第40話 傷心の真彩

文字数 2,297文字

【カフェバー「Route72」】

真彩、一人で店に入って来る。
松本「いらっしゃいませー!」
松本、カウンター内で、真彩に微笑む。

真彩、松本の所に来て、
真彩「疲れたー……」
と言って、カウンター席に座る。

松本「あれっ? いつもの席に座らないの? ここで良いの?」
真彩「うん。今日はここで良いの」
と言って、いつも真彩が座る席ではない所に、腰かける真彩。

松本「何飲む?」

真彩「ソルティードッグ、二つ頂戴?」

松本「えっ? 二つ?」

真彩「うん。二つ。今日はリサと飲むの……」

松本、少し真彩を見詰める。

そして、
松本「……はい、かしこまりました」
と言って、微笑む松本。

     ×   ×   ×

しばらくして、悠斗、そして同じ営業部の池本隼太(29歳)と太田直人(26歳)が、店に入って来る。

松本「いらっしいませー!」

悠斗、松本に微笑む。

悠斗、店内を見渡し、端のテーブル席に行こうとする。

悠斗、カウンター席の真彩をちらっと見て横切る。
悠斗「ここで良いかな?」
と、池本と太田に聞き、三人はテーブル席に座る。

悠斗、真彩が見える角度に座る。

松本が悠斗達に、グラスに入った水と、使い捨ておしぼりを用意して持って来る。
松本「今日は早いね」
と、悠斗に言う松本。

悠斗「あぁ、今日は定時で帰らないとダメな日だから……」

松本「先ずは生中かな?」

悠斗は、いつも、一番始めに頼むのが生中なので、いつもの流れで聞く松本。

悠斗、池本と太田に、生中で良いか尋ねる。
悠斗「じゃー、取り敢えず、生中三つ」
松本「はい。かしこまりました」
と言って、厨房に向かう松本。

悠斗、真彩が気になり、二人に気付かれない様に、さりげなく真彩を見る。

真彩、独り、泣いている。
そして、涙がカウンター席のテーブルに落ちる。

真彩、ハンカチをポケットから出し、涙を拭う。

悠斗(心の声)「真彩……何があったんだ?」

太田が、店を見渡し、カウンター席を見る。
太田「あっ、あの子……見っけ!」
太田、嬉しそうな顔をする。

悠斗と池本、太田の目線の先を見る。
池本、ちらっと悠斗を見る。

太田「今日はいつもの席じゃないから、来てないのかと思いきや‥‥‥ラッキー」

悠斗「?……」
池本「?……」

太田「俺、あの子、狙ってるんです」
と、笑顔で、悠斗と池本に言う太田。

太田の突然の公言に、驚く悠斗と池本。
池本「えぇ?……」
悠斗(心の声)「おいおい!」

太田「いつも二人連れだけど、今日は一人なんだ……大チャンス!」

すると池本、咄嗟に、
池本「あの子はダメだぞ!」
と言い出す。

すると、
太田「えっ? 何でですか? 俺、あの子目当てで、ずっとここに通ってるのに……」
と言って、池本の顔を見る太田。

悠斗、顔が強張る。
池本「あの子にはちゃんと彼氏がいるから」
太田「えっ?……池本さん、彼女の事、知ってるんですか?」
池本「……あぁ、まぁな……」

太田「えぇー……そうなんですか?」

池本、頷く。

池本(心の声)「こいつ、マーちゃんが、自分が働く会社の社長令嬢って知らないんだ……まぁ、口外しない様に言われてるからしょうがないけど……悠斗とマーちゃんが兄妹って事も、二人が付き合ってた事も、知るはずないわなぁー……」
 
池本「だから、ダメだぞ! 絶対に手、出すなよ!」

太田「あぁ、手は出してないけど、口は出しました。この前、彼女、カウンター席に一人で飲んでたから、隣の席に行って話し掛けました」
と、嬉しそうに話す太田。

太田「気が合っちゃって、話が弾んで楽しかったですよ?!」
悠斗(心の声)「真彩は誰とでも話を合わせて、相手を喜ばす天才なんだよ! 気が合った訳じゃねーんだよ!」
悠斗、太田に嫌悪感を覚える。

太田「でも、その時、彼氏はいないって言ってましたよ?」

悠斗(心の声)「……クソッ……」

太田「彼女、めちゃくちゃ魅力的なんだよなぁー。見てるだけで幸せな気分になるんです。引き寄せられるんです。ずーっと一緒に居たいなーなんて思っちゃって……」

池本「まぁ、それが恋だからな‥‥‥」

そこに、松本が、グラスに入った生中三つと、サービスのつまみを持って来る。

松本「お待たせしましたー」

太田、真彩をちらっと見る。

太田「あっ、彼女、帰っちゃうのかな?」
真彩、席を立とうとする。

松本、悠斗達のグラスとつまみを置くと、直ぐに真彩の所に行き、一声掛けてレジに行く。

真彩、レジに行き、スマホ決済する。

その様子を見ている太田、
太田「あぁ、ちょっと行って来ます」
と言って、慌てて真彩の所に行く。

悠斗と池本、顔を見合わせ、困惑顔。
悠斗、真彩をじっと見詰める。
太田「今晩は!」
と、太田、笑顔で真彩に話し掛ける。

真彩、突然話し掛けられ、ちょっと驚いた顔をする。
真彩の目は赤い。
真彩「あぁ、今晩は!」
真彩、太田に微笑む。

太田「今日は一人なの?」

真彩「あぁ、はい。今日は一人です。友達、用事があって……」

悠斗(心の声)「優衣ちゃん用事かよ。何で真彩を一人にするんだよー!」

悠斗、ブツブツと心の中で囁き、指でテーブルを叩いている。

池本、心配顔で悠斗を見る。

太田「一緒に飲みたかったなぁー。もう帰っちゃうの?」

太田、真彩を口説き始める。

真彩「あぁ……今から遣る事あるんで……」

太田「そっか……残念。じゃー、また今度、一緒に飲もうよ?!」

真彩「……えぇ、今度、また……」

太田「またニコラ・テスラとか、物理の事、語り合いたいから……」
真彩「そうですね……あぁ、じゃー……」
と言って、真彩、太田に会釈して店を出て行く。


太田、笑顔で、悠斗と池本の所に戻って来る。
太田「あぁー、やっぱり可愛い! 絶対、彼女にしたい」
と、太田、嬉しそうに言う。

悠斗と池本、太田の行動に、呆れ顔。
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