第97話 車オタクのボンボン

文字数 1,926文字

【ハーモニー社・エントランス】

受付に、高井隼人(29歳)が、少し緊張した面持ちで立っている。

アポイント取らずに真彩に会いに来たので、果たして真彩に会えるかどうか、不安な高井。

受付女性社員の一人が、社長室の番号を押し、電話を掛ける。



【ハーモニー社・社長室】

社長室の応接セットの所で打ち合わせをしている真彩、優衣、そして、営業部・企画課の髙橋勇也。

来週の YouTube 番組を配信するあたり、勇也から内容説明を受けている最中。

そこに、受付から連絡が入る。

電話の着信音が鳴り、真彩、直ぐに受話器を取る。
真彩「はい……えっ? あぁ、そうですか……では、隣の応接室の方にご案内、お願いします」
と、受付女性社員に言い、受話器を置く真彩。
優衣「どなたですか???」
真彩「例のパーティーの時に知り合った大手不動産の次期社長。車オタクのボンボン」

優衣「アポイント無しですか……」

真彩「あぁ……何回もデート断ってるから、強硬手段かな? 新車買ったから、ドライブ如何ですか?……って感じかな?」
優衣「えぇー? もう、この際、はっきり断った方が良いですよ?!」
真彩「ですね……」
勇也「ですね」
真彩、ネックレスに通している結婚指輪を触る。



【ハーモニー社・応接室】

受付女性社員に案内されて、応接室に入る高井。

受付女性社員「こちらに座ってお待ち下さいませ。社長はもう直ぐ参りますので」

高井に会釈をして、応接室を出る受付女子社員。

ソファに座り、憧れの真彩が来るのを、今か今かと待っている高井。


「トントン」とドアをノックする音に、ドキッとする高井。

真彩「失礼します!」
と言って、真彩、部屋に入って来る。

高井、直ぐに立ち上がる。
高井「あぁ、こんにちは! 突然、すいません」
真彩「こんにちは! お久しぶりです」
と言って、微笑む真彩。

高井「すいません。アポイント取らずに突然……」
と言って、真彩に会釈する高井。

真彩「いえいえ。急にどうされたんですか?」
と言うと、高井と向い合せに、ソファに座る真彩。

高井「あぁ……いや、デートに誘っても中村さんお忙しいから……お顔見たくて、会いに来ちゃいました」
と、笑顔で言う高井。

真彩「すいません。本当に忙しくて……」

高井「ですよね。一日も早く黒字にしたいって仰ってたから。あの、でも、気分転換って必要だと思うんです。もし良かったら気晴らしにドライブに行きませんか? フェラーリ買い替えたんです。良い走りですよ?!」

真彩「あぁ、高井さん……本当に申し訳ありません」
と言うと、真彩、高井に頭を下げる。
真彩「実は、私、元カレと復縁しまして……」
高井「えっ?……」
そして真彩、左薬指にしている指輪を高井に見せる。

真彩、高井が来る前に、ネックレスに通していた結婚指輪を、左薬指にはめていたのだった。

真彩「なので、すいません……」
と言って、また、高井に頭を下げる真彩。

高井「えぇー?! そうなんですか……あぁ、じゃー、無理ですよね?」
   
少しの可能性を期待して、真彩の心を探る高井。

真彩「はい、無理なので、すいません」
と、真彩、はっきりと高井に言う。

高井「はぁ……ダメですか……」

真彩「本当にすいません。折角来て下さったのに……」

高井「いやー、残念です。本当に残念です」

真彩「本当にすいません」

高井「もっと早く貴女にお会いしたかったです」
と、残念そうに言う高井。
   
真彩、また、頭を下げる

高井「仕方ないですね。では、諦めて退散します。お幸せに!」

真彩「はい。有難うございます」

高井、立ち上がる。

そして、応接室を真彩と一緒に出る。
   


【エントランス】

真彩、高井を見送る為、一緒にエントランスまで降りて来た。

出入口の所で、高井が真彩に、
高井「じゃあ……」
と言って、会釈する。

真彩「では、失礼します」
と言って真彩も高井に会釈する。

すると、
高井「あ、あのー、もし良かったらハグして貰えないですか? あぁ、ダメだったら握手でも良いんで……」
と言い出す高井。
   
真彩、少し驚いた顔。

しかし、
真彩「はい。大丈夫です」
と言って、真彩、直ぐに高井にハグをする。

高井、ダメ元で言ったのだが、真彩が直ぐにハグしてくれたので、驚く。

高井「あ、有難うございます。これで、中村さんへの想いを断ち切ります。あぁ、いや、直ぐには無理なので、断ち切る様に頑張ります」
  
高井の言葉に、真彩、微笑む。

高井、真彩に会釈して、立ち去る。

そこに居た社員達、何人も見ていたが、見て見ぬ振りをする。

受付女子社員の二人は、じっと真彩と高井を見ていた。

企画課の髙橋勇也は、隠し撮りをしていた。
勇也(心の中)「ふっ……悠ちゃんに、おーくろっと……」
勇也、直ぐに動画を悠斗に送信する。

勇也、不敵の笑みを浮かべる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色