アウトヘーベン

文字数 557文字

    
 初夏のあじさい色の空に残雪の白い峰が三つ並んで見える。
 その手前、翼を広げて旋回する大型の鳥影。

 今、荷物満載の貨物自動車から降り立った娘が、呆けて空を見上げている。

「嬢ちゃん、どうした?」

「あ、はいっ、どうも、ありがとうございましたっ」
 娘は慌てて襷(たすき)掛けにした鞄から銀貨を摘まみ出し、背伸びして運転手に渡した。

「まいど」
 運転手はビジネスライクに受け取ってポケットに仕舞う。
 この辺りでは長距離貨物の運転手に交渉して相乗りさせて貰うのは通常で、運転手にしたらいい小遣い稼ぎになっている。
(しかしこんな子供みたいな娘っコは珍しいな)

「ねえお兄さん、あれ、鷹だと思う? ワシだと思う?」
「さぁ、鳥は鳥じゃねえかな」 
「そう……そうですよね。じゃ、お元気で」
「ああ、嬢ちゃんもよい旅をな」 

 自動車と別れ、娘はパンパンの背のうを持ち上げ直して肩に掛けた。
 目の前の麓街は、入り口から色とりどりの人種でごった返している。

『アウトヘーベン』
 洒落た名前のこの街は、東西の物流の中継地点。遠来の商人たちだけでなく、周囲の豊かな山や森に暮らす古い部族の交易場所としても栄えている。

「とりま、今夜の寝場(ねっぱ)を確保確保っと」 
 古ぼけたキャスケット帽を被り直して娘は、初めての街への第一歩を踏み出した。







 
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登場人物紹介

ネリ: ♀ 草原の民 クリンゲルの街の中等学生 香辛料屋の娘。

歴史と書物が大好き。高所恐怖症、運動神経は壊滅的。

先頭に立ちたくないのに、誰も前に出ない時、仕方なく引き受けてしまう貧乏くじタイプ。

シュウ: ♂ 草原の民、クリンゲルの街の中等学生。貴族系富豪の一人息子。

学業優秀、理論派。一族の束縛に反抗心はあるが、家を守る義務感は持っている。

常にリーダーにおさまり、本人もそれが自然だと思っている。

ルッカ: ♂ 草原の民 クリンゲルの街の中等学生 シュウとは幼児からの親友。

蹴球(サッカー)小僧。大人にも子供にも好かれるコミュ力おばけ。

皆の接着剤的役割、そしてそれを自覚している。

キオ: ♂ 草原の民 クリンゲルの街の中等学生。町外れの牧場の子。

地味で無口。学校では空気のような存在。

一見気遣いタイプだが、己の信念はぜったいに曲げない。

チト: ?? 蒼の妖精 修練所の学生 ネリたちと同い年。

長様の執務室で小間遣いのバイト中。長さま大好き。

容姿が可愛い自覚あり。己の利点を最大限に生かして、賢く生きたいと思っている。

セレス・ペトゥル: ♂ 蒼の妖精 当代の蒼の長

長の血筋の家に生まれ、成るべくして蒼の長になった。実は一番面倒臭いヒト。 

ハールート: ♂ 草原の民 クリンゲルの街はずれの牧場主、キオの父親。

過去を洗うと埃と灰汁がバンバン出て来る闇歴史の持ち主。義理堅くはある。

キトロス博士: ♀ 三章『カラコーの遺跡にて』に登場。

考古学者。豪快で大雑把な現実主義者。

マミヤ: ♀ 『カラコーの遺跡にて』に登場。

キトロス博士の助手。この世のすべての基準がキトロス博士。


ツェルト族長: ♂ 『カラコーの遺跡にて』に登場。

キトロス博士の幼馴染。神経質でロマンチストな医者。

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