「あんな声が出せるたぁ、羨ましいなぁ」
「お二方、この葉っぱをよくごらんなさい」
長い黒髪を結い、着物の袖をまくったハルは青い葉を手のひらに乗せて息を吹きかけました。すると葉がくるりと宙を舞い、その葉は油揚げに変化しました。それを見ていたナツとフユは驚きを隠せません。
「たべたいです!」
「たべたいです!」
「油揚げはおやつに召し上がったでしょう」
「でも たべたいです!」
「でも たべたいです!」
「お前たちの体の中はどうなってるのです?」
「えへへ」
「えへへ」
「なぜ照れるのですか……」
ハルはナツとフユの手のひらに葉を乗せました。二人はそれに息を吹きかけましたが、葉ははのままです。葉は吹きかけられた息によってひらひらと落ちてしまいました。
ハルがふと獣道の方を見ると、買い物袋を手に提げたアキが誰かを連れて戻ってきました。
「ご主人、ご無事でなによりです」
「あれ?だれか います」
「あれ?だれか います」
アキが「ただいま」と言うと、隣の人は「ちーっす」と言いました。
「今日のご予約のお客様だよぉ。ちょうど神社の前で迷ってらっしゃったからご案内したんだぁ」
「これはこれは、ようこそお越しくださいました」
「おにいさん こんにちは」
「おにいさん こんにちは」
「元気いいね!いくつ?」
「百七十二さい!」
「百七十二さい!」
「へぇ〜、じゃあ俺よりも長生きしてんのか」
その人はナツとフユに笑って見せました。二人はなんだか嬉しそうですが、ハルの顔は引きつっています。アキはお客様を家の中へ案内しました。ハルは二人を台所へと連れて行き、お茶と茶菓子を準備して座敷へ向かいました。
その座敷では、アキとお客様が座布団に座っていました。今日もそこから望む景色は絶景です。
「改めて、アキと申します。お見知り置きください」
「カンセイっす」
「それは本名ですか?」
「いや、芸名っす。俺、ゴスペルやってるんで」
「ごすぺる?」
ハルがお茶と茶菓子を持ってきました。二人の前に差し出す、カンセイは小さく会釈をしました。
「ごすぺるってなんですか?」
アキが聞くと、カンセイは一曲披露しました。カンセイの美声が家中に響き渡りました。彼が終わると、アキとハルは拍手をしました。
「わぁ!綺麗な声をしてらっしゃいますね」
「心が洗われるような歌ですね」
カンセイは気を良くしてもう一曲披露しました。座敷の天井から、いつの間にやら家鳴りのイエナリとヤナコが顔を出してその美声に聞き惚れていました。
「いい声だねぇ」
「あんな声が出せるたぁ、羨ましいなぁ」