第5話 ナツとフユの金稼ぎ1

文字数 1,269文字

 ここはとある山の中。今日も何処かでさえずる鳥の声を聞きながら、小さな子供二人が、日本家屋の庭で焚き火をしていました。

♪も〜えろよもえろ〜よ〜
ほのおよも〜え〜ろ〜
ひ〜のこをまきあ〜げ
てんまでこ〜が〜せ〜♪

「ナツ、フユ、何をしているのです?この時期に焚き火とは、季節外れですね」

焚き火を目の前にして歌っていた二人の子供は、男性の声のする方を向いて言いました。

「ハルさま!」
「これをもやしています」

そう言って、ナツとフユは手元の()を見せました。ハルはそれを見るやいなや、「ご主人」と叫びながら家の中に入って行きました。

「ご主人!ご主人!」
「どうしたのぉ、大きな声を出してぇ?」
「ご主人、申し訳ございません!ナツとフユが……」
「ナツとフユがどうしたのぉ?」

ハルは、ご主人のアキの手を引いて、焚き火のある庭まで向かいました。

「もえろ〜」
「もえろ〜」
「あらぁ、ナツ、フユ、何を燃やしてるのぉ?」
「ごしゅじん、これを もやしたよ」
「これ、よくもえるね〜」
「あらぁ、全部燃やしちゃったのぉ?」
「はい〜」
「はい〜」

ハルは、アキに深々と頭を下げながら謝りました。

「申し訳ございません!この二匹、お金を燃やしておりました……」

 そうです。ナツとフユは、いつぞやの報酬でもらった1百万円を燃やしていたのです。

「いくら野狐(こども)といえど、ここまで無知だったとは……この白狐、恥を忍ぶのみです」

頭を下げるハルに、ナツとフユは頭を傾げました。

「いいよいいよぉ、燃やしたものは仕方ないからぁ」
「しかし……」
「私も、きちんとしまわなかったのが悪いんだよぉ」

アキは、ハルの肩を優しく叩きました。ハルは頭を上げましたが、顔が青ざめていました。

アキは、ナツとフユに言いました。

「ナツ、フユ、これはね、『お金』って言うんだよぉ」
「おかね?」
「おかねってなに?」
「おかねがあるから、私たちは生きていけるんだよぉ。このお家も、あなたたちが履いている下駄も、その服も、あなたたちが好きな揚げ物も、全部お金を払って手に入れたものなんだよぉ」

二人の顔が青ざめていきました。

「わたしたちが おかね をもやしたから、わたしたち、もう てんぷら たべられないの?」
「もう からあげ たべられないの?」

二人の目に、涙が溜まりはじめました。

「またお金を稼がないと食べられないよぉ」

二人は泣き出してしまいました。自分たちが何をしたのか、分かったからです。

「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「もう てんぷら たべられない」
「もう からあげ たべられない」
「もう かきあげ たべられない」
「燃やしたものは仕方ないよぉ、またがんばってお金を稼ごうよぉ、ねぇ」

アキは、二人の頭を撫でました。すると二人は泣きやんで、アキの顔を見上げました。

「ごしゅじん、おこってる?」

この問いに、アキは少し考えて言いました。

「……少しねぇ」

二人は衝撃を受けました。普段怒らないアキが、少し怒っているからです。

 この時、二人の心に決意が生まれました。

『自分たちで、お金を稼ごう』という、せめてもの罪滅ぼしです。
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