第21話 ナツとフユの大げんか4

文字数 2,354文字

 さて、所変わってナツを探しているアキは、家の近くにある洞穴を見に行きました。

「あ!やっぱりここにいたねぇ」

横穴の少し奥には小さな社があり、その前には泥だらけで水浸しになったナツが、子狐の姿になって背中を丸めて伏せていました。
アキはゆっくりとナツの隣に座りました。

「ご、ごしゅじん?グス……」
「確か、ここでナツとフユに出会ったよねぇ?」
「う、うん。フユと しゅぎょうをさぼって、ここまで きたけど、かえりみちが わからなくって ないてたの」
「そうそう、『わたしを さそったから』とか『あそぼうって いったでしょ?』とか、口喧嘩してたよねぇ」
「……うわぁぁぁぁん!フユゥ!ごめんなさい、ごめんなさぁぁい……」

ナツは大声で泣きました。ですがその声は雨の音にかき消され、洞穴から漏れることはありません。
アキはナツの頭を優しく撫でました。

 しばらくして落ち着きを取り戻したナツ。アキに話をしました。

「あのね、フユにね、オカメインコって いわれたの。グス、わたし、なかなおり したくて おまんじゅうを あげたの。でもね……でも、フユが、わたしのこと キライって……グス」
「オカメインコ?……もしかして『おかちめんこ』って言いたかったのかなぁ?」
「おかちめんこ?って なに?」
「え?えっと……。と、とにかく、かなしかったんだねぇ」
「うん。……あのね、わたしたち いっしょにうまれて、ずっとずっと いっしょにいたの。『いっしょに つよくなろうね。りっぱな びゃっこに なろうね』って、しゅぎょう がんばったよ。
ハルさま、あたまをなでてくれる。だから すき。
ごしゅじん、やさしい。だから すき。
フユ、いっしょに わらってくれる。だから だいすき。
でも、からあげが いちばん だいすき」
「あ、フユは二番目なんだ……」

グスグスとすすり泣くナツは、ゆっくりとした口調で話し、それをアキは頷きながら聞いていました。そして、アキが口を開きました。

「ねぇナツ、強くなりたいのぉ?」
「……うん」
「そうなんだぁ、ナツもフユも弱いもんねぇ」
「わ、わたしたち、よわい?」
「うん!弱い!」

ガックリとうな垂れるナツに、向かって、アキは正面から見つめました。

「ナツ、いぃい?本当に強いっていうのはね、力持ちや術を操ることじゃないんだよ。本当に強いのは、『謝る』、『許す』ことが出来る人(キツネ)の事を言うの」
「……ゆるす?」
「そう、許す。力や術で相手をコテンパンにしても、いい事なんて一つもない!悪い事をしたら『ごめんなさい』って謝る。『ごめんなさい』って言われたら『いいよ』って許す。これが強くなる秘訣の一つだよ。できる?」
「ごめんなさい したら、フユ、いいよ って いってくれる?」
「うん!そしたら、二人とも強い証拠だよ!」
「わぁ!わたし、ごめんなさい いいます!」

細い目が少し開き、ナツに笑顔が戻りました。アキはナツを抱き寄せ、自分の懐にナツを入れました。

「ごしゅじん、つめたいね」
「うん、雨に濡れたからね。ナツも冷たい」
「うん、あめに ぬれたの」

二人は笑いました。その時、二人はクシャミをしました。

「おやぁ?風邪ひく前に帰ろうね」
「うん!」

アキはまた雨に濡れながら、そしてナツを雨から守るように帰りました。


 家に向かったアキとナツ。玄関の前では、ハルとフユが待っていました。

「あ!ごしゅじんが みえました!」
「どうやらナツは、ご主人の懐にいるようですね」

アキたちもハルとフユの姿を見つけました。

「あ!フユ!」

ナツはアキの懐から飛び出し、着物を引きずりながらフユに向かって走って行きました。
フユも狐の姿に戻り、着物を脱ぎ捨ててナツに向かって走り出しました。

ちょうど雨脚が弱くなった頃、ナツとフユは曇天の下で正面を向き合いました。

「フユ、あの……」
「ごめんなさい!キライって いって ごめんなさい。ほんとは、だいすきだよ」

先に謝ったのはフユでした。頭を下げ、背中を丸めました。

「ううん、いいよ。わたしも ごめんなさい!おもちゃ こわして、しっぽ ふんだ」

ナツも頭を下げ、背中を丸めました。するとフユは一言「ううん、いいよ」と言い、笑顔でナツを受け入れました。

二人は仲良くハルの元へと行きました。

「ハルさま、おなかすきました」
「ハルさま、おなかすきました」
「そうですね、そろそろ夕餉の時間です。その前に湯浴みをなさい。今日は唐揚げにします」
「からあげ!」
「からあげ!」

ナツとフユは一目散に湯船に走りました。

「お前たち!耳の先鼻の先から尻尾の先まで洗うんですよ!」
「はぁーい!」
「はぁーい!」

アキはハルの隣に立ち、小さくクシャミをしました。

「ご主人も早く中へ……」
「うん。ナツね、ハルとフユが好きなんだって。あと、唐揚げも!」
「『ごしゅじんも』、でしょ?」

アキは笑って、「うん」と言いました。


 晩ご飯の時、ハルはナツとフユに言いました。

「いいですかフユ、次から小麦粉を天井から落とすのはおよしなさい」
「はい!つぎからは かたくりこに します!」
「よろしい。ナツも、次から墨を使うのはおよしなさい」
「はい!つぎからは しょうゆ にします!」
「ん、よろしい」

三人は笑っていましたが、アキだけは笑うことができませんでした。

「あれ?ご主人、どうしました?」
「え、なんでもないよ。ハハ……、唐揚げ美味しいねぇ!」
「うん!からあげ おいしい!」
「おいしい!」

ナツとフユは寝るまで笑顔で、二人はいつも通りに戻りました。


 次の日、アキとナツは風邪をひいてしまい、一週間寝込むことになりました。
食欲のないアキに対してよく食べるナツ。

 実は仮病を使ってお粥を食べていたのは、内緒の話ですーー。
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