第8話 爺や

文字数 1,155文字

【社長室】


真彩、社長室で独り、作業している。   

デスクでPC操作し、戦略会議の資料を作成している。


『トントン』

社長室のドアをノックする音。


真彩「はい、どうぞー」


設備管理課・課長の平井が、ドアを開けて入って来る。 

平井「失礼します!」

真彩、平井を見る。

そして、入力していた手を止める。


真彩「あぁ、どうでしたか???」

真彩、立ち上がり、平井の前に行く。


平井「それが……肺がん初期でした……」

平井、声のトーンが低い。


真彩「そうですか。初期なら未だリンパ節にも転移してないですね。先生の言う事ちゃんと聞いて、しっかり治療して下さいね!」 


平井「はい。そうします。あのー、社長が仰った事に、直ぐに『はい』って言わなかった自分を反省しています。すいませんでした」


真彩「?……」


平井「社長の仰る事は絶対正しいのに……」

と言って、真彩に頭を下げる平井。


真彩「いやいや、絶対なんてないですから。只、直感で負を感じただけなので。私も絶対的な確信持って言ってる訳じゃないから。だから、私の勘違いであって欲しいと願ってました」


平井「でも……本当に信じられなかったです。先生に結果、聞かされた時、眩暈がしました」 


真彩「そうでしょうね。まさか自分が?……って思いますもんね……」


平井「……本当にすいません……」


真彩「いえいえ。でも、ちゃんと私の言う事を聞いて、病院に行ってくれて嬉しいです」 


そして真彩、平井の目をじっと見て、

真彩「爺やには長生きして貰いたいから……」

と言って微笑む。


平井「わぁ……真彩様にそんなこと言って頂いて、爺やは嬉しいです」

平井、恐縮する。


平井「小さい頃、よく泣いて抱っこ、抱っこってせがんでた子が、こんなに立派になるなんてねー……」


真彩「あぁ……ママ、お祖父ちゃんの法要の手伝いで忙しかったからね。その間、沢山遊んでくれたよね。爺やって言ってるけど、あの頃、爺やはまだ若かったのにね。ごめんね!」



(回想始め)


真正寺の庭で、まだ幼い真彩(4歳)が、キャッキャ言って喜んでいる。

平井(30歳)が、真彩と追い駆けごっこして笑顔で遊んであげている。


     ×  ×  ×


真彩、遊び疲れて平井に抱っこをせがむ。

真彩「爺や、抱っこ!」 

と言って、両手を広げて平井に抱っこをせがむ真彩。


平井「はいはい、真彩様」

と言って、笑顔で、直ぐに真彩を抱っこする平井。


(回想終わり)



平井「いえいえ、真彩様に『爺や』って呼ばれるの、嬉しかったんですよ。今もですけど。真彩様のお世話させて頂けるのが光栄だったので……」


真彩「ねぇ、真彩様って、『様』付けするの、止めてくれない? 真彩で良いから」


平井「いえいえ、とんでもない。真彩様は一生、真彩様です。あっ、でも、会社では、勿論、社長って言ってますけどね…… 」


真彩と平井、微笑み合う。 

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