第42話

文字数 1,590文字

    ☆



 人垣人垣人垣。四方八方を取り囲む、白い光をまとった『エンジェル様』の大群。その円陣の真ん中に位置する二人の人物。一人は人垣と同じふわふわしたローブをまとったエンジェル様、つまり、エンジェル・ジャクソン。そしてもう一人は、死神少女・みっしー。
 二人は対峙していた。
「Oh、なんでみっしーはおれの邪魔ばかりするんだヨ」
「うるさいこの自動人形(オートマトン)!」
「それハ違うヨ。今のおれはオートマトンじゃない。神に逆らいし、叛逆の徒。自分の意志で動いてるんだヨ」
「自分で動くならば、その脳みそでよく考えるといいですよ? お前のやってるコトは全くのナンセンスです。魔界天使どもにいいように操られてるだけです。なぜそれがわからない? 魔界と天界がドンパチするその実態はお前の叛逆とクソ筆王の無謀な計画だってのがわかった時の虚脱感っていったらもう、この世のものとは思えないです」
「筆王様をディスるのはやめたマエ! 筆王様は偉大な計画をお立てになったのダヨ。『ネオ竹林七賢図計画』という、美術の街にふさわしい最高のプランを!」
「なんですか、それは?」
「オーマイガ! 知らないでおれに楯突こうとしたのカヨ。信じられナイヨ」
「信じられないのはお前のこの愚行です!」
「竹林七賢図計画というのは、七人のアーティストを絵画の中に閉じ込めて永久的にアート活動をさせる、というものダッタンダ」
 周りを取り囲むエンジェル様たちがニヤニヤとみっしーを嘲笑っている。みっしーは不愉快に感じたが、たぶんこれは心理的に自分を追い詰めるための演出なのだろうと思い、その挑発に乗らないように心を静め、ジャクソンを睨んだまま動かない。
「それに比べネオ竹林七賢図計画とは、魔界をこの街に召喚させ、なおかつそれを維持させ、この世を魔界の支配下に置くプランだヨ」
 くくく、とジャクソンは笑う。その笑みは今までのジャクソンの笑みと違い、邪悪な暗みを帯びている。
「今日『島』に集まったこの街の人々の、おれの魔法の光の矢と、筆王様のお力で死んでいった者の魂でこの術式を駆動させる。この『島』でまだ生き残っているみんなは、術式で召喚させた地獄の獄卒の力で絵画を無理矢理描かせる。その『美術=魔術』の力を永久機関とさせ、魔界を維持、そして魔界の拡張を促進させる、というものが『ネオ竹林七賢図計画』なのダヨ。日和もこれには歓ぶハズサ、ずっと、死ぬまで、いや、死んでもずっとずっと絵を描き続けるコトができるんだからネ」
「ジャクソン、おまえ、本当にそれで日和が幸せになるとでも思っているのですか?」
「愚問ダヨネ! ダヨネ!! お笑いぐさダヨネ、みっしー。アーティストはアートできればそれだけがしあわせナンダヨ! それにあやかっておれたちはその力でこの世界を征服する。征服すれば、それは世界にとってアートの勝利ナンダヨ!? 美術という魔術の支配する世界、まさに世界の再魔術化サ!!」
「どうやら……」
 みっしーは逆手に持つハネムーンスライサーの刃を足で蹴り上げ、それを構え直す。「これ以上のトークは無意味ですね。どうもおまえは心を蝕まれているようです」
 周りを取り囲むエンジェル様たちは直立不動、その中で一人だけ動く円の中心のジャクソン本体が、口から禍々しい牙をむき出しにする。牙まで生えてるなんて終わってますね、とみっしーはため息。
 この戦い、負けるわけにはいかないようですね、と唇を噛みしめ。
「容赦はしないですよ!?」
「I'm lovin' it!」
 大勢のエンジェル様が眺める中。
 みっしーは足を踏み込み、ハネムーンスライサーを振りかぶりつつジャンプする。
 そしてジャクソンもまた、牙で噛みつくべく飛び跳ねた。
 そして二人の最後の戦いが、始まった。

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登場人物紹介

田山理科:ちはるの姉。絵描き。戦う武器はペインティングナイフ。

田山ちはる:田山理科の妹。優しいけど怒ると怖い一面も。自分の姉の理科のことが好き。

みっしー:死神少女。田山姉妹の住んでる部屋で居候をしている。武器は縁切りの大鎌〈ハネムーン・スライサー〉。ハネムーン中に離婚させるほどの威力を持つ。大鎌は刃物なので、普通に危ない武器。

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