第15話 今日の日常〜ツユ編〜1
文字数 1,444文字
ここは、とある山の中。朝日の光が山の木々を照らす頃、ひっそりと佇む日本家屋から大声が聞こえてきました。
「ご主人、ナツ、フユ、朝ですよ!起きてください!」
女性の姿をしたハルが、鉄の鍋を麺棒で打ち鳴らしながら寝室へ入ります。長い黒髪を上手に丸くまとめ、着物の袖を紐でくくり、割烹着に白い腕を通したその姿は、まるでお母さんのようです。
「うーん……」
「わたし、やまもりの あぶらあげ たべてた……」
「わたし、やまもりの まんじゅう たべてた……」
「はいはい、寝言は寝て言うものです。ほらほら起きてください!朝餉 が冷めてしまいますよ!」
「あさげ!」
「あさげ たべる!」
ナツとフユは相変わらずの食いしん坊さんです。布団から飛び起き、足音を大きく響かせながら居間へと走って行きました。アキは布団の中に入り込んでしまいました。
「ご主人、朝ですよ」
「……もう少し……」
「なりません。昨日倉田様より頂いた『鬼ホイホイ』なる酒を夜更けまで召し上がるからですよ」
「『鬼コロリン』ね……。あ、頭痛いぃ」
「ほら見なさい!二日酔いではありませんか!だいたい、たかがあれしきで鬼がホイホイとなるとお思いですか?」
「『鬼コロリン』だってば。ハル、お水ちょうだい」
「……わかりました。ただいま、特製鎮痛薬と一緒にお持ちします!」
ハルはそそくさと寝室を出て行き、またすぐに戻ってきました。手にはお盆を抱えており、水と、和紙を敷いた上に、てんこ盛りの白色、緑色、灰色の粉末が並べて置いてありました。
「さぁご主人、飲んでください。胃薬と鎮痛薬、そして、元気になる薬です!」
「……元気になる薬が怪しすぎるよぉ」
「何をおっしゃいますか!九千坊の脱皮した甲羅の欠片と龍の鱗、乾燥させたツチノコ、そして世界樹の根と葉の雫、これらを合わせて陽の光に月日をかけて晒し水気を飛ばして粉末にした、私の最高傑作ですよ?」
「うげぇ……」
「なんてことをおっしゃいますか!九千坊の甲羅はいつでも採れますが、それ以外の代物は私が歳月をかけて手に入れた……、ご主人、どこに行くのですか?」
「お、お手洗いに……」
「なりません!以前にもそうやって家を出て行ったではありませんか!だいたいご主人、たかだか薬くらいで逃げるんじゃありません!そうやって逃げ癖をつけると、ガミガミガミガミ……」
「ハル、ナツとフユが朝餉を待ってるんじゃ……」
「だまらっしゃい!だいたい私達のような者は、食べなくても良いのです!いいですかご主人、あなたの母君様は、ガミガミガミガミガミガミガミガミ……
」
「うぅ、大声が頭に響くぅ……」
この後小一時間、ハルの説教が続きました。ナツとフユはというと、その間朝餉はお預けとなり、二人はお腹を空かせて居間でうなだれていたのでした。
朝餉は、もちろん冷え切ってしまいました。
その小一時間後、日本家屋の玄関に一人の男性がやって来ました。
「たのもー!ハルはいますかー?」
寝室にいたハルは、説教をやめ、玄関に走っていきました。
「ツユ!よく来ましたね!さぁさぁ、おあがりなさい」
『ツユ』と呼ばれるその人は、茜色の着流しを来て下駄をカランコロンと鳴らしながら中へ入ってきました。肌は浅黒く、髪まで赤く染まっています。
「まったく、白狐のお前が怒鳴るとは珍しいですね。赤孤 の私が怒鳴るのは日常茶飯事なんですけど」
「ご主人の薬嫌いを治そうと思いましてね。なかなか難しいものです」
「ご主人は相変わらずですね」
ハルとツユは眉をひそめて口角を引き上げました。
「ご主人、ナツ、フユ、朝ですよ!起きてください!」
女性の姿をしたハルが、鉄の鍋を麺棒で打ち鳴らしながら寝室へ入ります。長い黒髪を上手に丸くまとめ、着物の袖を紐でくくり、割烹着に白い腕を通したその姿は、まるでお母さんのようです。
「うーん……」
「わたし、やまもりの あぶらあげ たべてた……」
「わたし、やまもりの まんじゅう たべてた……」
「はいはい、寝言は寝て言うものです。ほらほら起きてください!
「あさげ!」
「あさげ たべる!」
ナツとフユは相変わらずの食いしん坊さんです。布団から飛び起き、足音を大きく響かせながら居間へと走って行きました。アキは布団の中に入り込んでしまいました。
「ご主人、朝ですよ」
「……もう少し……」
「なりません。昨日倉田様より頂いた『鬼ホイホイ』なる酒を夜更けまで召し上がるからですよ」
「『鬼コロリン』ね……。あ、頭痛いぃ」
「ほら見なさい!二日酔いではありませんか!だいたい、たかがあれしきで鬼がホイホイとなるとお思いですか?」
「『鬼コロリン』だってば。ハル、お水ちょうだい」
「……わかりました。ただいま、特製鎮痛薬と一緒にお持ちします!」
ハルはそそくさと寝室を出て行き、またすぐに戻ってきました。手にはお盆を抱えており、水と、和紙を敷いた上に、てんこ盛りの白色、緑色、灰色の粉末が並べて置いてありました。
「さぁご主人、飲んでください。胃薬と鎮痛薬、そして、元気になる薬です!」
「……元気になる薬が怪しすぎるよぉ」
「何をおっしゃいますか!九千坊の脱皮した甲羅の欠片と龍の鱗、乾燥させたツチノコ、そして世界樹の根と葉の雫、これらを合わせて陽の光に月日をかけて晒し水気を飛ばして粉末にした、私の最高傑作ですよ?」
「うげぇ……」
「なんてことをおっしゃいますか!九千坊の甲羅はいつでも採れますが、それ以外の代物は私が歳月をかけて手に入れた……、ご主人、どこに行くのですか?」
「お、お手洗いに……」
「なりません!以前にもそうやって家を出て行ったではありませんか!だいたいご主人、たかだか薬くらいで逃げるんじゃありません!そうやって逃げ癖をつけると、ガミガミガミガミ……」
「ハル、ナツとフユが朝餉を待ってるんじゃ……」
「だまらっしゃい!だいたい私達のような者は、食べなくても良いのです!いいですかご主人、あなたの母君様は、ガミガミガミガミガミガミガミガミ……
」
「うぅ、大声が頭に響くぅ……」
この後小一時間、ハルの説教が続きました。ナツとフユはというと、その間朝餉はお預けとなり、二人はお腹を空かせて居間でうなだれていたのでした。
朝餉は、もちろん冷え切ってしまいました。
その小一時間後、日本家屋の玄関に一人の男性がやって来ました。
「たのもー!ハルはいますかー?」
寝室にいたハルは、説教をやめ、玄関に走っていきました。
「ツユ!よく来ましたね!さぁさぁ、おあがりなさい」
『ツユ』と呼ばれるその人は、茜色の着流しを来て下駄をカランコロンと鳴らしながら中へ入ってきました。肌は浅黒く、髪まで赤く染まっています。
「まったく、白狐のお前が怒鳴るとは珍しいですね。
「ご主人の薬嫌いを治そうと思いましてね。なかなか難しいものです」
「ご主人は相変わらずですね」
ハルとツユは眉をひそめて口角を引き上げました。