第25話
文字数 1,903文字
☆
パイナップルサンドの、具を挟んでいるトーストされたパンのパン屑をボロボロとこぼしながら、みっしーは「うまうま」とか言いながら食う。視線はテレビ。芸能ニュースなんぞを観ている。芸能人が結婚したり離婚したりと、毎日変わらないような内容が、そこでは語られる。
「ねえ、みっしー」
理科は話しかける。みっしーの目はテレビに固定されたままだ。
「なんでふきゃ、りふぁ」
口に食べ物を入れたままの状態で喋るみっしー。
「いや、口の中の物を咀嚼し終えたあとでいいから」
「ひょーでふか」
んがぐっぐっ、とサザエさんモードで飲み込んでからみっしーはテレビから理科へと目を移し、今度は珈琲を口に流し込む。
「あのさ、天界だの魔界だの、最近いまいちこの超展開についていけないんだけど」
「偉いです、理科。『天界』だけに『超展開』とはっ!」
「え? いや、はぁ?」
「そうですね、ここんとこ毎日あのクソ魔女のとこで修行してたみたいですしね、ちょっとばかりそこらへんを知っておくのもいいコトです」
理科とみっしーの会話をニコニコしながら聞いているちはるは、湯飲みで珈琲を飲んでいる。ちはるはなにを飲む時も家では湯飲みで飲むのである。
「お姉ちゃんとみっしーって、仲良いのね」
『ちっがーう!!』
仲良くユニゾンする理科とみっしーであった。
「ボクの所属する十王庁、他に天界と魔界というものがあってこそ、この人間が住んでる世界には均衡が保たれているのです。そのうち、それは『近いうちに』起こるらしいのですが、人間界の最後には神による『審判』が行われます。その時に、今まで死んだ人間全て、全員が生き返るらしいのですが、そこで人間が二組にわかれるらしいのです。それは『神の国』に入る人間と『存在が消滅する』人間とに、そう分かれるのですよ。そんでその神の国か、または神の国をつくる『天使』という奴らが住んでると目されるところが、『天界』です。一方、存在を消滅させる『魔界天使』と呼ばれる奴らが支配しているのが、魔界。また魔界は、存在が消滅するまで天界に入れなかった、堕ちた人間を痛めつけるとか、そういう噂もあります。まあ、天界と魔界は、そんなところです。そして、『審判の日』まで人の魂を預かっておくところが、『十王庁』であり、ボクはそこで魂を『あるべきカタチ』にする仕事をしているというわけです。ただ、十王庁の死神と天使や魔界天使とでは、属性が根本的に違うのです。天使というのは、『神の自動生成プログラム』でつくられた神の召使いアンドロイドみたいなものです。魔界天使の方は、その天使がバグって反乱を起こし、堕天されてしまった奴らです。どっちも、人間ではないのです。しかし、死神というものは死んだ人間で『適合』したものがその任を受けるのです。正直なところ、死神が審判の日、どうなるかなんてわかっちゃいないのですよ」
理科は一気に話すみっしーの言葉を真剣に聞き、みっしーが『人外の者』であるコトを再確認する。
……肺が、痛みだしてくる。なんで、こんな時に。
「なるほどねー。あ、みっしー、私ちょっとトイレに行ってくるわね」
「あいよ~」
返事を受け取り、理科はトイレに向かう。苦痛に満ちたその顔を、みっしーとちはるに見せないように、そそくさとトイレへ急ぐ。肺からの痛みが理科を襲う。気を抜けばそのままここで吐いてしまう。そうはならぬよう、心を引き締めて、理科はトイレへ向かう。
理科がトイレに行くため席を外してから、みっしーは思う。
……しかし特例で、審判の日まで、天界や魔界に魂を置かれる人間もいるのです。理科、あなたの魂は、その特例を使って必ずボクが天界に連れていってあげます。十王庁で死神になんて、ボクがさせません!
一方。
トイレで喀血する理科の目は、充血して真っ赤になっている。
どうして私はこうなんだろうか。自由を手に入れたのは、結局はなにかの間違いで、この生活は幻なんじゃないか、と思う。
幻想にしかすぎないのか、あれもこれも、この現実さえも!
畜生!!
喀血の量が日に日に増していく自分の身体を、理科は呪う。せっかくあのクソ親父からちはると二人で逃げ出すのに成功したっていうのに。ファームにだって、入ったっていうのに。あのステキパンダのグラフィティが、私を変えつつあるのに。なのにこんなのって……。
歯を食いしばり、充血した瞳を涙に濡らしながら、理科はファームではじめて一緒についていったグラフィティアートの活動を、思い出す。それが泡沫の夢でないコトを祈りながら。
パイナップルサンドの、具を挟んでいるトーストされたパンのパン屑をボロボロとこぼしながら、みっしーは「うまうま」とか言いながら食う。視線はテレビ。芸能ニュースなんぞを観ている。芸能人が結婚したり離婚したりと、毎日変わらないような内容が、そこでは語られる。
「ねえ、みっしー」
理科は話しかける。みっしーの目はテレビに固定されたままだ。
「なんでふきゃ、りふぁ」
口に食べ物を入れたままの状態で喋るみっしー。
「いや、口の中の物を咀嚼し終えたあとでいいから」
「ひょーでふか」
んがぐっぐっ、とサザエさんモードで飲み込んでからみっしーはテレビから理科へと目を移し、今度は珈琲を口に流し込む。
「あのさ、天界だの魔界だの、最近いまいちこの超展開についていけないんだけど」
「偉いです、理科。『天界』だけに『超展開』とはっ!」
「え? いや、はぁ?」
「そうですね、ここんとこ毎日あのクソ魔女のとこで修行してたみたいですしね、ちょっとばかりそこらへんを知っておくのもいいコトです」
理科とみっしーの会話をニコニコしながら聞いているちはるは、湯飲みで珈琲を飲んでいる。ちはるはなにを飲む時も家では湯飲みで飲むのである。
「お姉ちゃんとみっしーって、仲良いのね」
『ちっがーう!!』
仲良くユニゾンする理科とみっしーであった。
「ボクの所属する十王庁、他に天界と魔界というものがあってこそ、この人間が住んでる世界には均衡が保たれているのです。そのうち、それは『近いうちに』起こるらしいのですが、人間界の最後には神による『審判』が行われます。その時に、今まで死んだ人間全て、全員が生き返るらしいのですが、そこで人間が二組にわかれるらしいのです。それは『神の国』に入る人間と『存在が消滅する』人間とに、そう分かれるのですよ。そんでその神の国か、または神の国をつくる『天使』という奴らが住んでると目されるところが、『天界』です。一方、存在を消滅させる『魔界天使』と呼ばれる奴らが支配しているのが、魔界。また魔界は、存在が消滅するまで天界に入れなかった、堕ちた人間を痛めつけるとか、そういう噂もあります。まあ、天界と魔界は、そんなところです。そして、『審判の日』まで人の魂を預かっておくところが、『十王庁』であり、ボクはそこで魂を『あるべきカタチ』にする仕事をしているというわけです。ただ、十王庁の死神と天使や魔界天使とでは、属性が根本的に違うのです。天使というのは、『神の自動生成プログラム』でつくられた神の召使いアンドロイドみたいなものです。魔界天使の方は、その天使がバグって反乱を起こし、堕天されてしまった奴らです。どっちも、人間ではないのです。しかし、死神というものは死んだ人間で『適合』したものがその任を受けるのです。正直なところ、死神が審判の日、どうなるかなんてわかっちゃいないのですよ」
理科は一気に話すみっしーの言葉を真剣に聞き、みっしーが『人外の者』であるコトを再確認する。
……肺が、痛みだしてくる。なんで、こんな時に。
「なるほどねー。あ、みっしー、私ちょっとトイレに行ってくるわね」
「あいよ~」
返事を受け取り、理科はトイレに向かう。苦痛に満ちたその顔を、みっしーとちはるに見せないように、そそくさとトイレへ急ぐ。肺からの痛みが理科を襲う。気を抜けばそのままここで吐いてしまう。そうはならぬよう、心を引き締めて、理科はトイレへ向かう。
理科がトイレに行くため席を外してから、みっしーは思う。
……しかし特例で、審判の日まで、天界や魔界に魂を置かれる人間もいるのです。理科、あなたの魂は、その特例を使って必ずボクが天界に連れていってあげます。十王庁で死神になんて、ボクがさせません!
一方。
トイレで喀血する理科の目は、充血して真っ赤になっている。
どうして私はこうなんだろうか。自由を手に入れたのは、結局はなにかの間違いで、この生活は幻なんじゃないか、と思う。
幻想にしかすぎないのか、あれもこれも、この現実さえも!
畜生!!
喀血の量が日に日に増していく自分の身体を、理科は呪う。せっかくあのクソ親父からちはると二人で逃げ出すのに成功したっていうのに。ファームにだって、入ったっていうのに。あのステキパンダのグラフィティが、私を変えつつあるのに。なのにこんなのって……。
歯を食いしばり、充血した瞳を涙に濡らしながら、理科はファームではじめて一緒についていったグラフィティアートの活動を、思い出す。それが泡沫の夢でないコトを祈りながら。