第39話 スパイ?

文字数 3,066文字

【ハーモニー社・営業部1課】

営業部1課が、何やらざわついている。
朝、杉山、光、秋元が、ひそひそ話をしている。

前田、三人をちらちら見る。

真彩と優衣が、いつもの様に、タブレットPCを片手に持ち、話しながら営業部の通路を歩いている。

杉山と光、睨む様に真彩を見る。

そして、杉山
杉山「社長!」
と言って、真彩を呼び止める。

真彩、声に反応し、杉山を見る。
真彩「はい……」
杉山「ちょっと社長にお聞きしたい事があります」

真彩「はい、何でしょうか?」

前田、何事かと、心配顔で杉山と真彩を見る。

杉山「あのー、非常に聞き難いんですが……」

真彩「じゃぁ、聞かないで?!」
と言って、真彩、その場を立ち去ろうとする。

杉山「いやいや、社長、待って下さい!」

真彩「何???」

真彩、振り向く。

杉山「あの、唐突ですが、BES社の清水専務とは、どういうご関係ですか?」

真彩「えっ?」

真彩、驚いた顔をする。

そして、
真彩「あぁ……」
と言って、上を向き、しばらく考える真彩。

杉山「BES社は、ウチの会社、乗っ取るって嘘が流れたんですけど、実際に乗っ取られるんですか?」

真彩「あぁ……心配しなくても、大丈夫だよ!」

真彩、ちょっと困惑顔。

すると、光が口を挟む。
光「本当に大丈夫なんですか?! 私、先日、清水専務と社長が一緒に居る所、見ちゃったもんで……」
真彩「あぁ……そうなんだ……見られたんだ……」

杉山「社長って、スパイだったんですか?」

真彩「スパイ???」

真彩、驚いた顔をする。

周りに居る営業部の社員達、『スパイ』というワードに反応し、仕事の手を止め、真彩、杉山、光に注目する。
真彩「スパイかー……バレちゃった?」
と言って、真彩、微笑む。

杉山「えっ?」

秋元「えぇー?!」

周りの社員達も、驚いた顔をする。
そして、一気にざわつく。

杉山「あの、ホントにスパイなんですか?」

真彩「私、スパイに見える?」

杉山「信じたくないですけど、BES社の清水専務と仲良いんだったら、そうなのかな?……って……」

真彩「あのねー、スパイってさー、映画『355』に出て来る様なメイス、マリーみたいな人を言うの! 私にはそんな頭脳も身体能力もないよ?!」

杉山「いや、誰ですか? その人達……」

真彩「このか弱い私が、スパイなんてなれると思う?」

真彩、ぶりっこして、手を絡めて、可愛い仕草をする。

杉山「いや、あの、ナイフ持ってたストーカーやっつけたの、もう皆んなに知れ渡ってますから!」

真彩「えっ?……いやいや、それ、私のそっくりさんだから!」

杉山「映画のソルトで、ロシアの二重スパイ容疑かけられたアンジェリーナ・ジョリーと社長が、今、重なって見えてます……」

真彩「まぁ、そんな、恐れ多い……でも、光栄だな……」  
と言って、真彩、微笑む。

周りの社員達、二人の会話に唖然としている。

すると前田、見るに見かねて、真彩と杉山の間に割り込む。
前田「あのー、すいません。俺のせいで社長に濡れ衣着せてしまって……」
と、前田、真彩に頭を下げる。

光「何で前田さんが謝るの?」

前田「社長は、俺の為にBES社の清水専務に付き合ってくれたんです」

杉山「えっ? 何で???」

真彩「あぁ……」

杉山「どういう事?」

真彩「いや、プライベートな事だからさー」

前田「大丈夫です、社長」

前田、真彩を見て頷く。

真彩「あぁ……あのね、BES社、本当にウチの会社を買収しようと計画してたんだよね……」

杉山「えぇー、あの噂って、やっぱり本当だったんですか?!」

真彩「うん。だから、阻止する為に、清水専務とコンタクト取って、社長であるお父様を何とか説得して欲しいってお願いしたんです」

杉山「えっ?……そうだったんですか……」
真彩「あぁ、清水専務とはシカゴで一緒だったから……実は友達なの」
杉山「えぇー?!」

光「友達???」

真彩「あぁー、ちゃんと言うと、友達以上恋人未満? ふっ……(笑)」

真彩(心の声)「あぁ、どーでもええか……」

真彩、微笑む。

真彩「で、清水専務のお父様に直接会って、買収の話は無しにして欲しいって頭下げたら、すんなり了承して下さったの。話せば良い人だった。周りが買収、積極的に進めたみたい」

杉山「そうだったんですか。社長が買収、阻止して下さってたなんて、知らなかったです。すいません……スパイ容疑掛けて、本当にすいません!」

杉山、真彩に深く頭を下げる。
光も真彩に深く頭を下げる。

真彩「でね、そのお父様、意外とハンサムなんだよねー。六十(歳)近いんだけど、四十代でも通じる感じ。奥様は五年前にお亡くなりになっててさぁー……」

杉山「えっ? まさか???」

真彩「そうなんよ、まさかなんよ。ロックオンしちゃってさー。カップル誕生だよ?!」

真彩、微笑む。

前田(心の声)「あぁ、また社長、感情が先走って、言葉足らずだ……これは、間違いなく勘違いされるぞ?!」

杉山、顔が引き攣る。

杉山「いやいや、社長の年齢知らないですけど、三十歳以上離れてるんじゃないですか?」

光も顔を引き攣らす。

光「あの、ちょっと離れ過ぎでは? 社長、若いのに、勿体無いです。相手はもう、介護考える年齢ですよ?」

前田(心の声)「やっぱり……こうなるよな……」

真彩「えっ? いや、私じゃなくて、前田さんのお母様だよ?」

杉山「えぇー?!」

杉山、光、秋元、他、周りにいる営業部の社員達、驚いた顔をする。

真彩「前田さんのお母様、大阪に遊びに来られた時にお会いしたんだけど、とっても綺麗で清楚で控えめな方なんだよね。で、直感で、あの社長と合うんじゃないかって思って紹介したの。そしたら社長、気に入っちゃってさー」

杉山「えぇー、いやー、ビックリです……何が何だか分からなくなって来ました」

真彩「でさぁ、清水専務にとったら、将来、前田さんは義理の弟になるだろうから、お近づきに何かプレゼントしたいって事で、私が買物に付き合って、前田さんに似合いそうな鞄をチョイスしたって訳」

すると前田、照れながら、真彩が選んでくれた鞄を見せる。
前田「これ、清水専務からのプレゼントなんですけど、社長が選んでくれたんで、社長からのプレゼントって感じです」
前田、ニコニコ笑顔。

杉山「なーんだ、何か、気が抜けました」

真彩「ねぇ、マジで私の事、BES社のスパイだって思ったの?」
と、ちょっと拗ねた感じで言う真彩。

杉山「いや、だってですね、ライバル社の専務と仲良く買物なんて、誰だって疑いますよ!」

真彩「酷い! 信用ないんだな、私……」

真彩、拗ねて、いじけた感じで言う。

杉山「あぁ、すいません、すいません!」
と言って、杉山、真彩に手を合わせ、合掌する。

光も同じ様に、真彩に向かって手を合わす。

真彩「でも、BES社が、私にはライバル社って感覚無いんだけど……どこの企業とも共存共栄だから、一緒に頑張ろうって感じなんだよね……」

周りで聞いていた社員達、ホッとした表情。

真彩「という事で、じゃーね!」
と言って、真彩、笑顔で営業部から立ち去る。

秘書の優衣、黙って真彩の後を歩く。

その場に居る社員達、真彩の後ろ姿をじっと見る。


杉山「あー良かったー。社長がスパイじゃなくて……」

光「すいませんでした。私の誤解でこうなって……何か、恥ずかしいです」

杉山「いやいや、俺もその場にいたら、きっと誤解したと思う。それにしても前田、凄いなー。BES社の社長をお義父さんって呼ぶ様になるんやなぁ……」

前田「あぁ、何か気恥ずかしいです」
秋元「でも、めでたいなぁー」
前田「はい。有難いです。母も妹も喜んでて、俺も本当に嬉しいです。全て社長のお蔭です」
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