第33話

文字数 1,206文字

   ☆


 コタツから眺める世界地図。このキラキラ輝く星空が、世界の地図だ。みっしーは暗い部屋で一人、開け放たれた窓から、星で出来た美しい空を眺めている。もしかしたら、理科は明日以降の星空を見れなくなるかもしれないのだ。死を思うとき、ひとは優しさと悲しい気持ちがない交ぜになる。
 今日、死神長から「明日、理科は死ぬ」と伝えられた。自分の役割、理科の縁を断ち切ってきれいな魂にするというミッションを実行しないみっしーはとても怒られた。当然の話では、ある。
 ボクは理科の敵であるべきなのです。縁なんて全部断ち切ってしまえばいいのです。死んだ時に誰も悲しまない、そんな存在にしてしまえばいいのです。
 だが、みっしーには理科の縁を断ち切るコトが、できない。
 ボクは……、ボクは死神失格です。
 だからみっしーはみんなが寝静まった夜中、一人で星を見る。お月様も妖艶な姿を見せている。流れ星だって見逃さない。窓から吹き込む冷気とコタツのぬくもりが、みっしーの中で交差する。
 優柔不断。これはきっと理科の性格が移ってしまったのですね。そう、ボクのお姉ちゃんから妹のボクに、優柔不断が移ってしまったのです。だって、姉妹ですもん。
 明日は三月の第二金曜日。金太フェスの日。金太フェスの事務所から連絡があって、理科は金太フェスのアートバトル『無茶振り決戦マジ巌流島』決勝戦に進めるコトに決定した。決勝戦で理科は即興でアートするコトになる。
 今の理科の身体では負荷がかかりすぎます。だから理科は肺病病みで死ぬコトになるのですね。ボクとちはるは解説者席で応援するコトになります。今回のバトルでは、実況に日和とバツ子、よくわからないがダンスとかいうのに牛乳、解説にぱせりんとボクと、ちはるという、ファーム総出演で臨むコトになっているです。解説にはその他に筆王の息子、半熟王子も列席するですよ。
 それからジャッジメントには、……筆王。
 どの面さげて筆王はボクの前に姿を現すのか。筆王だって、ボクが他の誰でもなく、田山美菜子だと知ってるだろうに。不愉快きわまりないです。でも、今は筆王に構ってるわけにはいかないのです、奴が危険人物だとしても。理科を、ボクは明日最優先しなければならないのですから。
 天界と魔界がドンパチを始める? 魔界が筆王を使おうとしている? それがなんですか! ボクは、自分のお姉ちゃんを優先させます。当たり前です。
 みっしーは頬杖をついて、星で出来た美しいきらめきの世界地図を見る。世界、宇宙の地図を。空一面に広がるこの壮大な天球図を。
 北斗七星が、みっしーは好きだった。
 ああ、確か北斗七星は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも登場するんでしたっけ。大熊座。……はて、どんな挿話でしたっけね。
 みっしーはずっとコタツから空を眺める。こんなセンチメンタル、理科には見せられないと苦笑しながら。
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登場人物紹介

田山理科:ちはるの姉。絵描き。戦う武器はペインティングナイフ。

田山ちはる:田山理科の妹。優しいけど怒ると怖い一面も。自分の姉の理科のことが好き。

みっしー:死神少女。田山姉妹の住んでる部屋で居候をしている。武器は縁切りの大鎌〈ハネムーン・スライサー〉。ハネムーン中に離婚させるほどの威力を持つ。大鎌は刃物なので、普通に危ない武器。

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