第63話 真彩の本心

文字数 3,387文字

【高瀬病院・619号室】

病院の個室で、すやすやと眠っている真彩。

亜希と悠斗が、心配そうな顔で真彩を見ている。
悠斗「父さん一人で後片付け、大丈夫かな?」
亜希「皆んないるし、大丈夫でしょう。それより悠斗、貴方は大丈夫?」
悠斗「えっ? あぁ……」
   
悠斗、口を噤み、悲しい目をしている。

悠斗、真彩に聞こえるとまずいと思い、亜希を、一緒に病室から出る様に促す。



【エレベーター前のスペース】

エレベータ付近の空いたスペースで話す悠斗と亜希。
声のトーンを抑えて、立ち話をする二人。
悠斗「真彩が死を望んだのが、流石にショックでさー。俺が紗季ちゃんと結婚するって思ったから、ショック受けたんじゃないかな? 俺の推測で、自惚れかもしれないけど……」
亜希「うん……それもあるだろうけど……真彩の愛は深いからね……」
悠斗「んん? どういう事?」

亜希「自分がいたら邪魔だと思ったからじゃない? 自分の存在自体が、悠斗の将来や中村家に迷惑掛けるって思った……とか?」

悠斗「えぇー? 何で???」

亜希「だって……悠斗、真彩の事、今も愛してるでしょ? 男として……」

悠斗「?……」

亜希に自分の心を言い当てられ、驚いてフリーズする悠斗。

亜希、悠斗の目をじっと見る。

亜希「悠斗が誰と結婚したとしても、自分の存在によって、悠斗の結婚生活にヒビが入る可能性あるって思ったんじゃない?」

悠斗「……」
悠斗、何も言えず。

亜希「真彩は深読みするから……先の先の先まで考える子だからね。ひょっとして、未来を予知したのかもね? 自分のせいで悠斗が不幸になるって……」

悠斗「あぁ……何て奴だ……いつも人の事ばっかり心配して……」

亜希「この際だから言うけど、真彩がアメリカで彼氏作ったのも、悠斗の為だからね!」

悠斗「えっ?」
亜希「早く自分の事を忘れて、良い人と結婚して欲しいって、ぐでんぐでんに酔った時に本音を言ったから。本人は覚えてないと思うけど。深層心理が言葉に出たって感じかな?」
悠斗「……」
亜希「真彩が、どんな想いで今まで生きて来たか! 中村家に迷惑掛けない様にって、気を使って、気を使って生きて来たんだよ?! 貴方は、真彩の事、全然解ってない!」

亜希、つい感情的になり、真彩の事を惟い、泣き出す。

悠斗「……」
   
悠斗、目頭が熱くなり、目に涙が溜まる。

涙が落ちない様に上を向く悠斗。

亜希「それに、真彩、自分が幸せになっちゃいけないって思ってるから……」

悠斗「はぁ? 何でそんなこと思う?」

亜希「実はね、真彩を産んだお母さん、自殺だったの。世間体の事があるから、事故死って事になってるけど……」

悠斗「えぇ?……母さん、真彩の産みの母親、知ってたの?」

亜希「あぁ……確かめた訳じゃないんだけど……多分、同級生の子だろうな?……って、何か、そう感じるんだよね……それに、その子と真彩がそっくりだから……」

悠斗「そうなんだ……母さんがそう感じたんなら、そうなんだろうね……」

亜希「うん……」

悠斗「で、真彩、その産みの母親の事、知ったんだ……」

亜希「あの子、勘が良いし……多分、亡くなったお母さん、見えてると思う」

悠斗「えっ?……そうなんだ……」
亜希「真彩は、自分が産まれて来てしまったから、お母さんを苦しめて、自殺に追いやってしまった……って思ってる」
悠斗「そんなぁ……」
亜希「可哀想な子だよ。自分のせいだって思ってるんだから……だから、自分は幸せになっちゃーいけないって思うなんて……」

悠斗「はぁ?……辛すぎる。俺、全然、知らなかった。母さんと真彩がそんなシリアスな話してたなんて……」

悠斗の言葉に、亜希、首を左右に振る。

亜希「ううん、そんな話、した事ないよ?! 真彩は私のことを想って、産みの母親の事なんて絶対に言わないよ?! 私に聞こうとした事もないし……」 
 
悠斗「えっ?……じゃー、何で真彩の心、分かったの? あぁ、また真彩がぐでんぐでんに酔ってる時、口から出たの?」

すると亜希、悠斗の目をじっと見て、
亜希「ううん。真彩の心に入り込んだの」
と言って、苦笑いする亜希。

悠斗「えっ?」

亜希「やっちゃーいけない事、やっちゃった。真彩には、絶対に人の心に入り込んじゃーダメだって言ってるくせにね……」
と言って、ひょうきん顔をする亜希。

悠斗「……そうなんだ……」
   
悠斗、驚きを隠せない。

亜希「真彩は凄い因縁を背負ってるからね。でも、小さい頃から沢山、徳積んでるから、そろそろ楽に、楽しく暮らせると思うんだけどね……でも、自分自身で自分を追い詰める癖があるからねぇー……まぁ、それが真彩の因縁なんだけどね……」

悠斗「……」

亜希「なんせ、親のDNA受け継いでるからねー……」

悠斗「はぁ……もし、真彩がこの世からいなくなったら、俺どうなっちゃうんだろう? 生きる気力なくなるよ……」
  
悠斗、眉間に皺寄せ、悲しい顔をしている。
亜希「しっかりしなさいよ! 真彩を幸せに出来るのは貴方しかいないんだからね!」
悠斗「えっ?……あぁ、そうだけど、俺、ずっと拒否られてるから……真彩、強情なんだよね……」
悠斗の言葉にムッとする亜希。

亜希「強情なのは、貴方の事を惟ってるからでしょ?!」
と、悠斗にピシッと叱咤激励する亜希。

悠斗「えっ? どういう事?」

亜希「貴方が紗季ちゃんと結ばれて幸せになる様にって、敢えて距離を空けて、貴方を嫌う演技してるの、分かってなかったの?!」

悠斗「えぇ?……」

亜希「呆れた……ホントに分かって無かったんだ。はぁ……ホントに男っていうのはもうー。女心、分からないよね……真彩の深い愛に気付かなかったなんて……アホか!……って言いたいわ。あぁ、もう、言っちゃった……」
   
亜希、口調が厳しくなっている。

悠斗、呆然としている。

亜希「あぁー、もう、貴方に腹立って来た!」

亜希、珍しく、怒りがマックスになっている。

亜希、さっさとまた、真彩の病室に向かう。

そして、亜希の後を悠斗が、トボトボと歩く。



【高瀬病院・619号室】

病室の扉を、小さくノックして入る亜希と悠斗。

亜希と悠斗、真彩が眠っているベッドに行く。

亜希、真彩の寝顔を見て、
亜希「真彩、もう、頑張らなくて良いからね。素直に悠斗の愛を受け入れなさい!……って、ママが言うのも変なんだけど……」
と言う。

悠斗「……」

真彩は、寝息を立ててぐっすり眠っている。 
 
亜希「それにしても、いったい何時間、寝るんだろうね?」
と言って笑う亜希。

悠斗「あぁ、優衣ちゃんの話だと、社長になってから毎日の睡眠時間、三時間だって。休日も会社に行って仕事してるらしいよ……」

亜希「はぁ?……命削ってるんだね……」
悠斗「猪突猛進だからね。遣り出したら止まらないから。全身全霊で、命を惜しまずやっちゃうから……」
亜希「社長なんか早く辞めて欲しいわ。真彩にこんな重責任せるなんて、もう、透兄ちゃん、嫌いになっちゃいそう……」

悠斗「あぁ……でも、伯父さんも切羽詰まってたから……社員さんやその家族守るのに必死だったんだと思う」

亜希「それは分かるんだけど……何で真彩なの?……って思う」

悠斗「逆に、真彩にしか無理だったのかも?! 二社からの買収の話があったから、何とか一年で黒字に持って行かないとダメだったし……俺には絶対無理だもんね……」

亜希、自分の掌を、真彩の頬に当てる。
そして真彩の顔をじっと見る亜希。

亜希「……可哀想に……」
   
亜希、目頭が熱くなる。
そして亜希、真彩の片方の手を、両手で優しく包み込む。
亜希「普通が何だか分からないけど、でも、真彩には普通に幸せになって欲しい。結婚して、子ども産んで、普通が良い。出来れば悠斗と結婚して欲しい……」   
悠斗「?……」
悠斗、思いついたかの様に、
悠斗「あっ……」
と言って、腕時計を見る。

悠斗「あぁ、面会時間、終わりだ……出ないと……」

亜希「あぁ……そっか。真彩、身体、ゆっくり休めるんよ。また明日来る時には目、覚ましててよ?!」

亜希、真彩の寝顔を見て微笑む。

悠斗、真彩の顔をじっと見る。

そして悠斗、真彩のおでこに自分の右手を当て、目を瞑る。

すると、直ぐに、真彩の顔の血色がみるみる良くなる。
 
悠斗、真彩の唇に優しくキスをする。

悠斗と亜希、病室から出て行く。

二人が部屋から出て行くと、直ぐに、真彩、目を開ける。
真彩(心の声)「普通が良い……か……」
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