第43話

文字数 2,488文字

   ☆


「あー、転移護符が残り一枚になってしまったぱせ。この護符の生成にどれだけの費用と労力がかかるかコトか、誰かわかって欲しいぱせよ。……まあ、でも人知れず活動するのが我々魔女なのぱせが。うー、なんかムカつくぱせねぇ~」
 雀孫神社の鳥居の下の階段に腰を下ろし、膝に千鶴子の頭を載せて、ぱせりんは手に持つ『転移護符』の残り一枚を見る。
 転移護符とは要するに、瞬間移動を行うコトができる御札のコトである。一枚につき一回しか使えない。この護符のような『魔術』の行使を、世界のバランスを崩すのを『基本的に』良しとしないぱせりんは普段は使わないのであるが、今回はやむなしと判断した。というよりもそもそもぱせりんは筆王と一緒に世界を覆そうともくろんでいた魔女なのだ。こういう時はなんでも使う。それが魔女の生きる道だし。
 ぱせりんは転移護符でここまで来た。神社という場所は重要なトポスであり、いくら筆王といえどもここを攻撃するコトはないだろうという算段での逃げ場所の指定であった。そしてその判断は的確であった。神社は攻撃されていない。
まだ『島』あたりで、筆王の力は動いているのだろう。とはいえ、地震は来たらしく、建物は過多萩一帯、神社を抜かしてほぼ壊滅状態である。
「四神相応を使った今回の急なミッション。成功するかしないかはフィフティフィフティぱせね」
 四神相応。それは特殊な地形を持つ土地のコトを言う。
 東に青龍の住む流水があり、南に朱雀の遊ぶ沢畔があり、西に白虎の走る大道があり、そして北に玄武を象徴する高山がある地形のコトを、四神相応と呼ぶのだ。
 過多萩市は偶然それに対応した土地であり、東に獣王川が流れ、南に海と大きなビーチを持つ『島』があり、西に国道、北は雀孫神社のある過多萩山がある。まさに、四神相応。
 ぱせりんはそこで、その四神、つまり四体の聖獣を利用し、筆王の術式の鎮圧を計ろうと思ったのである。筆王はたぶんこの四神をも召喚し、我が物として魔界召喚に利用する気なのだろうが、ぱせりんはその四神のいる場所それぞれにファームの面々を配置、四神の絵画を祈祷のように描かせ、四神を味方にし、筆王の暴走を葬り去ろうとしたのである。それが、この四神相応のミッションである。
「上手くいくコトを願う、か……」
 美術講師といえども絵画創作の能力が皆無のぱせりんは、ここでこうしているしかない。それは歯がゆいコトであったが、仕方ない。ぱせりんは天に任せ、こうして神社の鳥居で結果待ちをする。時間が長く感じたが、任せるのもまた信頼の内である。ぱせりんはため息をついた。
 と、そこへ電気のような爆ぜる音が炸裂した。
 なにもない空間にいきなり現れたのはちはるである。
「到着~」
 着いたと同時にそう言い、千鶴子の姿を確認、その後、すぐにその場に倒れ込む。
 ぱせりんはちはるが光の矢がもたらした千鶴子の捕らわれた電脳空間に『没入』するその事前に転移護符を渡していたのであった。ちはるは、その護符の力でここまでテレポートしてきたのである。
 ちなみにファームの面々と犬子に渡した護符も各々一枚のみ。行きだけの分だ。帰りは歩いて神社前に集合というコトになっている。ぱせりんはまさかこんなに護符を使うとは思っておらず、一人に一枚渡すのが精一杯だったのである。
 四神相応。
 東には犬子、南には理科、西には牛乳、そして北にはバツ子と日和を向かわせた。バツ子と日和が二人で一カ所というのは、四神は精神攻撃してくるから、小学生には荷が重いだろうという配慮からである。
 そして今、千鶴子の陥った『データ・シャドウ』を打ち破ったちはるが、到着した。まずは一勝。戦いはこれからだ、とぱせりんは思った。
「むにゅー」
 ちはるは息を大きく吐いて、それからそのまま眠りにつく。寝るというのは周りなんてもうどうでもいいくらい精神を集中させたからだろう。
「ちはるちゃん、ごくろうさま」
 ぱせりんはちはるをねぎらった。
 しばらく静寂が続くと、また電気が爆ぜる音。今度はなにぱせ、と思ったら、現れたのはみっしーであった。みっしーには護符を渡していない。よって現れたのは死神の能力で、である。
 みっしーは満身創痍、こちらも今にも眠ってしまうであろうほどの消耗振りである。
「来たというコトは、ライバル対決に勝ったというコトぱせね」
「愚問です、クソ魔女」
 着いた途端、足下がふらつき、みっしーは転んでそのまま地面を全身でスライディングして倒れた。
「もう休むぱせよ、みっしー」
「クソ魔女はホントクソですね」
「まだ悪口吐けるなら大丈夫そうぱせね。お疲れ様」
 また一勝。これで二勝目だ。勝てるカモ、とぱせりんは踏んだ。しかし、一番の山は四神相応。みんな、大丈夫だろうか。
 倒れたみっしーは地面に手を突き、フラフラしながらも起き上がる。
「わかったんですよ」
「なにが?」
「理科が今日、死ぬ理由が」
「はい?」
 ぱせりんには意味がわからない。理科が死ぬ? なに言っちゃってんのかしら、ぱせぱせ。
 しかし、みっしーは自分に言い聞かせるために喋っていて、ぱせりんに言葉を理解してもらう気はないようだ。
「少女不十分な理科が簡単に病魔に冒され果てるわけがないです。つまりですよ」
 みっしーはふらつく足取りでぱせりんに近づく。
「ボクのテレポートは使用回数の限度があと一回しかないのです。だから魔女、おまえの残りの護符をくれ、です」
 手を差し出すみっしー。
 よくわからないけど、どうも切羽詰まってるらしいと判断。護符最後の一枚を、みっしーに渡した。
「ブーブー言わずにくれてありがとです。それじゃボク、行ってくるです」
「どこへぱせか」
「死神としての目的を果たしに」
 そして転移護符を貰ったみっしーは、自分の能力を使い、瞬間移動して去って行った。
 そこにはまた、静寂が生まれ、ぱせりんは自分が蚊帳の外にいるような中心に位置するような、不思議な感覚を味わったのだった。

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登場人物紹介

田山理科:ちはるの姉。絵描き。戦う武器はペインティングナイフ。

田山ちはる:田山理科の妹。優しいけど怒ると怖い一面も。自分の姉の理科のことが好き。

みっしー:死神少女。田山姉妹の住んでる部屋で居候をしている。武器は縁切りの大鎌〈ハネムーン・スライサー〉。ハネムーン中に離婚させるほどの威力を持つ。大鎌は刃物なので、普通に危ない武器。

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