第28話
文字数 1,619文字
☆
家を出た理科はちはるの言うままに菊屋横町のスターバックスに入った。「へ~、こんな時間にもう開店してるんだ~」とか理科は言いながら、トールサイズのスタバラテを注文する。ちはるはアイスラテのショートサイズ。テイクアウトで店を後にし、外で飲みながら歩く。しかしちはるは珈琲が好きだな、と思う。
その後も色々寄り道をする。と言ってもまだ朝早いので、店などはほとんどやっていない。コンビニや出勤のサラリーマン相手の書店などをひやかす程度だ。
そして自然の流れで、公園へ。着いた公園は昨日ファームで訪れた、御手洗公園だった。
人はまばらで、ジョギングの人や、噂話のステディな奥様たちがいるのみである。
「私も、ファームの仲間になっちゃったね」
理科はそうだね、と頷く。自分がファームに参加するのにあんなに勇気が必要だったのに、ちはるはあっさりと決断できる。これも私とちはるの才能の差なんだろーなぁ、とちょっと心持ち自分が情けなくなる。私、お姉ちゃんとしてダメなのかな……。
そんな理科の心の揺れ動きには気づかず、ちはるはとても嬉しそうだ。ゾウのかたちをしたすべり台まで駆けていって、滑ってみせる。それからブランコへ。理科もついていって、二人並んでブランコを揺らす。
「お姉ちゃん、私たち、子供の頃にこうやって遊ぶコトなんてなかったよね」
急に何を言い出すのか、と理科は焦ったが、それを表には出さないように平然を装う。
「そうだね」
「私とお姉ちゃん、……それから、美菜子」
「うん」
「美菜子も成長してたら、みっしーみたくなってたりしてね」
「あはは」
「私、今の生活に、満足してるよ。こんなに楽しい気分、生まれて初めてかも。だから、バイトなんて、見つけるのはゆっくりでいいんだよ」
「いや、それは」
「姉妹で生活なんて、まるで夢のよう。美術の世界も楽しそうだし、美術のこの街も好き。菊屋横町の変な人たちや、みっしーや、ファームのみんな。日和ちゃんやバツ子にも、直に会えるし……、申し分なんてないよ。自閉的な私をお姉ちゃんにここまで連れてきてもらって、こうして暮らして、…………私、私……」
ブランコを揺らしながら、ちはるの瞳に涙がたまっていく。理科は自分のブランコを止め、ちはるを静かに見据える。
この姿は、私自身の姿でも、あるんだわ。お礼を言いたいのは私の方よ、ちはる。
しかし、口には出さない。理科は静かに、愛おしく、ちはるをただ、見た。
ちはるもブランコを止める。目をこすり、無理に笑う。
悲しいストーリーはもう終わりにしよう。
理科は決意する。
例え、私の命がもうそろそろ燃え尽きようとしていても。
ちはるには幸せな道を、歩んで欲しい。
みっしーがいる。ファームのみんなもいる。だから、だから。だから私がいなくなったとしても……。
いけない。なにを考えてるんだろ。私は、この命が消え去るその瞬間まで完全燃焼しないと。その姿を、ちはるに見せるんだ。そうすれば、ちはるの生きる糧になる、絶対!
理科は唇を噛みしめた。唇がちょっと痛くなったが、そんなの関係なしだ。
「ちはる」
理科はなにかを言おうとする。そのなにかはわからない。でもこころの底から、ちはるに感謝の言葉をなにか、ここで言わないといけないと思ったのだ。
「ちはる、私……」
「お、お姉ちゃん! う、後ろ!!」
「んん? なに?」
突然のスパーク音が、理科の背中で炸裂した。
同時に理科を襲う、激痛。
「し、しまっ……! スタンガンかッッッ!!」
飛びそうな意識の中、理科は背後を振り返る。
そこには先月現れた、キアヌ・リーブス姿の、田山馬岱の病院の関係者がいた。
あいつ、まだ院内政治にちはるを利用しようとしてるのか!
「クソがっ」
吐き捨てた理科の視界がブラックアウトする。
公園に、ちはるの絶叫が響き渡った。
家を出た理科はちはるの言うままに菊屋横町のスターバックスに入った。「へ~、こんな時間にもう開店してるんだ~」とか理科は言いながら、トールサイズのスタバラテを注文する。ちはるはアイスラテのショートサイズ。テイクアウトで店を後にし、外で飲みながら歩く。しかしちはるは珈琲が好きだな、と思う。
その後も色々寄り道をする。と言ってもまだ朝早いので、店などはほとんどやっていない。コンビニや出勤のサラリーマン相手の書店などをひやかす程度だ。
そして自然の流れで、公園へ。着いた公園は昨日ファームで訪れた、御手洗公園だった。
人はまばらで、ジョギングの人や、噂話のステディな奥様たちがいるのみである。
「私も、ファームの仲間になっちゃったね」
理科はそうだね、と頷く。自分がファームに参加するのにあんなに勇気が必要だったのに、ちはるはあっさりと決断できる。これも私とちはるの才能の差なんだろーなぁ、とちょっと心持ち自分が情けなくなる。私、お姉ちゃんとしてダメなのかな……。
そんな理科の心の揺れ動きには気づかず、ちはるはとても嬉しそうだ。ゾウのかたちをしたすべり台まで駆けていって、滑ってみせる。それからブランコへ。理科もついていって、二人並んでブランコを揺らす。
「お姉ちゃん、私たち、子供の頃にこうやって遊ぶコトなんてなかったよね」
急に何を言い出すのか、と理科は焦ったが、それを表には出さないように平然を装う。
「そうだね」
「私とお姉ちゃん、……それから、美菜子」
「うん」
「美菜子も成長してたら、みっしーみたくなってたりしてね」
「あはは」
「私、今の生活に、満足してるよ。こんなに楽しい気分、生まれて初めてかも。だから、バイトなんて、見つけるのはゆっくりでいいんだよ」
「いや、それは」
「姉妹で生活なんて、まるで夢のよう。美術の世界も楽しそうだし、美術のこの街も好き。菊屋横町の変な人たちや、みっしーや、ファームのみんな。日和ちゃんやバツ子にも、直に会えるし……、申し分なんてないよ。自閉的な私をお姉ちゃんにここまで連れてきてもらって、こうして暮らして、…………私、私……」
ブランコを揺らしながら、ちはるの瞳に涙がたまっていく。理科は自分のブランコを止め、ちはるを静かに見据える。
この姿は、私自身の姿でも、あるんだわ。お礼を言いたいのは私の方よ、ちはる。
しかし、口には出さない。理科は静かに、愛おしく、ちはるをただ、見た。
ちはるもブランコを止める。目をこすり、無理に笑う。
悲しいストーリーはもう終わりにしよう。
理科は決意する。
例え、私の命がもうそろそろ燃え尽きようとしていても。
ちはるには幸せな道を、歩んで欲しい。
みっしーがいる。ファームのみんなもいる。だから、だから。だから私がいなくなったとしても……。
いけない。なにを考えてるんだろ。私は、この命が消え去るその瞬間まで完全燃焼しないと。その姿を、ちはるに見せるんだ。そうすれば、ちはるの生きる糧になる、絶対!
理科は唇を噛みしめた。唇がちょっと痛くなったが、そんなの関係なしだ。
「ちはる」
理科はなにかを言おうとする。そのなにかはわからない。でもこころの底から、ちはるに感謝の言葉をなにか、ここで言わないといけないと思ったのだ。
「ちはる、私……」
「お、お姉ちゃん! う、後ろ!!」
「んん? なに?」
突然のスパーク音が、理科の背中で炸裂した。
同時に理科を襲う、激痛。
「し、しまっ……! スタンガンかッッッ!!」
飛びそうな意識の中、理科は背後を振り返る。
そこには先月現れた、キアヌ・リーブス姿の、田山馬岱の病院の関係者がいた。
あいつ、まだ院内政治にちはるを利用しようとしてるのか!
「クソがっ」
吐き捨てた理科の視界がブラックアウトする。
公園に、ちはるの絶叫が響き渡った。