第19話 ナツとフユの大げんか2

文字数 1,898文字

 この後、ナツとフユはずっと口をきくことなく、眠る時も背中合わせに寝ました。

 一夜が明けたこの日も雨はやまず、アキとハルを含む4人は家の中で過ごすことになりました。

ナツは、アキと一緒に座敷を拠点にかくれんぼをして遊んでいます。

「もういいかぁい?」
「まぁだ だよ!」
「もういいかぁい?」
「もぉ いいよ!」
「よぉし、探すぞぉ」

座敷から書斎に向かったアキは、書斎の机の下に隠れているナツを見つけました。

「みいつけた!」
「わぁ、みつかった〜」
「すぐに分かったよぉ。次はナツの番だよぉ」

こうやって隠れては見つかり隠れては見つかりの繰り返しです。

「なんか、二人だけだからつまんないなぁ」

アキは思わず呟きました。


 一方フユは、居間でハルに絵本を読んでもらっていました。

「こうしてかぐや姫は、帝に不老不死の薬を渡し、月から来た使者とともに、月の世界に帰っていきました。傷心した帝は『かぐや姫のいないこの世界で不老不死になっても意味がない』と言い、一番高い山でこの薬を燃やすようにと(つわもの)に命令し、士は命令のままに、その薬を燃やしたのです。その山は『富士の山』と言われ、薬を燃やした煙は、今もなお立ち昇っています。めでたしめでたし……」

ハルは絵本を閉じました。フユは拍手をして目を輝かせ、次の絵本を持ってきました。

「ハルさま、つぎは これ よんでください!」
「いいですよ……、『つるの恩返し』ですね」

フユは自分の知らないうちに尻尾を出し、無意識に畳を叩いていました。

 するとそこへかくれんぼをしているナツが入ってきました。フユは一度はナツの顔を見ましたが、すぐに視線を外して絵本に集中しました。
それを見たナツは、フユの後ろを通って居間から出ようとしました。大きな足音を鳴らしながらフユの後ろを通ったその時、「ピギャ!」という声が聞こえました。
フユです。ナツがフユの尻尾を足で踏んづけてしまったのです。

「もう!しっぽ ふまないでよ!」
「しっぽ だしてるのが わるいんでしょ!」
「ふむのが わるいよ!」
「しっぽが わるいよ!」
「ナツ、キチンと周りを見ないと痛い目にあいますよ。フユも、無意識に尻尾を出すと痛い目にあいますよ」
「……」
「……」
「お二方、お謝りなさい」

ナツとフユは頬を膨らませてそっぽを向きました。

「フユのオッペケペー」
「ナツのおたんちん」
「もう きらい!」
「もう きらい!」

二人は怒鳴りました。ナツはより大きな足音を立てながら居間を後にしました。フユはナツに向かってあっかんべーをし、眉間にしわを寄せて、自分の尻尾を撫でながら絵本に集中しました。
ハルは黙って二人を見ているだけで、口を出すことはしませんでした。


 その後も、二人の仲が良くなることはありませんでした。むしろ、イタズラのやり合いが始まりました。

 口火を切ったのはフユです。尻尾を踏まれたお返しに、お昼ご飯の時ナツがふと席を外した隙に、吸い物の中に大量の山椒を入れてナツを苦しめました。
すると次はナツが、お昼寝をしているフユの顔に墨で落書きをして、フユを辱めに陥れました。
怒り心頭のフユは天井裏に忍び込み、ナツの頭の上から大量の小麦粉を落とし、ナツは粉だらけになりました。
元々イタズラが好きな狐ですから、こういう事はお手の物です。

ですがそれに振り回される人がいました。アキとハルです。
ナツが勝手に墨を使ったことで、アキのいつも使う墨が無くなってしまってアキを困らせました。
そして、そのあとフユが、ナツが通るであろう座敷の襖に生卵を仕掛けましたが、あろうことかハルの頭に生卵が落ちてきました。



 試練どころか争うようにイタズラを仕掛けるナツとフユ。このままではいけないのではと、アキはハルに言いました。

「ハル、いいのかなぁ」
「何がです?」
「このままだと、ずっと仲良くなれないと思うんだぁ。何かキッカケが必要だよぉ」

雨降る外を縁側で眺めながら、ハルは油揚げを頬張っていました。

「そうですね、このままだとまた生卵を落とされ続けますねぇ、……卵が勿体無い」
「……ハル?」
「わかりました。卵以外のイタズラにさせましょう。そちらの方が安心して、イタズラ合戦を見られます」
「……ハル……」
「油揚げでのイタズラなら食べられますし、痛くもないので安心です。あ、天ぷらでもいいですねぇ!」
「……ハル!」
「ん?どうしましたご主人?」
「イタズラするキッカケじゃなくて、仲良くさせるキッカケはないかなぁ?」
「……あぁ、そちらのキッカケですか」

ハルは油揚げの最後の欠片を口に入れて飲み込みました。
そして二人で話し合い、小さなキッカケを作ることにしたのです。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み