第137話 自然災害、松本の恋

文字数 4,567文字

【中村家(悠斗と真彩の実家)・リビング】

元旦、実家で、家族団らんのひと時を楽しむ悠斗と真彩。
   
夕方、父親の智之、母親の亜希、そして悠斗、真彩の四人で、トランプをして遊んでいる。
亜希「元旦早々、皆んなでババ抜き出来るなんて、何年ぶりだろうね。何て幸せなんでしょう」
と、笑顔で言う亜希。
悠斗「あぁ、そう言えば、久しぶりだね。昔は恒例行事だったもんね」
智之「あぁ、そうだな、よくやったよな」
悠斗「誰かさんが俺のこと嫌ってたお蔭で、ずーっと出来なかったもんな」
と言って、真彩の顔を覗く悠斗。

すると、真彩、頬っぺたを膨らます。
真彩「すいましぇーん」
と言って、頭を傾げ、ひょうきんな顔をする真彩。

智之と亜希、真彩を見て微笑む。


突然、家が揺れ出す。
大きな揺れに、一同、驚愕。
真彩「わぁー、Earthquake……」
悠斗、直ぐに、隣に居る真彩を抱き寄せ、真彩に覆い被さる。

真彩「凄い揺れだね、震度四はあるね」
悠斗「揺れが長いね。こんなに長いの、生まれて初めてだ」
亜希、立って玄関に行こうとする。

すると、
真彩「ママ、ダメだよ! 危ないからじっとしてて!」
と、亜希に咄嗟に言う真彩。
亜希「花瓶が倒れないか心配で……」
真彩「未だ揺れてるからダメだよ!」
すると、
悠斗「俺、見て来る!」
と言って、咄嗟に玄関に行く悠斗。

真彩「あっ、悠斗、ダメだよ!」

真彩、悠斗の後ろ姿をじっと見る。

真彩「もうー、危ないのに……」


しばらくすると、長かった揺れが収まる。
智之「収まったみたいだな。長かったな」
悠斗がリビングに戻って来る。

真彩「震源地、どこだろう?」
と言って、テレビのリモコンを持ち、電源をONにする真彩。

テレビのニュース速報を見て驚く真彩。

真彩「能登だって。友達、石川県の七尾のおばあちゃん家に遊びに行ってるんだけど、大丈夫かなぁー?」
悠斗「七尾って、あの辺り、原発あるよな?」
真彩「あぁ、羽咋郡に志賀原子力発電所がある。そっちも心配だなぁー」
亜希「ねぇ、お友達にLINEでメッセージ送ってみたら?」
真彩「そうだね」
と言うと、真彩、スマホを手に取り、文字を入力し、送信する。

すると、直ぐに、真彩のスマホに着信音が鳴り、直ぐにLINEを見る真彩。

真彩「今、新幹線の中だけど、止まっちゃってるんだって。いつ動くか分からないみたい」

悠斗「わぁ、閉じ込められたんだ、きついなぁー」

亜希「そうね、高齢者の方とか、赤ちゃんとか小さい子を連れてたら大変よね」
真彩「可哀想に。不安だろうなぁー」



【真言密教寺院・真正寺・御宝前】

朝、法要が行われている。

亜希、悠斗、真彩は、真正寺の袈裟を着け、神妙な顔をして、正座して祈っている。

多くの人達が法要に参座している。

     ×  ×  ×

法要が無事に終わり、参座した人達を見送ると、中庭で、亜希、悠斗、真彩が立ち話をしている。

亜希「亡くなった方々のご廻向、続けないとね」
真彩「被災した人達の息災安穏もね」
悠斗「ライフライン、早く復旧して欲しいよな」
真彩「ニュース見てたら、泣けてしょうがないよ。家族が犠牲になって、自分一人だけ救かったって方の話聞いたら、もう辛くてダメだわ」

悠斗「ホントだよな。そう考えたら、自分達が如何に幸せかって思うよな」

真彩「地震大国日本だから、いつ自分達もこんな目に遭うか分からないけど、でも、今、普通に生活出来る事に感謝して生きないとね」

亜希「そうね。私達が出来る事は、亡くなった方々のご冥福を祈る事と、義援金させて頂く事と、被害に遭った皆さんが、一日も早く安穏に暮らせる様にって祈る事ぐらいだからね」

真彩「うん……」

悠斗「うん」



【カフェバー「Route72」】

真彩、カフェバー「Route72」のカウンター席に座っている。

真彩、空きっ腹にジントニック二杯目を飲んだので、頭がくらくら回り、酔っている。

カウンター越しには、店主の松本が居て、真彩に微笑んでいる。
真彩「えぇ? また先生と旅行に行くの?」
と、驚いた表情の真彩。

真彩「良いなぁー。私も連れてってよ!」
と、甘えた感じでわざと言う真彩。
松本「連れてってあげたいんだけどね、ゴメンね」
真彩「で、どこに行くの?」

松本「へへっ……僕の好きな所に連れてってくれるんだってー。さて、どこでしょう?」

真彩「タッくんが好きな所? あっ、信州でしょ?! 上高地とか、あの辺?」

松本「ピンポンー! 流石です」

真彩「良いなぁー」

松本「ふふっ、良いでしょ!」
と言って、ニッコリする松本。
真彩「良いな、良いな、私も行きたいー!」
と、子どもが駄駄を捏ねる様な感じで言う真彩。

松本「じゃー、もし、仮にマーちゃんも行くとしたなら、三人、川の字になって寝る?」
と、冗談を言って、真彩の反応を見る松本。

真彩「わぁ、良いジャン、川の字。でも、両脇に男前二人がいたら、ドキドキして寿命がまた縮まっちゃうね」
と、冗談で返す真彩。
松本「それはダメ。絶対に。マーちゃん、社長になって寿命が縮まったのに、これ以上短くなって欲しくないよ」
真彩「でも、面白いよね、一生の内、心臓の拍動回数が決まってるなんて。本当かどうか知らないけど、脈が速い生き物は早死にして、遅い生き物は長生きするなんてね」

松本「でも、人間も本当にそれに当てはまるのかなぁ?」

真彩「まぁ、人によるよね。環境で大きく変わるだろうし。あぁ、スポーツしてる人達はしない人よりも長生きだっていうデータもあるみたいだし。ほんまでっか?……って感じだけどね」

松本「でも、小さい動物の寿命は短いよね。それに比べて大きな動物って長生きだもんね」

真彩「うん。猫の寿命が十三年で、犬が十五年、イルカが四十年でシャチが五十年、像が七十年って、何かに書いてた。あぁ、昔買ってたジャンガリアンハムスターなんて、たった二年だもんね」

松本「犬もさぁ、小型犬の方が早く死んじゃうよね」

真彩「心臓に負担掛かり易いんだろうね、小型犬は。繊細だもんね。何か、いつもビクビクしてる感じがするもんね」
松本「あぁ、話、戻すけど、だから、マーちゃんには長生きして貰いたいから、旅行には誘わないよ」
と言って、微笑む松本。
真彩「ふふっ。当たり前でしょ! 行く訳ないでしょ! 私が行ったら御邪魔虫だもん」
と言って、笑う真彩。

松本「でもさー、心臓の面だけで言うと、長生きしようと思ったら、のんびり、まったり過ごすのが一番なんだろうね」

真彩「そうだね。小さな事に執われずに、身体動かして、食事もきちんと摂って、規則正しい生活送るのが長寿の秘訣なんだろうね」

松本、微笑みながらじっと真彩を見詰めている。
松本「マーちゃん、有難うね。僕の事、いつも心配してくれて……」
と、改めて礼を言う松本。

すると、
真彩「何言ってんの。タッくんの幸せは、私の幸せ。タッくんの歓びは、私の歓びだって、いつも言ってるでしょ!」
と言って微笑む真彩。

松本「うん……有難う。嬉しいよ。マーちゃん、大好きだよ!」
と、松本、素直に感謝の気持ちを言葉にする。

真彩「あっ、先生の事、おじさんとおばさんは知ってるの?」

松本「うん。ちゃんと言ったよ。僕の人生だから、僕が決めた事を応援するだけだって。理解ある親で有難いよ」

真彩「そっか、良かったー」

松本「マーちゃんが両親と話してくれてるお蔭だよ。だって、マーちゃんと知り合う前なんて、僕の両親、『男は男らしく!』って人達で、僕を自分の所有物扱いしてた人達だったから」

真彩「あぁ、そう言えばそうだったね。だからタッくん、悩んだり苦しんだりしたんだもんね」

松本「うん。好きになるのは男の子ばっかりだったし、女の子には全く興味なかったから、自分でも変人って思ってたから……」

真彩「まー、色々あったね。でも、いつも言うけど、人生は修行だからね! どんな困難も立ち向かわないとね!」

松本「うん。僕一人じゃ無理だけど、マーちゃんや悠さん、優衣ちゃん、勇也がいてくれるから、僕は今ここに居るからね。有難いよ」
と言って、微笑む松本。

真彩、松本を見て微笑んでいる。

松本「あっ、そう言えば、マーちゃんママ、この前、駅の近くで会って、ちょっと話したんだけど、めっちゃ忙しそうだったわ。大丈夫かな?……って心配になったよ」

真彩「あぁ、ママさぁー、真正寺幼稚園の経営者だし、真正寺のお寺のお手伝いあるし、社長婦人としての役割もあるにも拘わらず、自治会の役員三つもやってるからね。遣り過ぎなんだよね」
と言って、笑う真彩。
松本「えぇ? 自治会の役員、何で三つもやってるの?」
真彩「あぁ、会長になった人が、なったと同時に病気で入院して、書記も会計も高齢の人で、パソコン出来なくてね。だから、ママが陰で一手に引き受けてるって訳」
松本「えぇー、それは大変だね」

真彩「うん。大変だけど、ママは出来ちゃう人だから。それに、人の役に立つのを歓びとしてる人だから、全然、苦じゃないんだよね」

松本「凄いよね。流石、マーちゃんママだね」

真彩「ママさぁー、Windows 95 の時代に、キャンビーのパソコンをお祖父ちゃんに買って貰って、それからパソコンいじってるって言ってたから、ああ見えて精密機械、得意なんだよね」

松本「へーぇ、得意だったんだ」

真彩「うん」

松本「あぁ、そう言えば、ウチの隣町も高齢者の家が増えたから、自治会の役員を遣る人がいなくて、結局、その地域、自治会無くしたらしいよ」

真彩「あぁ、私の友達の実家もそうだよ。自治会に入ってないって言ってた」

松本「役に当たると大変だもんね……」

真彩「そうだよ。何か問題があったら、仕事どころじゃないもんね」

悠斗「でも、街灯費って自治会が払ってるからどうなるんだろう? その地域だけ真っ暗になっちゃうよね」

真彩「あぁ、友達の実家は、ボランティア精神ある人が住民からお金を集金して支払ってるって言ってた」

松本「ふーん、そうなんだ。あぁ、自治会じゃないけど、学校でPTA廃止とか、最近あるよね」

真彩「あぁ、役員の押し付け合いだったり、強制的に協力させられたりとか、問題多いから、保護者に負担が掛かってたからね。自治会もそれと同じだよね」

松本「昔と今は考え方や環境が違ってるもんね。共働きは当然の時代だし、毎日仕事して、PTAの役員になって、身体を休める時間が削られて、そりゃー嫌になるよね」

真彩「うん。時代が進むに連れ、昔は考えられなかった事が次から次へと起こるよね。この先も、一体どうなる事やら?」
松本「でも、時代の流れに付いて行かないとね」
真彩「だね」

店のドアが空き、悠斗が店に入って来る。

松本「いらっしゃいませ!」
と、笑顔で言う。

すると、悠斗、口に人差し指を当て、松本にシーッのジェスチャーをする。

悠斗、そろっと真彩の後ろに来て、後ろから真彩に抱き着く。

そして、
悠斗「真彩ちゃん、大好き」
と、真彩の耳元で囁く様に言う悠斗。

真彩、悠斗の行為にドキッとする。

そして、悠斗を見て、
真彩「えっ? 飲み会じゃなかったの?」
と、訊ねる真彩。

悠斗、直ぐに真彩の横の席に座る。

悠斗「うん? ちょっと顔出したよ」
真彩「えぇ? 顔出しだけで良かったの?」
悠斗「うん、良いの、良いの。ここでタッくんと真彩とで、うんちく言い合ってる方が絶対楽しいんだもーん」
と言って微笑む悠斗。

真彩と松本、微笑み合う。
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