第13話 今日の依頼人〜議員編〜2

文字数 1,669文字

 「本日は、ようこそお越しくださいました。私、アキと申します。どうぞお見知り置きくださいませ」

アキは丁寧に頭を下げました。光永はあぐらをかいて、踏ん反り返って座っています。

「どんな奴かと思っていたら、案外ちっこい奴だな」
「ハハ、光永様は大きくていらっしゃいます。何かスポーツでも……」
「お前、言葉一つでなんでも思い通りにすることが出来るのか?」
「は、はい。アキと申し……」
「そんな挨拶はどうでもいい。早くしてくれ。俺はお前らのような遊びの仕事をしているんじゃないんだ。忙しいんだよ」

 アキは少し笑いました。

「光永様、今日はどのようなご用件でしょう?」
「俺を県議会議員選で当選させろ」
「当選……ですか」
「今回の選挙戦は厳しくてな。むしろ票が少ない見込みだ。だが、俺にはまだ議員としてやるべき事がある!それを実現させる為に当選したい。……そうだな、他の候補者を殺せ。できるだろ?」
「それはご法度です」

光永の顔が急変しました。

「家族殺し」
「……何のことでしょうか?」
「警察は知らなくても、俺は知ってるんだからな」

アキは黙ってしまいました。そこへ、ハルが入ってきました。そして、アキの隣に座って光永を睨みました。

「おやおや、穏やかな雰囲気ではありませんね」
「なんだぁ?」
「ハル黙ってて。分かりました。当選させたらいいんですね?」
「そうだ。候補者を殺せ。どんな死に方でも構わん」
「……分かりました。私の目を見てください」

アキは座り直して、咳払いをしました。

「ここにいる男の子光永は、候補者の死傷により県議会議員選挙で当選し、見事に議員としての責任を全うします」

アキが言霊を言い終わると、倉田の携帯電話が鳴りました。

「すみません、失礼します。はい倉田です……」

倉田は座敷の外へ出ました。光永は相変わらず踏ん反り返って座っています。

「フン、大人しく言われたことを言えばすぐに終わるものを……」

その時、倉田が戻ってきて、光永に耳打ちをしました。光永の怒り顔が一変、目を開き、眉を上にあげ、少し笑顔になりました。

「候補者の一人が、今、交通事故で亡くなったそうだ」
「……」

ハルは苦い顔をしたまま、固まっています。アキは、下を向いてしまいました。

「すぐ帰るぞ!俺は忙しいんだ」
「……はい」
「金は、いくらだ?」
「いえ、ご好意で結構です」
「そうか、じゃあ要らないな」

光永と倉田は立ち上がり、座敷を出ました。座敷から出る手前、光永が言いました。

「すごい奴だ。男か女かわからん奴だが、敵にまわせば恐ろしい奴だ」

光永はズカズカと玄関から出て行き、倉田は猫背になって後に続きました。外は霧が晴れて、清々しい空気が一帯を包んでいました。
光永は礼も言わず行ってしまいました。倉田は、アキとハルに謝りました。

「申し訳ございません。失礼ばかりを申しまして……」
「どうやら、大変そうですね」
「はい。いつもあんな感じなんです。ですから、結構敵も多くて……」
「なんだか、お疲れのようですねぇ」
「ははは、胃薬が欠かせません。あの、お金は……」

その時、倉田は光永に呼ばれ、二人に別れを言いました。倉田が帰る間際、アキは呼び止めて言いました。

「またいらしてくださいね。倉田様」

倉田は一礼して、光永の元へ走って行きました。


 見送った二人は家の中に戻りました。

「世の中に、あんな御仁がいるんですね」
「うん」
「なんと、テレパシーのない奴よ……」
「『デリカシー』ね」

 台所でおとなしくしていたナツとフユが、アキ達の元にやってきました。

「ごしゅじん だいじょうぶ?」
「かお あおいよ」
「大丈夫だよぉ」

アキは青い顔のまま寝室に入り、横になりました。

「お前たち、ご主人は少しお疲れのようです。皆で元気にして差し上げましょう!」
「はい!ハルさま」
「はい!ハルさま」

ハルとナツとフユは元の狐の姿になり、横になったアキの元に寄り添いました。

「秘技!もふもふ地獄!」
「ごしゅじん、げんきになって!」
「ごしゅじん、だいすき!」
「ふふふ、ハル、ナツ、フユ、ふかふかしてて気持ちいいよぉ」

アキの顔に笑顔が戻りました。
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