第109話 結婚の許しを請う

文字数 4,252文字

【中村家・玄関】

休日の朝、悠斗と真彩は、二人の実家である中村家に帰って来た。

玄関に入ると、母親の亜希が出迎える。
亜希「お帰り」
と言って、微笑む亜希。
悠斗「只今!」
真彩「只今!」
悠斗と真彩、亜希に微笑むが、内心、緊張している。

亜希「頑張ってね!」
と、小さな声で悠斗と真彩に言う。



【中村家・リビング】

父親の智之は、ソファに座り、新聞を読んでいる。

リビングに行く悠斗と真彩、そして亜希。

真彩「パパ、只今!」
真彩、いつもの様に、明るく可愛く智之に言う。
智之「あぁ、お帰り!」
と、悠斗と真彩を見て、笑顔で言う。

悠斗、大きく深呼吸する。

そして、
悠斗「父さん、ちょっと話があるんだけど……」
と、真剣な顔で智之に言う。

智之「んん? 何だ? 改まって……」

智之、悠斗の顔を見る。

悠斗が神妙な顔をしているので、智之、大事な話だと察して、読んでいた新聞を閉じる。

悠斗と真彩、智之と向かい合う様に、揃ってリビングの絨毯に正座する。

智之「えっ、なんだ? 何か悪い事でもしたのか? 怖いな……」

智之、神妙な顔になる。

悠斗「父さん……」

智之「はい」
悠斗「真彩を俺に下さい」
智之「……はぁ?」
智之、悠斗の言葉に耳を疑う。

智之「なに冗談言ってんだ?」

悠斗、智之の目をじっと見て、
悠斗「真彩と結婚させて下さい!」
と、真剣な顔で言う。

すると智之、
智之「なに訳の分からないこと言ってるんだ?! 変な冗談は止めろ!」
智之、怒った様に言う。

悠斗「冗談じゃないです。本気です」

智之「はぁ? 意味分からん」

真彩「パパ、冗談じゃないから……」

智之「お前達、何言ってんだ?! 正気か? お前達は兄妹なんだぞ?! 結婚出来ないって知ってるだろ!」
悠斗「分かってます。でも、どうしても結婚したいんです。真彩も同じ気持ちです」
すると智之、真彩を見る。

智之「真彩も、悠斗と結婚したいのか?」
真彩「はい」
智之「はぁ? 悠斗は紗季さんと結婚するんじゃなかったのか?」
と言って、悠斗を見る智之。

悠斗「紗季ちゃんにはちゃんと謝って、断りました」

智之「はぁ? じゃー、真彩はどうなんだ?! 尾形君がいるだろ?!」

真彩「あぁ、和君にちゃんと謝りました」

智之「はぁ? どうなってんだ?……何が何だか……頭がおかしくなりそうだ」

智之、悠斗と真彩を見て、呆れ顔。
悠斗「俺、真彩と一緒になれなかったら、一生結婚しないから!」
真彩「私も、悠斗と一緒になれなかったら、一生結婚しないから!」
智之「何言ってんだ、お前たちは!」

智之、その後、言葉が出ない。
   
しばらく沈黙の時間。


そして要約、智之が話し出す。
智之「いつからこうなったんだ?」
悠斗「あぁ、真彩が出生の事を知って、自傷行為して食事摂らなくなって、心配だから真彩に寄り添ってたら、真彩が愛おしくて……感情が抑えられなくなって……」

智之「んん? それって、真彩が中学生の時じゃないか!」

悠斗「はい、そうです……」

智之「はぁ?……」
   
呆れた顔をする智之。

智之「えっ? 『感情が抑えられなくなって』って、まさか、真彩を強引にとかじゃないだろな?」

智之に言われ、ドキッとする悠斗。

悠斗「あぁー……」
悠斗、言葉に詰まる。

智之「えぇ? まさか、真彩をレイプしたのか?!」
  
智之、ちらっと真彩を見る。

悠斗「あぁ、えぇーっと、真彩の心が病んでる時だったから……あぁ……どさくさに紛れて……って感じです」

真彩「……」

智之「はぁ?」

悠斗「レイプと言われたら、そうかも……です。一方的で強引でした。真彩には彼氏がいたみたいで……すいません。この場を借りて懺悔です」

智之「はぁ? 真彩に彼氏がいた? それも驚きだが……あぁ、何が何だか分からん。ショック過ぎて、胃が痛くなって来た」
   
智之、胃の辺りを手でさする。
悠斗「あの、やっぱり兄妹だし、世間の目もあったし、結婚するのは無理だと諦めて、一旦、距離空いたんだけど、でもやっぱり真彩への想い、断ち切る事が出来なくて……」
智之「……」

悠斗「真彩が日本に帰って来て、顔見たら、もう絶対に真彩と離れたくないって思って、また真彩を強引に……その……えーっと……また強引な事をしてしまい、茲に至ります」
と、正直に、真面目な顔で言う悠斗。

智之「……」

悠斗「真彩と結婚したいです。法律上、婚姻届けは提出出来なくても、一緒になりたいです。形はどうでも、一緒に暮らしたいです。ずっと傍にいたいです」
と、悠斗、真剣な顔で智之に言う。

智之「はぁ……」
ため息をつく智之。
智之「真彩の事、そんなに好きなのか……」
悠斗「はい。大好きです。愛してます。一生、一緒に居たいです。俺の妻となる人は、真彩以外、いません」
すると智之、真彩の方を見る。

智之「確認するけど、真彩は、本当に悠斗の事、好きなのか? あぁ、その、無理やりだなぁ、レイプされた訳だから、憎んだり怨んだりとか、ないのか?」

真彩「あぁ……あの時はビックリしたけど、でも、悠斗を憎んだり怨んだ事は一度もないです」

智之「悠斗の事、本当に好きなのか?」
真彩「はい。大好きです。愛してます」
智之「はぁー」
と、また溜め息をつく智之。

智之、口元が歪む。
しばらく考えている智之。

沈黙の時間が続く。

そして要約、智之が重い口を開ける。

智之「じゃー、勝手にしろ!」
   
悠斗、すかさず、
悠斗「有難うございます!」
と、嬉しそうに言う。

真彩「有難うございます……」
悠斗と真彩、智之に頭を下げる。

真彩、ちょっと離れた所に正座している亜希を見る。

亜希、真彩に微笑む。
亜希「あー心臓に悪いわ。ドキドキした」
と言って、立ち上がる。

亜希の言葉を聞き、智之、悠斗も亜希を見る。
真彩「ママ、ごめんね」
と言って、亜希に謝る真彩。

そして今度は、智之を見て、
真彩「パパ、ごめんね」
と、謝る真彩。

智之「悠斗じゃなかったら、間違いなくぶん殴ってるわ。『俺の娘に何してくれとるんじゃ!』って」

亜希「ホント、私もです。頬っぺたひっぱたいてますよ。大事な娘に何て事してくれたんだって」
   
智之、真彩を見て、
智之「真彩が幸せなら、パパも嬉しいからね」
と、智之、優しい口調で真彩に言う。

智之「悠斗に幸せにして貰うんだぞ」
と、微笑む智之。

真彩「はい。有難う、パパ」
と言って、真彩、立ち上がり、智之にハグしに行く。

智之、真彩にハグされ、嬉しそうな顔をする。

悠斗(心の声)「ホント、親父は真彩にデレデレだなぁー……」

智之「でも、戸籍、ややっこしいな」

悠斗「あぁ、変えないよ。このままで行くから。で、子どもが出来たら出来たで、またその時に考える事にした」
智之「子ども? 出来たのか?」
と、何だか嬉しそうな顔をする智之。
悠斗「いや、出来てないよ。まだしばらくは真彩と二人の生活、楽しみたいから」
智之「なんだ、そうか……」
と、ちょっと残念そうな感じで言う智之。

智之「悠斗と真彩の子どもなら、さぞかし可愛いだろうなぁー。早く抱っこしたいなぁー」

悠斗「えっ? 父さん、早いよ」
   
悠斗と真彩、顔を見合わせ微笑む。

亜希も微笑んでいる。

すると、急に智之が真顔になり、
智之「しかし、世間の目は厳しいぞ。兄妹で結婚となると、奇異、好奇の目に晒されて、バカな連中が面白がって、SNSとかで誹謗中傷、書くかもしれんぞ。二人共、そんなんに耐えられるのか?」
と悠斗と真彩を見て言う。

悠斗「うん。それは覚悟してる。でも、世間がどう言おうと、俺たちは愛し合ってるから。だから、例え誹謗中傷受けても、俺達、負けないから!」
   
真彩、悠斗の言葉に頷いている。
智之「そうか。その覚悟があるなら、大丈夫だろう」
智之、それ以上、何も言わない。



【中村家・台所】

亜希と真彩、台所で一緒に昼食の用意をしている。

そして悠斗も手伝いに来る。

ランチョンマットが置いてある所に行く悠斗。

悠斗「えっ、こんなのあったっけ?」

亜希「へへぇー、この前買ったんだけど、良いでしょ? 大理石調。緑だから冷たい感じしないし、上品だし」
  
真彩、悠斗が手にしているランチョンマットを見る。
真彩「わぁ、良いね。私、こんなの好き」
亜希「気に入ったのなら、持って行ったら? 真彩達も要るかと思って十枚買っといたから」

真彩「わーい、有難う」
と言って、真彩、嬉しそうな顔をする。

亜希が不意に、
亜希「最近はもう喧嘩してない?」
と、真彩と悠斗に尋ねる。

すると、
真彩「喧嘩した」
と答える真彩。
悠斗「えっ?……してないだろ? 仲良くやってるジャン」
すると真彩、怪訝な顔をする。
真彩「あのさー、この前、私を拷問にかけたのは誰?」
と、ちょっと怒った感じで悠斗に言う。
亜希「えっ? 拷問?!」
亜希、驚いた顔をする。
そして、亜希、手を止めて悠斗を見る。

真彩「悠斗って、ホント、デリカシーなくて、お酒に酔ったらしつこくて、言いたくないこと無理矢理言わされてさぁー、私、拷問されたんだよ! 止めて!……って言ってるのに、全然止めてくれないの」

悠斗「あぁ……」

亜希「それは聞き捨てならないね。誰だって言いたくない事ってあるからね。えぇ、でも、拷問って、まさか、真彩を叩いたり蹴ったりしたの?」
と言うと、亜希、悠斗をじっと見る。
悠斗「いやいや、俺がそんな事、する訳ないでしょ?! 暴力振るう訳ないでしょ?! まして女性になんて」
亜希「じゃー、どんな拷問したの? 真彩に肉体的苦痛与えたんでしょ?」
と言って、亜希、真面目な顔で悠斗に聞く。

悠斗「あぁー……それは、言えないな」
   
悠斗の目が泳ぐ。

亜希「あらっ、言えないの?」

悠斗「うん、ちょっと言えない」

亜希「ほらっ、悠斗だって言いたくない事あるでしょ?」

悠斗「?……」

亜希「まぁ、悠斗が真彩の事、好き過ぎて執着あるのは分かるけど、でも真彩の気持ちも尊重しないとね。誰だって言いたくない事あるし、自分だけの秘密にしておきたい事ってあるから。尊重してあげるのも愛情だよ?!」

悠斗「はーい。分ったよ。以後気を付けます」
   
真彩、下から悠斗の顔を見て、微笑む。

すると亜希、真彩の顔を見て、
亜希「で、どんな拷問受けたの?」
と、今度は真彩に聞く亜希。

真彩、微笑みながら、
真彩「あのねー、悠斗ったらねー、酷いんだよ。私が」
と言い掛けると、
悠斗が、
悠斗「真彩! 口、チャック!」
と言って、真彩が言おうとするのを慌てて止める。

真彩と亜希、顔を見合わせる。
悠斗「真彩、内緒だからな!」
と言うと、ランチョンマット四枚を、ダイニングテーブルの所に持って行く悠斗。

真彩と亜希、また顔を見合わせ、微笑む。
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