第13話
文字数 3,229文字
☆
「人垣が出来て全く見えないです」
みっしーが口をとがらせて不平を漏らす。
理科たち三人は木戸商店街にやってきた。商店街の真ん中に仮設スタジオのテントが出来、そこの中で日和とバツ子が料理をする、という趣向らしい。
ぶーぶー言ってるみっしーを脇目に見ながら、理科はちはるに問いかける。
「ねえ、ちはる」
「なに? お姉ちゃん。日和、ここからじゃ見えないね。楽しみにしてたのに」
「そうね。ちはるはあの、千鶴子っていう人が嫌いなの?」
「うん、生理的に、嫌。お姉ちゃんは好きなの?」
「う~ん、どうかなぁ。でも、なんかあの人と私は、またどっかで会いそうな気がするんだよね」
「やだ、お姉ちゃん。言っておくけどあの人、私はお姉ちゃんを私から奪いそうだから、それで生理的に嫌なの」
「それは生理的とは言わないんじゃ……」
「セイブツガクテキに嫌」
「そっか。その説明、よくわかんないけど」
「お姉ちゃん、あの女の人、好きでしょ」
「いや、初めて会ったわけだし、わかんないなぁ」
「お姉ちゃんがあの千鶴子って人に惹かれてるの、ハタから見ても分かるよ」
「そっかなぁ。いや、そうじゃないんだよね。どこかで会ったコトがあるような気がするんだよ」
「ほら、そういう妄想が、恋愛感情になるんだよ! 全く、許せない! お姉ちゃんは私のものなのに!」
と、そこにみっしーが来て、話の骨を折る。
「ちはる、日和は好きですか」
「ん? 好きだよ」
「そうですよね。ボクも世界で一番好きなちはるの次くらいに好きです。世界で二番目に好きというコトです」
みっしーは、そこで一呼吸置いて、にししと笑った。「この人の壁、ちはるのためにぶち破るです。現前せよ! ハネムーンスライサー!!」
みっしーが天にかざした手に光が集まり、その光が死神の大鎌になる。
「ふっふっふっ。これで貴様ら豚人間と日和との関係を切ってやるです」
大鎌を振り回し、人垣に突進するみっしー。またアホなコトやる気なのね、と理科はあきれて見ている。みっしーは「うおおおおおお」と叫んで走り出す。
そこへ一閃。
「うげらぼあっ」
みっしーのおでこに高速で飛んできたものがヒットする。
「痛いです! なんですか、これ」
みっしーが自分のおでこに飛んできて今、地面に落ちた物を見るとそれは。
白いチョークだった。
「げっ!……チョークってコトはまさかあいつですか……」
みっしーがチョークが飛んできたその方向を見ると、そこには紫色でロングの髪の毛をさらりと掻き上げるメガネの女性の姿があった。
「久しぶりぱせ、みっしー」
「クソ魔女ですね。クソにちわ魔女さんよぉ、です」
「『こんにちわ』が『クソにちわ』と変換される下品な奴は許さないぱせ! 教育的指導ぱせ! そして魔女は魔女ぱせが、私の名前はぱせりんぱせ。ぱせりん閣下と呼ぶぱせ。蝋人形にしてやろうか? それとももう一発チョーク喰らうぱせか?」
ぱせりんと名乗った女はチョークを構える。一方のみっしーもハネムーンスライサーを構え直す。
と、そこに、さっきから様子を見ていたモンゴメリ立花が二人の間に入り、「まあまあ、落ち着くアル」と言って戦いを止めさせようとする。モンゴメリ立花は、ぱせりんと一緒にここまで来たのであるが、その存在にみっしーも理科もちはるも気づいていないのであった。存在感、まるでなし。
「ちょっとそこどけるぱせ、立花」
「そうです、このアルアル大辞典、どこから湧いて出てきたかは知らないですが、とっとと中国に帰ってカンフー・パンダと戯れるがいいです」
「いや、どくわけにはいかんアルよ。どうしても戦いたいなら、まずは私を倒してからにするアルよ! それとカンフー・パンダは中国でつくられた映画ではないアル」
「な~る……」
「そうぱせか……」
みっしーとぱせりんの目が邪悪に光る。その目を見たモンゴメリは「しまったアル! 格好付けすぎたアルよ!」と思った。
が、時既に遅し。
一分後、そこにはボコボコにされて横たわるモンゴメリと、嗜虐心を満たして一息ついたみっしーとぱせりんの姿があるのであった。
「ひ、ひどいアル……」
モンゴメリのつぶやきは、もはや誰も聞いていない。
「なにしに来たのですか、魔女」
「それが人にものを尋ねる態度ぱせか。全く、これだから三流死神は嫌ぱせよ」
こめかみに血管が浮き出るみっしー。
「ボクは三流じゃないです! 関係性の『死』を司るなんて、なかなか任されない仕事なんですよ?」
「ふーん、言い訳はどうでもいいぱせ。今日ここに来たのは、日和とバツ子は教え子だからだという理由ぱせ」
「教え子? む、そういえばクソ魔女は学園の講師だったですね、興味ありませんが。魔女が教員なんて、反吐が出そうです」
「そうよん。過多萩大学人文学部美術科ぱせ」
「でも日和は小学生ですしバツ子はアウトローですよ?」
「ふふふ、知らないようぱせね。日和は私が顧問を務める『ファーム』の一員ぱせ」
「げっ! 日和ってファームの一員だったのですか!」
みっしーが驚いたのを受けて理科が口を挟む。
「みっしー、『ファーム』って知ってるの?」
「この街で知らない人はいないですよ?」
黒パーカーの集団。あのステキパンダの制作者達、ファーム……。
「そうぱせ。ファーム。『下野塗装店』ぱせ」
「塗装店?」
「表立ってはペンキ屋というコトになってるぱせ。裏ではグラフィティアートやったりこの街のトラブルシューターをやってるぱせが」
「あのさっきのキャンディ娘が、ファームのボスです」
「え? みっしーはさっきの人も、知ってたの」
「顔くらいは知ってたですよ。まあ、日和が関わってるなんて知らなかったですが」
「日和もバツ子も、ファームの一員ぱせ。探偵業、いわゆるトラブルシューター。そのトラブルシューターとしての活動は情報戦みたいなものぱせ。だから、芸能界の業界人である日和とバツ子は、重要な役割を持ってるぱせよ」
「クソ魔女。お前はなんで日和と関係があるですか。ボクだってお友達になりたいですよ?」
「ふふん。私は塗装店として、そして『グラフィティアート集団』としてのファームの、アドバイザー、顧問をやってるからの特権なのぱせ。どこぞやの三流死神のように、街のならず者やってる人間とは違うぱせよ~」
「くっ! ムカつくですよ! 侍スピリッツだったら『怒りゲージ』がマックスになってしまうほどです」
「んじゃ、私は関係者席に行くぱせ~。じゃ~ね~、パンピーのみなさ~ん、ぱせぱせ」
手を振ってぱせりんは去っていく。みっしーは腹を立てて、中指を立突き立て「ファック!」と言いながらそれを見やる。理科はファームについてみっしーに尋ねようとしたが、ちはるが人垣を見つめて収録を見たそうにしているので、質問するのは後にして、とりあえずこれからどうするか考えるコトにした。
まあ、無理矢理割り込むしかないか……。
ちはるはそういうのは嫌がるだろうけど、仕方ないわね。お姉ちゃんとして、愛する妹のために悪人になろうかしら。
理科は深呼吸して、割り込む旨をちはるとみっしーに伝える。ハネムーンスライサーを使いたがるみっしーに禁止令を出し、それから普通に割り込むコトにした。
☆
「バツ子と~」
「日和の~」
『ザ・男料理塾~!』
「バツ子よ~ん」
「日和だよっ」
「日和、趣旨説明をしてちょうだい」
「はいはい! この番組は『実は男』であるおかまのバツ子が、女の子のごとく料理をつくるのが上手くなるために、日和とバツ子で試行錯誤しつつお料理を学ぶ、という番組だよっ」
「今日の料理はいちごのスコーンだわよ」
「そして今日の『キッチンコロシアム』はここ、過多萩市の木戸商店街さん。私たちの地元だよっ!」
「人垣が出来て全く見えないです」
みっしーが口をとがらせて不平を漏らす。
理科たち三人は木戸商店街にやってきた。商店街の真ん中に仮設スタジオのテントが出来、そこの中で日和とバツ子が料理をする、という趣向らしい。
ぶーぶー言ってるみっしーを脇目に見ながら、理科はちはるに問いかける。
「ねえ、ちはる」
「なに? お姉ちゃん。日和、ここからじゃ見えないね。楽しみにしてたのに」
「そうね。ちはるはあの、千鶴子っていう人が嫌いなの?」
「うん、生理的に、嫌。お姉ちゃんは好きなの?」
「う~ん、どうかなぁ。でも、なんかあの人と私は、またどっかで会いそうな気がするんだよね」
「やだ、お姉ちゃん。言っておくけどあの人、私はお姉ちゃんを私から奪いそうだから、それで生理的に嫌なの」
「それは生理的とは言わないんじゃ……」
「セイブツガクテキに嫌」
「そっか。その説明、よくわかんないけど」
「お姉ちゃん、あの女の人、好きでしょ」
「いや、初めて会ったわけだし、わかんないなぁ」
「お姉ちゃんがあの千鶴子って人に惹かれてるの、ハタから見ても分かるよ」
「そっかなぁ。いや、そうじゃないんだよね。どこかで会ったコトがあるような気がするんだよ」
「ほら、そういう妄想が、恋愛感情になるんだよ! 全く、許せない! お姉ちゃんは私のものなのに!」
と、そこにみっしーが来て、話の骨を折る。
「ちはる、日和は好きですか」
「ん? 好きだよ」
「そうですよね。ボクも世界で一番好きなちはるの次くらいに好きです。世界で二番目に好きというコトです」
みっしーは、そこで一呼吸置いて、にししと笑った。「この人の壁、ちはるのためにぶち破るです。現前せよ! ハネムーンスライサー!!」
みっしーが天にかざした手に光が集まり、その光が死神の大鎌になる。
「ふっふっふっ。これで貴様ら豚人間と日和との関係を切ってやるです」
大鎌を振り回し、人垣に突進するみっしー。またアホなコトやる気なのね、と理科はあきれて見ている。みっしーは「うおおおおおお」と叫んで走り出す。
そこへ一閃。
「うげらぼあっ」
みっしーのおでこに高速で飛んできたものがヒットする。
「痛いです! なんですか、これ」
みっしーが自分のおでこに飛んできて今、地面に落ちた物を見るとそれは。
白いチョークだった。
「げっ!……チョークってコトはまさかあいつですか……」
みっしーがチョークが飛んできたその方向を見ると、そこには紫色でロングの髪の毛をさらりと掻き上げるメガネの女性の姿があった。
「久しぶりぱせ、みっしー」
「クソ魔女ですね。クソにちわ魔女さんよぉ、です」
「『こんにちわ』が『クソにちわ』と変換される下品な奴は許さないぱせ! 教育的指導ぱせ! そして魔女は魔女ぱせが、私の名前はぱせりんぱせ。ぱせりん閣下と呼ぶぱせ。蝋人形にしてやろうか? それとももう一発チョーク喰らうぱせか?」
ぱせりんと名乗った女はチョークを構える。一方のみっしーもハネムーンスライサーを構え直す。
と、そこに、さっきから様子を見ていたモンゴメリ立花が二人の間に入り、「まあまあ、落ち着くアル」と言って戦いを止めさせようとする。モンゴメリ立花は、ぱせりんと一緒にここまで来たのであるが、その存在にみっしーも理科もちはるも気づいていないのであった。存在感、まるでなし。
「ちょっとそこどけるぱせ、立花」
「そうです、このアルアル大辞典、どこから湧いて出てきたかは知らないですが、とっとと中国に帰ってカンフー・パンダと戯れるがいいです」
「いや、どくわけにはいかんアルよ。どうしても戦いたいなら、まずは私を倒してからにするアルよ! それとカンフー・パンダは中国でつくられた映画ではないアル」
「な~る……」
「そうぱせか……」
みっしーとぱせりんの目が邪悪に光る。その目を見たモンゴメリは「しまったアル! 格好付けすぎたアルよ!」と思った。
が、時既に遅し。
一分後、そこにはボコボコにされて横たわるモンゴメリと、嗜虐心を満たして一息ついたみっしーとぱせりんの姿があるのであった。
「ひ、ひどいアル……」
モンゴメリのつぶやきは、もはや誰も聞いていない。
「なにしに来たのですか、魔女」
「それが人にものを尋ねる態度ぱせか。全く、これだから三流死神は嫌ぱせよ」
こめかみに血管が浮き出るみっしー。
「ボクは三流じゃないです! 関係性の『死』を司るなんて、なかなか任されない仕事なんですよ?」
「ふーん、言い訳はどうでもいいぱせ。今日ここに来たのは、日和とバツ子は教え子だからだという理由ぱせ」
「教え子? む、そういえばクソ魔女は学園の講師だったですね、興味ありませんが。魔女が教員なんて、反吐が出そうです」
「そうよん。過多萩大学人文学部美術科ぱせ」
「でも日和は小学生ですしバツ子はアウトローですよ?」
「ふふふ、知らないようぱせね。日和は私が顧問を務める『ファーム』の一員ぱせ」
「げっ! 日和ってファームの一員だったのですか!」
みっしーが驚いたのを受けて理科が口を挟む。
「みっしー、『ファーム』って知ってるの?」
「この街で知らない人はいないですよ?」
黒パーカーの集団。あのステキパンダの制作者達、ファーム……。
「そうぱせ。ファーム。『下野塗装店』ぱせ」
「塗装店?」
「表立ってはペンキ屋というコトになってるぱせ。裏ではグラフィティアートやったりこの街のトラブルシューターをやってるぱせが」
「あのさっきのキャンディ娘が、ファームのボスです」
「え? みっしーはさっきの人も、知ってたの」
「顔くらいは知ってたですよ。まあ、日和が関わってるなんて知らなかったですが」
「日和もバツ子も、ファームの一員ぱせ。探偵業、いわゆるトラブルシューター。そのトラブルシューターとしての活動は情報戦みたいなものぱせ。だから、芸能界の業界人である日和とバツ子は、重要な役割を持ってるぱせよ」
「クソ魔女。お前はなんで日和と関係があるですか。ボクだってお友達になりたいですよ?」
「ふふん。私は塗装店として、そして『グラフィティアート集団』としてのファームの、アドバイザー、顧問をやってるからの特権なのぱせ。どこぞやの三流死神のように、街のならず者やってる人間とは違うぱせよ~」
「くっ! ムカつくですよ! 侍スピリッツだったら『怒りゲージ』がマックスになってしまうほどです」
「んじゃ、私は関係者席に行くぱせ~。じゃ~ね~、パンピーのみなさ~ん、ぱせぱせ」
手を振ってぱせりんは去っていく。みっしーは腹を立てて、中指を立突き立て「ファック!」と言いながらそれを見やる。理科はファームについてみっしーに尋ねようとしたが、ちはるが人垣を見つめて収録を見たそうにしているので、質問するのは後にして、とりあえずこれからどうするか考えるコトにした。
まあ、無理矢理割り込むしかないか……。
ちはるはそういうのは嫌がるだろうけど、仕方ないわね。お姉ちゃんとして、愛する妹のために悪人になろうかしら。
理科は深呼吸して、割り込む旨をちはるとみっしーに伝える。ハネムーンスライサーを使いたがるみっしーに禁止令を出し、それから普通に割り込むコトにした。
☆
「バツ子と~」
「日和の~」
『ザ・男料理塾~!』
「バツ子よ~ん」
「日和だよっ」
「日和、趣旨説明をしてちょうだい」
「はいはい! この番組は『実は男』であるおかまのバツ子が、女の子のごとく料理をつくるのが上手くなるために、日和とバツ子で試行錯誤しつつお料理を学ぶ、という番組だよっ」
「今日の料理はいちごのスコーンだわよ」
「そして今日の『キッチンコロシアム』はここ、過多萩市の木戸商店街さん。私たちの地元だよっ!」