第126話 優衣の結婚話
文字数 3,447文字
【ハーモニー社・社長室】
朝一から、真彩と優衣、パソコンの前に座り、入力作業を黙々としている。
そして、
と言って、椅子に座ったまま指を組んで、そのまま両手を上にあげ、背筋を伸ばす真彩。
その後、目に目薬を点す。
優衣、真彩の左手を見て、
と言って、ニヤッとする。
真彩「てへっ」
と、優衣に向かって、テヘペロする真彩。
優衣「私も資料出来ましたよ。ふぅ……」
と言って、腕を回して、硬くなった肩甲骨を動かす優衣。
真彩「未だ早いけど、引継ぎの資料作りも大変だよね……」
優衣「ですね。でも、後任者にとったら有難いですよね。きちんとした資料があるって……」
真彩「うん。そう思う。逆の立場だったら非常に助かるからね」
と言うと、真彩、立ち上がる。
そして、
真彩「コーヒー淹れよっか?」
と、優衣に言う。
優衣「うん。飲みたい」
と言って首を左右に倒してストレッチし、凝りを軽減しようとする優衣。
× × ×
真彩、湯気が立ってるコーヒーをマグカップに注いでいる。
と言って、微笑む優衣。
真彩「いやー、それにしても、優衣ちゃんが突然、樋口さんと結婚するって聞かされた時は、椅子から転げ落ちそうになったもんね」
優衣「ふふっ……あの時は面白かったよ。マーちゃんがあそこまでビックリするなんてねー」
真彩「いやいや、天地がひっくり返るような感覚になったわ。突然過ぎて、ホント、ビックリなんですけど」
優衣「へへっ」
と、テヘペロする優衣。
優衣「あぁ、樋口さんが言ってたんだけど、悠ちゃんが相談に乗ってくれてたんだってさっ。だから、悠ちゃんのお蔭でもあるわ」
真彩「あぁ、先輩の相談に乗ってるって言ってたけど、優衣ちゃんの事も相談内容に含まれてたんだ……」
優衣「みたい。だから、悠ちゃんに宜しく言っといてね」
真彩「うん、言っとくよ。でもさぁー、よく決心したね。だって付き合ってまだそんなに経ってないから。デートした回数も両手で数えられる位じゃない?」
優衣「あぁ、そうなんだよね。未だお互い、相手の事がよく分からない状態なのにね。でも、樋口さんがアメリカに出向辞令が出されたって聞いた時、凄い寂しくなってね。だって、五年も向こうだって言うから……」
真彩「お墨付き?」
優衣「うん、ほらっ、オーラが似てて和合するって。交わったら綺麗な色になるって言ってくれたじゃない。だから、二人が言うんだから絶対間違いないからさぁ」
真彩「そっか……でも、何か、責任感じるなぁ……どうしよう?」
優衣「あぁ、そんな責任なんて感じないで! だって、私、本当に樋口さんの事、好きになっちゃったから。樋口さんに出会えた事、本当に有難いって思ってるから」
真彩「えぇー、余計な言葉って必要ないジャン! セックスしたかしてないかジャン」
優衣「もうー、ホントに……」
と言って、呆れた感じで真彩を見る優衣。
優衣「でも、心配なんだよね……」
真彩「えっ? アメリカでの生活?」
優衣「ううん」
真彩「伯父さんと伯母さんと、離れて暮らすから?」
優衣「ううん」
真彩「えぇー、じゃー、何?」
優衣「だって、前に、マーちゃんに、もし赤ちゃんが出来たら、一緒に子育て手伝うから!……って言ったジャン」
真彩「あぁ……」
優衣「嘘ついた事になっちゃうから。それに、本当に、マーちゃんの事、心配だし……」
真彩「なーんだ、そんな事か」
優衣「そんな事って……」
真彩「大丈夫だよ。悠斗、マメだから、私なんかよりも育児、上手だと思う。だから、私の心配なんてしなくて良いから。優衣ちゃんは、あっちで、樋口さんとの生活をエンジョイして下さい!」
優衣「そう? 大丈夫?」
真彩「うん。大丈夫」
真彩「大丈夫だよ。心配してくれて有難う」
優衣「ホント、心配だよ。また無茶するんじゃないかって思うとね」
優衣「そうだよね。悠ちゃんがいてくれるから大丈夫だよね」
真彩「うん」
と言って、微笑む真彩。
優衣「あぁ、確かに。人生が大きく変わるもんね」
真彩「うん。高校、大学の進路とか、就職とかも大きな決断だけど、結婚ってさぁ、人生において一番重要な、最大級の決断だよ。結婚によって幸せになるかならないか、だと思う。世の人達見てたらよく分かるもんね」
真彩「でも、決断も、ホント、重みが違うよね。重要な決断は、そりゃー、脳を使うから、糖分が欲しくなる訳だ。私がチョコレート大好きなのも理にかなってるわ」
優衣「自分では知らない内にストレス溜めてるよね、現代人は特に。情報社会、競争社会で大変な世の中だもんね」
真彩「あぁ、で? アメリカのどこに住むの?」
優衣「ニュージャージー州」
真彩「あぁ……ニュージャージー州か……」
優衣「えっ? 何? その反応」
真彩「あぁ、いや、ママの友達がニュージャージーに住んでるんだけど、昔ね、夜、泥棒に入られてね、それも皆んなが家に居たのに。一戸建ての入り易い家だったんだよね。だから、あんまり良い印象なくて……」
優衣「あぁ……」
真彩「あっちは銃、ホームセンターに売ってる位だからさぁー、泥棒、間違いなく銃持ってるから、泥棒が入ったって分かってても、声を殺して寝たふりしてたって言ってた。だから、まぁ、シカゴも怖いけど、ニュージャージー、もっと怖いって思ってて……あぁ、これから住むっていうのに、こんな話して、怖がらせてゴメン」
優衣「ううん。事前にそういうこと聞けて有難いよ。より気を付けようと思った。やっぱり銃の所持を許してる国は怖いもんね。あぁ、あと、根強い人種差別も怖いよね」
真彩「あぁ、人種差別は悲しいよね。自由の国とは名ばかりの、白人至上主義の国だからね」
優衣「あぁ、白人は自分達が偉くて、他の人種は自分達よりも劣ってるって考えが根強くあるもんね」
真彩「でも、大丈夫。優衣ちゃんの身体守護、ちゃんとお祖父ちゃんにお願いするから。ママも私も、優衣ちゃんと樋口さんの無事をいつも祈ってるから!」
優衣「んんー、それはどうかなぁ?」
と、ちょっと照れる優衣。
真彩「そうかなぁー? あぁ、でも、その可能性有るかも。二年位、二人の生活を満喫したら、子作りしようって、この前、話したから」
優衣「そうなんだ」
優衣「ふふっ……期待されてるんだ」
真彩「そうなんよ。早く抱っこしたいみたい。ジージ、バーバって呼ばれたいみたい」
と言って、笑う真彩。
真彩「じゃー、優衣ちゃんの子とウチの子は同級生だ!」
と言って、未来を想像しながら言う真彩。
真彩と優衣、顔を見合わせ、微笑み合う。
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