第49話 悠斗、倒れる

文字数 3,965文字

【高槻レオマンション・806号室】

真彩、キッチンに立っている。
冷蔵庫のドアを開け、考えている真彩。
真彩「何食べよっかな? あっ、久々の休みだから、明るい内からビール飲んじゃおーっと」
冷蔵庫の中から缶ビールを取り出し、嬉しそうな顔をする真彩。
そして、食器棚からビール用グラスを取り出し、缶ビールと一緒に応接テーブルに持って行く真彩。

すると、ソファに座ると同時に、スマホから着信メロディー音が鳴る。

真彩「はいはい……」
と言って、真彩、テーブルに置いているスマホを手に取る。

スマホには、『優衣ちゃん』という文字が表示されている。

真彩(心の声)「んん? 仕事か???」

真彩「はーい」

優衣(声)「あぁ、マーちゃん、大変!……あぁー、じゃなくって、ちょっと話、出来るかな? 今から高槻店カフェに来れる?」

真彩「えっ? 何? どんなトラブル?」

真彩は、高槻店で、仕事上のトラブルがあったのだと思っている。

優衣(声)「会って話す。三十分後に待ち合わせという事で良い?」

真彩「うん。分かった」
と言って、電話を切る真彩。

真彩、嫌な胸騒ぎ。

真彩、直ぐに外出着に着替え、用意する。



【ハーモニー社・高槻店カフェ】

高槻店カフェは、真彩の家から直ぐなので、優衣から電話を貰って、二十分程で店に着いた。
すると、外の席に優衣は既に座っていた。

優衣、真彩の顔を見ると、
優衣「あぁ、マーちゃん……」
と言って、真彩を見詰める。

優衣、悲愴な顔をしている。
真彩「一体、どうしたの?」
優衣の顔色が悪いので、心配顔の真彩。
優衣「あのね……落ち着いて聞いてね!……」
真彩「?……」

優衣「実はね、三日前に、悠ちゃんが倒れて救急車で運ばれたって!」

真彩「えっ?……」

優衣「大学時代のサークル仲間と何人かで飲んでたらしいの。そしたら急に、悠ちゃん、ビールを一口飲んだだけなんだけど、倒れたんだって……」

真彩「えぇー?……」

優衣「で、救急車で運ばれたんだって……」

真彩「えぇ? ホント? だって、ママからもパパからも、そんな連絡ないけど?」

優衣「あぁ……だから、私も、マーちゃんに言おうかどうしようか迷って、迷ってさぁー……でも、我慢出来ずに今、話してる。叔父さんも叔母さんも、マーちゃんに心配掛けない様に黙ってるんだと思う」

真彩「で、容態は?」

優衣「それがさー、病院に着いた時には、意識、回復してて……」

真彩「なーんだ……大した事なかったんだ……」

優衣「でも、検査で髄膜炎、脳炎の可能性あるって言われたらしいよ?」

真彩「そうなんだ……脳か……怖いなぁー……」

優衣「でね、その後も詳しく調べたら、手術出来ない箇所に腫瘍が出来てて、このままだったら、一年もつかどうかって、先生に言われたらしいよ?!」

真彩「えぇ?……ホント?」
   
優衣の言葉に、驚く真彩。

真彩「ねぇ、優衣ちゃん、何でこの事、知ってるの? ママ、私に内緒にしてるのに……?」
と、真彩、優衣の目をじっと見て言う。

優衣「あぁ、実は、池もっちゃんが教えてくれたんよ。悠ちゃんの近くに座ってて、悠ちゃんの異変に直ぐに気付いたんだってさっ……昨日、Route72で会った時、元気なかったから、どうしたの?……って聞き出したの」

真彩「池もっちゃんも一緒だったんだ……それは良かった……」

優衣「昨日も悠ちゃんの様子、見に行ったみたいだけど、何か、手足が痺れて、身体、思う様に動かせないみたい……悠ちゃん、メゲてたって言ってた」

真彩「えぇ? そんなに急に酷い症状になるの? あのひょうきん悠斗がメゲるなんて、よっぽどだね……」

優衣「この前会った時、元気一杯で、ジョーク、一杯飛ばしてたのに……」

真彩「?……」

優衣「何か、精神的ストレス、凄いあったみたいよ?!」

真彩「えっ?……」

優衣「マーちゃんを惟う気持ちが一番だと思うけど、でも、悠ちゃん、相談に乗ってた後輩の女の子に、ストーカ―みたいに付きまとわれてたみたい」

真彩「えぇ? そうなんだ……」

優衣「大学に入った時から悠ちゃんに憧れて、大好きで、この前、相談があるからって家に呼ばれて、ご馳走作ってくれたのは良いんだけど、アルコール、結構勧められて、睡魔に襲われて、気が付いたら服脱がされてて、悠ちゃんの隣にその女の子、全裸で寝てたんだって……」

真彩「あらら……何やってんだ。ホント、情に弱くてバカだな、悠斗は……あれだけ『女難の因縁あるから気を付けなさい!』ってママに言われてたのに……」

真彩「肉体関係、持ったんだったら、そりゃー、ストーカー行為されてもおかしくないよね」

優衣「理不尽なんだけど、悠ちゃん、その子に謝ったらしいよ。でも、その子、悠ちゃんの事がずっと大好きだったからさぁー……あぁ、池もっちゃん曰く、その子、目がくりっとしてて、可愛い系なんだってさっ」

すると、真彩、
真彩「でた、目がくりっとして可愛い系。まぁ、でも、どっちもどっちだね……」
と、冷めた感じで言う。

真彩「悠斗は優し過ぎるんだよ。ホント、情に弱いから。女性の扱いは慣れてるけど、女の本心、内心には気付けないからなぁー……騙されやすいんだよね……バカだよ」

優衣「そうなの???」

真彩「うん……」

優衣「でもね……池もっちゃんが言ってたんだけどね……」

真彩「んん?……」

優衣「その子がマーちゃんと重なって、放っておけなかったんじゃないかな?……って言ってた」

真彩「はぁ?……な訳ないでしょ?! 悠斗は、ただ単に、情に弱くて、女好きのすけべぇ野郎なの!」
と、真彩、敢えて悠斗を悪く言う。

優衣「そうかなぁー? 私、池もっちゃんと同意見なんだけど?……それに、今回の事で、証明されたんじゃない?」

真彩「何を?」

優衣「脳に原因があったって事! 好きでもない人とそんな関係になる様な人じゃないでしょ? 悠ちゃんは。だから、例えば、脳が腫瘍で圧迫されて、幻覚見たとか? その子がマーちゃんに見えたのかもしれないって事」

真彩「優衣ちゃん!……」

優衣「んん?……」

真彩「あのね、男って、皆んなすけべぇなんだよ?! 女をセックスの道具と思って欲求をそこで発散する訳ですわ。悠斗も一緒だよ。女好きだもん。どんだけ女友達いるか知ってるでしょ?!」

優衣「あぁ……悠ちゃん、誰にでも優しいからね……人気者だし……」

真彩「それにね、何年か前に、ママに悠斗の前世、聞いた事あるんだよね……」

優衣「えっ?……見て貰ったの???」

真彩「うん。そしたら、悠斗と私は前世で夫婦だったって。で、悠斗は高貴な貴族だったみたいで、正室の私以外に、側室の女が沢山いたみたい。だから、私、いつも寂しい惟いしてたらしい」

優衣「へーぇ……」

真彩「だから、現世でも、こうやって悠斗の周りには女が沢山いるって事。多分、前世で側室だった女どもだよ」

真彩、口調が悪くなる。
真彩、明らかに腹を立てている。
優衣「えぇー?……何か、凄いショックなんですけど……私、マーちゃんと悠ちゃんが又、恋人関係になる様に希ってたのに……悠ちゃんと一緒になると、マーちゃんは辛い想いする可能性、あるんだ……」
真彩「そういう事。もし仮に結婚しても、浮気ばっかりされるんだよ? 誰がそんな人と結婚なんてしたいと思う? 先が見えてるのに……」
優衣「だね……あぁ、それでね、まだ話の続き、あるんよ!」

真彩「?……」

優衣「池もっちゃんがね、悠ちゃんをはめた子に、悠ちゃんの症状を言って、手術しなかったら体が動かなくなって、寿命一年で、もし手術しても、障害が残って麻痺した体になるか、植物人間状態になる可能性があるって言ったんだって」

真彩「ほぅ……」

優衣「で、池もっちゃん、わざと、悠ちゃんの世話、お願いしたらしいよ?! その子の反応見る為に」

真彩「へーぇ……」

優衣「そしたら、案の定、その子、もう、悠ちゃんと拘わり合いたくないって言い出して、逃げたんだってさぁー」

真彩「あらら……まぁ、でも、そうなるかな? 誰だって、重い十字架、背負いたくないよね。それが普通だわ。それに、いくら憧れの人だとしても、たった一度の肉体関係で、一生、その人の世話するなんて、耐えられないもんね……」

優衣「うん……」

真彩「女としても満たされない訳だから、欲求不満になるだろうしね……恋心なんて、サーッて冷めるよね……」

優衣「何か、悲しいね……人間の本性、見た感じだよね……」

真彩「まっ、人間だもの、しょうがないよ……結局は、頼りになるのは親兄妹だよ。他人は当てにならないよ」

優衣「でもさー、スーパードクターっているでしょ? そういう先生に手術して貰うっていう手もあるよね?」

真彩「だね……でも、見つかったとしても、直ぐに手術は無理でしょ?!」

優衣「あぁ……前、テレビでやってたけど脳外科の有名な先生、世界中、飛び回ってるからなぁー……直ぐには無理か……」

真彩「ねぇ、どこの病院?」

優衣「えっ? 叔父さんも叔母さんも、マーちゃんには秘密にしてるのに……言っちゃって良いのかな?」

真彩「?……」

優衣「行く気でしょ?」

真彩「勿論……」

優衣「わぁ、やっぱり……私、叔父さんと叔母さんに怒られちゃうよ……」

真彩「優衣ちゃんから聞いたって言わないから!」

優衣「そんなこと言ったって、直ぐ分かると思うけど?!」

すると真彩、優衣の目をじっと見詰める。
真彩「どこの病院? 何号室かな?」
優衣、真彩に見詰められ、まるで催眠術にでもかかっている様に、素直に真彩の質問に答える。

優衣「高瀬病院。618号室……」
   
優衣の口から聞き出すと、真彩、優衣の目の前で、手を一回、パンと叩く。

すると、優衣、我に返り、
優衣「えっ???」
と言って驚く。

すると、真彩、
真彩「有難う!」
と言って、席を立ち、店から出て行く。

優衣、呆然として、真彩の後ろ姿を目で追っている。
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