第16話 今日の日常〜ツユ編〜2

文字数 1,755文字

「あ、これ、お土産です」

ツユが懐から何やらを取り出し、ハルに渡しました。

「こ、これは!百年に一度しか出回らない、究極の油揚げではありませんか!」
「この間、何でも屋の『狐火(きつねび)』に行ったら、最後の二袋があったんです。この楕円にちょろっと尻尾が生えたような形、魅力的でしょ?」
「はい!あぁもう我慢できません!早く食べましょう!」

 ハルとツユは足早に居間に向かいました。うなだれていたナツとフユはきちんと座り直して、ツユに挨拶をしました。

「ツユさま、おかえりなさい!」
「ツユさま、おかえりなさい!」
「お前たち、おりこうにしていましたか?」
「はい!」
「はい!」
「よろしい。今日はお前たちにお土産がありますよ」

ツユがまた懐から何やらを取り出し、ナツとフユに渡しました。

「わぁ!きれい!」
「きらきらしてる!」
「ビードロというガラスのおもちゃです。この筒を咥えて軽く息を吹き込みます。そして、音が出たら口を離すのです」

ツユがお手本を見せるために、ビードロの筒を咥え、息を吹き込みました。
その可愛らしい音を聞いて、二人は目を輝かせました。

「ポコペンかわいい!」
「ポコペンかわいい!」
「さあ、お前たちもやってごらんなさい」

ナツとフユは、言われた通りに息を吹き込みました。すると、ナツのビードロの底のガラスが勢い良く砕け散りました。

「あれ?パリン?」
「ポコペンじゃ ないね?」
「その音は、ガラスを割ってしまった音です。ナツ、軽く息を吹き込まなくてはなりませんよ」
「ツユさまごめんなさい、ポコペン こわしちゃった」
「まっててナツ、わたしのを かしてあげるからね」

フユは筒に軽く息を吹き込み、ポッと音を鳴らしました。そして口を離すと、次はペンという音を出しました。

「わぁ!フユ すごい!」
「ポコペンだぁ!ナツ、がんばって!」
「うん!」

 ナツとフユは、一つのビードロを二人で使い遊び続けました。それをよそにハルとツユは究極の油揚げを口にしています。

「この食感、香り、たまりません。さすがは狐火の油揚げです。ツユ、ありがとうございます」
「いえいえ、私も五百年ぶりにこの油揚げを頂きました。頬が落ちそうです」

ハルとツユは、元々細い目をさらに細くし、舌と鼻を使ってしっかりと味わっていました。ついつい顔がほころび、知らず知らずのうちに狐の髭が出てきました。

 そんな中、アキがお盆を抱えて居間に入ってきました。

「うぅ、薬だけでお腹いっぱい……」
「ご主人!お薬、飲みました?」
「あ、ツユ!おかえりぃ。飲んだよ、この通り」

アキは、ゲップをしながらお盆の上の和紙を見せました。ツユとハルは、満足した顔をしています。

「ごしゅじん、ツユさまから ポコペン もらった!」
「おやぁ?懐かしいねぇ。楽しい?」
「うん!」
「うん!」


ナツとフユは、アキにビードロを吹いて見せました。アキはそれを見て、二人に拍手を送り、ナツとフユは満足した顔をしました。

「なんだい?ずいぶん賑やかだね?」
「あ、ツユじゃねぇか!久しぶりだなぁ」

 ギシギシという音をたてながら、イエナリとヤナコが居間に現れました。

「イエナリ、ヤナコ、お久しぶりです。きちんとご主人を守ってくださいましたか?」
「当たり前さね!あたしたちは家鳴りだよ?」
「おうよ!」
「頼もしいですね。今日はあなた方にお土産があります」

ツユは腕の袂から何やらを取り出し、イエナリとヤナコに渡しました。

「これはなんだい?」
「お、おう?」
「あなた方はお茶が好きでしょ?『アールグレイ』と言われる紅茶です。いい香りですよ」

ツユはイエナリとヤナコに茶っぱの入った箱を渡しました。イエナリとヤナコは、箱の中から香る茶っぱに、ギシギシ鳴らしながら満足そうな顔を見せ、駆け足でどこかへ行ってしまいました。そして、天井から『いい香りじゃ!』『美味しいねぇ!』という声が聞こえました。

「みんな嬉しそうだねぇ。ところでツユ、旅の話を聞かせておくれよ」
「もちろんいいですよ。そういえば、『因幡の白兎』に会いました。真っ白な毛に大きな耳で、とても礼儀正しい兎でしたよ」
「え、あの白兎?」
「うさぎ?」
「あの、しろうさぎ?」
「なんと!そしてどうなりました?」

みんなは、ツユの土産話に興味津々で、会話に花が咲きました。それは、夕方まで続いたのです。
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