第45話
文字数 2,198文字
☆
「完成!」
それはまぐれながら、成功した。
祭壇横の最後に残った像が発光し、そして破壊された。
朱雀の絵を理科が完成させたコトにより、四神相応の術式が完成したのだ。
これにはわけがあった。
理科の描いた絵。これは十二色の線や飛沫で構成されたオールオーヴァの絵画である。
ポイントはこの配色である。
これは『ロータス・ワンド』と呼ばれる魔法の杖の十二種の彩色と同じだったのである。
この十二色は、黄道十二星座の象徴的な彩色理論に由来していて、理科はその理論に定義された彩色を、この祭壇の壁面にぶちまけたのだ。
全くの、偶然。
理科は、運がよかった。
「やった……わね」
理科はまた喀血する。
緊張が解けたからかもしれなかった。
今度は思う存分吐いて、吐いて、吐き出して、心の澱も全部吐き出した。
目眩が襲ってきたので、そのまま仰向けになり、自分の吐いた血の中に、倒れ込む。
四神相応の効果で、島の炎は鎮火されていた。たぶん、他の場所も同様だと、理科は断じたし、それは実際その通りなのであった。
「私、もうそろそろ死ぬのかなぁ」
理科は口元の血を服で拭く。
「ちはる……、美菜子……」
仰向けのまま目に腕を当て、目隠しにする。
理科にはもう、起き上がる気力なんて残っていなかった。無理矢理にならば起きるコトはできるだろうが、起き上がる意味なんて見いだせそうになかった。
そこに。
空間がバチリという音で爆ぜ、少女が現れた。
現れた少女は、死神少女・みっしーだった。
みっしーは周囲にみずたまりのようになって広がっている血に一瞬ひるんだが、気を引き締める。そうです、理科は病魔では死にません。
「理科」
「ああ、みっしー。やったわ、私。結構格好いいでしょ」
「お見事です。ただのバカ姉というわけではないですね」
「ありがと」
「しかし、時間がありません」
「時間? え、まだ終わってないの?」
「そうです、だからちょっと立ち上がるです」
「え~?」
「いや、ボケてる場合じゃないんですよ」
「わーったわよ」
理科は痛い身体を動かし、起き上がる。みっしーを見ると、みっしーの方も服がボロボロだ。どうやらみっしーも戦ってたようね。そう思うと連帯感が生まれそうだったが、どうやら歓んで語り合って連帯感を得られるような状況ではなさそうだ。
理科は立ち上がる。立ち上がり、息を吐く。身体が痛い。理科の服には自分の血がべっとりと染み付いている。血って、洗ってもなかなか取れないのよね。そんなコトを思った。
みっしーは手を天にかざす。
「現前せよ、ハネムーンスライサー!」
死神の大鎌を出現させ、構えるみっしー。理科には意味がさっぱりわからない。のーみそにはてなマークが浮かぶ。
「理科が今日、死ぬ。これは十王庁公認なほどの必然なのです。ですが、この運命は変えられるのです。死ぬ理由。それは、この事件に巻き込まれて死ぬというコト。わかりますか、理科」
「わからないわよ」
「大きな地震がありましたよね」
「うん、あった」
「そしてここは埋め立て地の、しかも浜辺の近くです」
「んん? うん、そうだね」
「つまり……」
みっしーが喋るその最中。轟音が響き渡る。ああ、音がまた。仰々しい音ばかりの日だわね、今日は。半ばその展開にウンザリしながら理科が音の方を見ると。
大きな、この校舎の屋上にまで到達する大きな波が、迫り来ていた。
「な! 波?」
「そう、地震の後には津波が襲ってくるのです。理科は、ここで津波に巻き込まれ、死ぬのです」
「は? なに言ってんの! 逃げるわよ!」
「どこへ逃げるのです」
「どこって……、あー、無理! ここ、屋上だもん!」
「これは天界魔界十王庁のドンパチに巻き込まれて、というのがミソです。よって……」
みっしーは言葉を句切り、大鎌を理科に向けて袈裟斬りにする。
理科にその斬撃は右胸から左腰までにかけて斜めにヒットし、その痛みに理科は屈んで呻く。
「ボクと理科の縁を大鎌で斬りました。もう二人は無関係。十王庁とも無関係。なので理科、あなたは死にません!!」
「ちょっ! もうちょっと上手く説明しなさいよ、阿呆!」
屈んで斬られた痛みに耐える理科に、みっしーはぱせりんから貰った転移護符を貼り付ける。
ハネムーンスライサーの斬撃の傷跡が光り始め、縁を断ち切り始める。
転移護符も光りだし、理科の全身を包み込む。
「神に逆らいますよ、ボクは。……理科、毎朝三人でわいわい食べるパイナップルサンドは最高においしかったです。理科の作品のタイトル、パイナップルサンドで良かったのかもしれませんね」
斬られた胸の部分を手で押さえながら、理科はみっしーに、言う。
「いつでも食べられるわよ、これからだって! みっしー、一緒に帰ろう!」
みっしーはにしし、と笑う。
「そんな台詞、理科から聞けるなんて思いませんでした。
……さよなら、お姉ちゃん」
そして、津波が押し寄せ、学園の校舎を飲み込み、建物を完膚無きまでに叩き壊した。
理科は転移護符で自動的にテレポートし、みっしーは津波に巻き込まれたのであった。
理科が見たみっしーの最後の表情は。
これでもかというくらい、笑顔だった。
「完成!」
それはまぐれながら、成功した。
祭壇横の最後に残った像が発光し、そして破壊された。
朱雀の絵を理科が完成させたコトにより、四神相応の術式が完成したのだ。
これにはわけがあった。
理科の描いた絵。これは十二色の線や飛沫で構成されたオールオーヴァの絵画である。
ポイントはこの配色である。
これは『ロータス・ワンド』と呼ばれる魔法の杖の十二種の彩色と同じだったのである。
この十二色は、黄道十二星座の象徴的な彩色理論に由来していて、理科はその理論に定義された彩色を、この祭壇の壁面にぶちまけたのだ。
全くの、偶然。
理科は、運がよかった。
「やった……わね」
理科はまた喀血する。
緊張が解けたからかもしれなかった。
今度は思う存分吐いて、吐いて、吐き出して、心の澱も全部吐き出した。
目眩が襲ってきたので、そのまま仰向けになり、自分の吐いた血の中に、倒れ込む。
四神相応の効果で、島の炎は鎮火されていた。たぶん、他の場所も同様だと、理科は断じたし、それは実際その通りなのであった。
「私、もうそろそろ死ぬのかなぁ」
理科は口元の血を服で拭く。
「ちはる……、美菜子……」
仰向けのまま目に腕を当て、目隠しにする。
理科にはもう、起き上がる気力なんて残っていなかった。無理矢理にならば起きるコトはできるだろうが、起き上がる意味なんて見いだせそうになかった。
そこに。
空間がバチリという音で爆ぜ、少女が現れた。
現れた少女は、死神少女・みっしーだった。
みっしーは周囲にみずたまりのようになって広がっている血に一瞬ひるんだが、気を引き締める。そうです、理科は病魔では死にません。
「理科」
「ああ、みっしー。やったわ、私。結構格好いいでしょ」
「お見事です。ただのバカ姉というわけではないですね」
「ありがと」
「しかし、時間がありません」
「時間? え、まだ終わってないの?」
「そうです、だからちょっと立ち上がるです」
「え~?」
「いや、ボケてる場合じゃないんですよ」
「わーったわよ」
理科は痛い身体を動かし、起き上がる。みっしーを見ると、みっしーの方も服がボロボロだ。どうやらみっしーも戦ってたようね。そう思うと連帯感が生まれそうだったが、どうやら歓んで語り合って連帯感を得られるような状況ではなさそうだ。
理科は立ち上がる。立ち上がり、息を吐く。身体が痛い。理科の服には自分の血がべっとりと染み付いている。血って、洗ってもなかなか取れないのよね。そんなコトを思った。
みっしーは手を天にかざす。
「現前せよ、ハネムーンスライサー!」
死神の大鎌を出現させ、構えるみっしー。理科には意味がさっぱりわからない。のーみそにはてなマークが浮かぶ。
「理科が今日、死ぬ。これは十王庁公認なほどの必然なのです。ですが、この運命は変えられるのです。死ぬ理由。それは、この事件に巻き込まれて死ぬというコト。わかりますか、理科」
「わからないわよ」
「大きな地震がありましたよね」
「うん、あった」
「そしてここは埋め立て地の、しかも浜辺の近くです」
「んん? うん、そうだね」
「つまり……」
みっしーが喋るその最中。轟音が響き渡る。ああ、音がまた。仰々しい音ばかりの日だわね、今日は。半ばその展開にウンザリしながら理科が音の方を見ると。
大きな、この校舎の屋上にまで到達する大きな波が、迫り来ていた。
「な! 波?」
「そう、地震の後には津波が襲ってくるのです。理科は、ここで津波に巻き込まれ、死ぬのです」
「は? なに言ってんの! 逃げるわよ!」
「どこへ逃げるのです」
「どこって……、あー、無理! ここ、屋上だもん!」
「これは天界魔界十王庁のドンパチに巻き込まれて、というのがミソです。よって……」
みっしーは言葉を句切り、大鎌を理科に向けて袈裟斬りにする。
理科にその斬撃は右胸から左腰までにかけて斜めにヒットし、その痛みに理科は屈んで呻く。
「ボクと理科の縁を大鎌で斬りました。もう二人は無関係。十王庁とも無関係。なので理科、あなたは死にません!!」
「ちょっ! もうちょっと上手く説明しなさいよ、阿呆!」
屈んで斬られた痛みに耐える理科に、みっしーはぱせりんから貰った転移護符を貼り付ける。
ハネムーンスライサーの斬撃の傷跡が光り始め、縁を断ち切り始める。
転移護符も光りだし、理科の全身を包み込む。
「神に逆らいますよ、ボクは。……理科、毎朝三人でわいわい食べるパイナップルサンドは最高においしかったです。理科の作品のタイトル、パイナップルサンドで良かったのかもしれませんね」
斬られた胸の部分を手で押さえながら、理科はみっしーに、言う。
「いつでも食べられるわよ、これからだって! みっしー、一緒に帰ろう!」
みっしーはにしし、と笑う。
「そんな台詞、理科から聞けるなんて思いませんでした。
……さよなら、お姉ちゃん」
そして、津波が押し寄せ、学園の校舎を飲み込み、建物を完膚無きまでに叩き壊した。
理科は転移護符で自動的にテレポートし、みっしーは津波に巻き込まれたのであった。
理科が見たみっしーの最後の表情は。
これでもかというくらい、笑顔だった。