第50話 真彩、悠斗に命を!

文字数 3,489文字

【高瀬病院】

高瀬病院内を静かに歩く真彩。
そして、618号室の病室の前に立つ。

入口のネームプレートには、『中村悠斗』と書かれてある。
真彩、大きく深呼吸をする。

そして、小さくノックして、そっとドアを開ける。
真彩、顔が強張っている。
緊張している真彩。

一人部屋に、悠斗が仰向けになって、ベッドで寝ている。
悠斗を見て、今にも泣きそうな顔の真彩。

悠斗を起こさない様に、静かにベッド横にある椅子に座る真彩。
しばらく、悠斗の顔をじっと見詰める。
真彩の目から涙が零れ落ちる。
真彩(心の声)「悠斗……私の命、あげるからね!」
と、心の中で悠斗に話し掛ける真彩。

しかし、悠斗は反応しない。

真彩(心の声)「このままずっと、眠り続けないでよ?! 生きて?! お願いだから……」

悠斗の片手を、握手する様に両手で包み込む真彩。
そして、目を閉じて、真言の咒を囁く様な声で唱え、真剣に、深く祈る真彩。

真彩「南無×××……南無×××……南無×××……」
   
真彩、小さく口を動かし、咒を何度も何度も唱え続けている。

しばらくすると、悠斗、薄っすらと目が開く。
悠斗、真剣白羽で祈っている真彩の顔をじっと見ている。

悠斗、また目を閉じる。

真彩、深い祈りから覚める。

そして、椅子から立ち上がる。

今度は、右掌を悠斗の頭に当て、目を瞑り、また咒を唱える真彩。

真彩「のうまくさんまんだ……」
   
すると、真彩の右掌から、普通の人には見えない金色に輝く素粒子が湧き出ている。

真彩、唱え終わって、
真彩「もう大丈夫だからね」
と、寝ている悠斗に優しく言う。

真彩、悠斗の整った顔をじっと見ている。

真彩(心の声)「男前だね、悠斗ちゃんは……」

真彩、悠斗の顔を見ながら微笑む。

そして、真彩、悠斗の唇に優しくキスをする。

悠斗の手を握り、悠斗をじっと見詰める真彩。

真彩「長生きしてよね。私よりも……」
と真彩、優しい口調で悠斗に言う。

そして、しばらくしてから、悠斗の病室から静かに出て行く真彩。

真彩が病室から出て行くと直ぐに、悠斗、目を開ける。
悠斗(心の声)「真彩……俺の為に真彩の命、何年分削ったんだろう?……ごめん、真彩」
【病院・通路】

病院の通路を、ゆっくりと歩いている真彩。
そこに、眉間に皺寄せ、沈痛な面持ちで歩いている亜希と鉢合わせする。
亜希「真彩?!」
亜希、真彩を見て驚く。
真彩「あぁ、ママ……」
亜希「えっ?……ひょっとして???」

真彩、作り笑顔で頷く。

亜希「……知っちゃったか……あぁ、ゴメンね、黙ってて。真彩が知ったら変なこと考えるんじゃないかと思って……」

真彩「あぁ、うん……」

亜希「そっか……」
   
亜希、沈んだ声で言う。

亜希「あぁ、大丈夫だよ! 今、パパの人脈使って、手術出来そうな優秀な先生とか、スーパードクター探してくれてるから! 真彩は何にも心配しなくて良いからね!」
  
亜希、真彩に心配掛けない様に、作り笑顔で言う。

亜希「それに、真正寺のお祖父ちゃんにもお護摩焚いて貰ってるし、手術の時はご祈念もお願いするから、大丈夫だよ?!」

亜希が言い終わるまで、黙って聞いている真彩。

真彩「そうなんだ……でも、もう大丈夫だよ。きっと……」
と、作り笑顔で亜希に言う真彩。

真彩の言葉に亜希、驚く。

亜希「えっ???」
   
亜希、真彩をじっと見る。
亜希「貴女……まさか自分の命、削ったの?!」
すると、真彩、亜希に微笑む。

亜希「えぇー!……だからこうなること恐れて、真彩に内緒にしてたのにー……」
真彩(心の声)「だろうと思った……」
亜希、真彩をハグする。

亜希「バカ!……何て事を……」

真彩「……」
亜希「ごめんね、真彩……ごめんね……」
亜希、真彩を抱きながら泣き出す。

すると真彩、
真彩「この世に存在するたった一人の兄だから……」
と、ボソッと言う。

亜希「……」

真彩「あぁ、悠斗には黙っててよ! 恩着せたくないから。自分のせいで……って、思って欲しくないし……」

亜希「……真彩……」

亜希、真彩の顔を涙目で見詰める。

真彩、亜希に微笑むと同時に、眩暈を起こし、倒れそうになる。
すかさず亜希、しっかりと真彩を抱き締める。

亜希「真彩、大丈夫?……ちょっとそこの椅子に座ろ?」
と言って、近くの椅子に真彩を座らす亜希。

亜希「ねぇ、ちょっと待ってて? コンビニで栄養ドリンク買って来るから! じっとしてんのよ?! 動いちゃーダメだよ?!」
と言うと、亜希、速足でコンビニに向かう。

そして、しばらくして、速足で亜希が戻って来る。
亜希、急いだせいで、顔が赤い。

亜希「はい、これ飲んでみて? これ飲んだら絶対元気になるから! ママ、この前、これ飲んで、直ぐにシャキッとしたから!……」
と言って、栄養ドリンクの蓋を開け、真彩に渡す亜希。

真彩「有難う。えっ? これ、めちゃ高いやつジャン。一番高いやつでしょ?!」

亜希「もうー、こんな時はそんな事、考えなくて良いの! 早く飲みなさい?!」
と言うと、亜希、微笑む。
   
真彩、栄養ドリンクを一気飲みする。

そして亜希に、
真彩「私さー、さっき、この為に中村家に拾われたんだって思ったよ……」
と言い出す。

亜希「えっ???」
亜希、真彩の発言にドキッとする。

真彩「悠斗の命、救う使命をみ仏様から仰せつかってたんだって……だから、社長になったのも意味ある事で、私が日本に帰って来て、直ぐに悠斗を救けられる様に道を付けて下さってたんだ……って、そう思った……」

亜希「……そう……なんだ……真彩がそう思ったんなら、そうなんだろうね。世の中、全て意味ある事だからね……」

真彩「うん。だから、使命果たせて良かったよ」

亜希「でも‥‥‥逆も然りだよ?」

真彩「えっ?」

亜希「悠斗、真彩の命、何度も救けてるでしょ?」

真彩「あぁ……」
亜希「だから、悠斗も、真彩を救ける使命をみ仏様から仰せつかってたって事。二人は切っても切れない間柄って事なの」
真彩、しばらく考える。
過去の出来事を思い出している真彩。

真彩「あぁ、そっか……そうなんだろうね……」

亜希「二人で一つ。対なんだと思う。一心同体って言った方が良いかな? だって、前世ではあなた達、夫婦だったんだから……」
真彩「あぁ……そうだったね‥‥‥」
そこに優衣がやって来る。
優衣「叔母さん、悠ちゃん、どうなの?」
亜希「あぁ、優衣ちゃん……ごめんね、折角の休みなのに……」
   
優衣、首を横に振る。

亜希「明日、また再検査なんだけど、真彩が……」
   
亜希、ちらっと真彩を見る。

亜希「あぁー多分、大丈夫だと思う」

優衣「ホント???」

亜希「うん。だから、心配しないで?!」

優衣「いや心配だよ。脳に異常あったら怖いもん……命に関わるから……」
  
優衣、栄養ドリンクを飲んでいる真彩をちらっと見る。

優衣「でもまぁー、叔母さんがそう言うなら大丈夫だね……」
  
優衣、安心したかして、ニッコリとする。

優衣「勇也が凄く心配して、あんなに落ち込んでる勇也、久々見たわ……」

亜希「あぁ、昨日、お見舞いに来てくれて、ずっと悠斗の横で泣いてたからね……」

優衣「勇也にとったら悠ちゃんは、憧れのお兄ちゃんだからね……」

優衣、真彩を見る。

優衣「マーちゃん、大丈夫???」
真彩「あぁ、これ飲んだら元気になった感じ。スゴッ。じゃー、先帰るね。ママ、後宜しくね!」
亜希「はい。気を付けて帰るのよ! 家に帰ったら、横になって休むのよ!」
真彩「うん」
と言うと、亜希、真彩から空のドリンク瓶を受け取る。

真彩「じゃーね」
   
そう言って、亜希と優衣に手を振り、病院の出口へと歩いて行く真彩。

真彩の後ろ姿を亜希、優衣、じっと見ている。 

優衣「叔母さん……悠ちゃんが大丈夫って事は……マーちゃんの力、使ったって事でしょ?」

すると、亜希、黙って頷く。

優衣「あぁー……叔母さん、ゴメン……私がマーちゃんに教えたの……」

亜希「優衣ちゃんが謝る事はないよ?! その内、分かる事だからね……」
優衣「あの、マーちゃんの寿命って、何年、縮まったの? 自分の命、削った訳でしょ?」
亜希「さぁー……それは分かんない。み仏様しか知らないからね……でも、間違いなく、真彩の寿命は縮まった……っていう事だけは分かる……人の命を救うパワーって、普通なら、その人の命と引き換えだから……」

優衣、それを聞いて、泣き出す。

亜希「……優衣ちゃん……泣かないで?! 真彩は悠斗を救ける事が、この世に生まれて来た自分の使命だって思ってるから、真彩は今、満足して、喜んでるんだよ?!」

優衣「そんなぁー……悲し過ぎるよ……」

亜希「……」

優衣「はぁ……辛っ……」

項垂れ、涙を流す優衣。

亜希、優衣をハグする。
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